DVD7巻のピクチャードラマネタです。
一応16Rということになっていますが、ちょーぬるいです。
というか、これからというところで終わってます。





『ハイヒールとドレスと騎士と姫君』


 今年の男女逆転祭りは最悪だとルルーシュは思う。
 女装だけでもどうかと思うのに、内面まで成りきれとはこれいかに。ナナリーのためとはいえ、いや、ナナリーのためでなければ、誰がこんな……。
「皆見てるよ、ルルーシュ」
「見られてるのは、スザク、お前の方だろう」
 自分は二度目だがスザクはニューフェイスだ。しかも似合っているうえ、セーラー服にミニスカートときている。おまけにナマ足という気前の良さ。目立つに決まっている。
 即座にルルーシュは言い返すが、言われた当人は気にもしていないらしい。ルルーシュの言葉を社交辞令か何かだと思っているらしく、あっさり聞き流した。
「ルルーシュの方だって。だって、すごい美人だもん」
 ぐっとルルーシュは言葉に詰まった。
「コメントに困る誉め方をするなとあれほど」
「だって本当のことだよ?」
 顔を覗き込み、しれっとそんなことを言うスザクの目が笑っていない。
 真顔で言うな、真顔で!
「――ほんとうのことでもだ!」
 動揺して真赤になったルルーシュは、つんと横を向いたところで裾を取られ、素っ頓狂な声をあげた。
「はうあぁあっ」
 長いドレスの裾を踏み、つんのめりになる。
 ルルーシュはどちらかといえば――いや、明らかに肉体派ではなく頭脳派だ。
 身体が受身を取るより先に、頭が読みの甘さを指摘する。
 ここは階段の上だ。ジョージアン・スタイルの学園は無駄に天井が高い。当然、階段も長くできている。走馬灯のように己の迂闊さを呪う反省文と、この事態を回避する策が十数通り頭の中を駆け巡るが、いかにルルーシュの頭が良くても、階段から落下というシンプル且つ一瞬の事態にはあまり役に立たないようだった。
 落ちる―― 
「――危ないっ」
 ルルーシュが転倒を覚悟したとき、何かが腰を掴んだ。
「大丈夫? ルルーシュ」
「あ、ああ。すまない」
 スザクの腕がドレスに包まれた腰に回されている。ほっとしたようにルルーシュを降ろしたスザクは、絡まった裾に視線を落とした。
「ドレスきれいだけど、裾には気をつけないと」
 ルルーシュは言い返した。
「裾さばきは完璧だ!」
「でもルルーシュ、さっきも何もないところで躓いてたじゃないか」
 息を整え、さらにルルーシュは反論した。
「問題は裾じゃない」
 そう裾であるはずがない。例え長かろうと邪魔であろうともだ。そちらの対策は万全にできている。もし問題があるとすればだ。
「問題は靴の方だ。だいたいドレスで隠れているのにハイヒールなど履く必要が――ツッ」
 止めていた足を再び踏み出した途端、ルルーシュはバランスを崩し、再びスザクの腕に抱きとめられることになった。
「……くじいてるみたいだね」
 ルルーシュの足元に跪き、裾から覗いた足を見てそう言ったスザクは、立ち上がるとおもむろにルルーシュに手を回した。
「ちょっと待て、スザク。お前、何をっ」
 スザクの手が膝の裏に回され、その状況から予想されるスザクの行動を八通りほど考えたところで、軽々とルルーシュは抱き上げられた。
「降ろせ、スザク」
「手当てしないと」
「たいしたことはないと言っている」
「無茶して癖になったらどうするのさ。甘く見て悪化させたらどうしようもないよ?」
「ひとりで歩けるっ」
 この体力ばか。
 軽々と抱き上げたまま保健室に向かうスザクに、ルルーシュは内心で悪態をつくが、もちろんスザクが気にするはずもない。
「貴婦人を守るのは騎士の役目だよ」
 なんてことを、さらりと言う。スザクにしがみ付きながら、ルルーシュは唸った。
「誰が貴婦人だ」
「じゃあ、姫君」
「余計悪いわ」
「ルルーシュ軽いね」
「お前が馬鹿力なだけだ」
「ちゃんと食べなきゃだめだよ」
「……お前、人の話を聞いてないだろう」
「君もね、ルルーシュ」
 ドレス姿のルルーシュ・ランペルージをセーラー服姿の枢木スザクが抱き上げて運んでいく。
 衆目の的であったのは言うまでもないことだった。



 保健室は無人だった。
「あれ、先生は?」
 ルルーシュをベッドに降ろし、スザクは部屋を見渡す。もうひとつのベッドもカーテンは開いているから、他に誰もいないようだ。
「男女逆転祭りに参加しているのだろう」
 部屋にいては誰にも見せることはできない。人目に晒してこその参加となる。当然、教師たちも例外ではなく、今頃はたのしく廊下を練り歩いていることだろう。
「勝手に薬探したらまずいよね、やっぱ」
 湿布とかでいいんだけどと言うスザクに、ルルーシュが答えた。
「湿布なら引き出しの中だ。勝手に持って行く生徒もいるから別にかまわないだろう」
 生徒たちは全寮制で薬局にも行けないせいか、危険の少ない薬は管理がゆるくできている。さすがに内服薬は市販のものでも鍵の掛かった棚にあるが、絆創膏や湿布は自己責任で扱えというところなのだろう。
 棚から湿布薬を見付けたスザクは、ベッドに腰掛けたルルーシュの足元に跪いた。それに合わせて、ルルーシュが少しドレスの裾を上げる。細く白い足が、ふくらはぎの半ばまで露わになった。
「いい? ルルーシュ」
 一応断ってからスザクはルルーシュの靴を脱がせた。足まで華奢にできているらしく、靴もさほど大きくはない。
「少し腫れてるね」
 スザクの指が、探るようにルルーシュの足首を辿る。踵を持ってゆっくりと回され、ルルーシュは顔を歪めた。
「ツッ」
「痛い? ルルーシュ」
「たいしたことはない」
 少し痛みが走ったが、たいしたことはない。そう答えたルルーシュは、あらぬ場所にスザクの息を感じて目を見張った。
「お前、何をしている」
「ここ赤くなってる」
 ドレスの裾から覗く、白い足首。露わになったその場所に、スザクがそっと唇を落とす。
「ばか。やめろ」
 こんなとき、スザクがルルーシュの言葉など聞いてくれるはずもなく。スザクは唇を指先に移すと、指で踵を探りながら、親指を口に含んだ。慌ててルルーシュは足を引くが、力でスザクにかなうはずもない。
「舐めるなっ」
「感じる?」
「感じてなど」
 いるはずがない。ただ驚いただけだとルルーシュは思う。
「でも顔赤いよ」
 誰のせいだと……!
 スザクの手のひらを、いまは違う場所に感じている。ルルーシュはスザクを睨み付けるが、スザクは意に介さない。乗り出したスザクの手が太腿をなぞるに至って、ルルーシュは文句を言った。
「こんなとこでサカるな……!」
 セーラー服越しにスザクの熱を感じるなんて、とんだ茶番だとルルーシュは思う。だいたいスザクはどうか知らないが、こっちはセーラー服姿の男に押し倒されているのだ。
「ごめん、ルルーシュ」
「いきなり触るな。……あっ」
 下着越しに指で触れられ、身体を竦めたルルーシュは、さらに指を奥に感じて声をあげた。


2007.7.28

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