『Strawberry Time』


 ケーキのいちごを取って、口許にもっていく。
 白い生クリームがついたまま差し出すと、いつもはマナーにうるさいアスランが、黙ってそれに歯を立てた。
「あ……」
 力加減がよくわからないから、アスランはうまく囓れない。生クリームで口の端を汚したアスランは、舌先で唇を舐め、次いでいちごごとキラの指を囓った。
「痛いよ、アスラン」
 言うと口許だけで笑んで、今度はキラの指を舐める。
「どうしたのさ?」
 いつもと違うよ?
 言いながら誘われたようにキラも笑う。
「うん……」
「うんって?」
「ぅん……」
 目もとが潤んだように見えるのは気のせいだろうか。間接照明のせいか、いつもより鈍く広がる瞳孔が、キラを映してゆるい光を弾いている。
 キラを映す碧と黒。その中に自分の姿を認めて、キラは折り曲げた人差し指を、アスランの唇に当てた。
「発情してるの?」
 笑いながら聞くと、まっすぐにキラを見つめる。
「……うん」
「素直なんだね」
 いつもは照れ屋で頑固なこの人が、素直にほしがってくれることはあまりない。
 どうした心境の変化だろう。そんなふうに思っていると、アスランが視線を少しそらして、口を開いた。
「たぶん」
「たぶん、なに?」
「うれしいんだと思う」
「何が?」
 聞くと、俯いたまま小さく笑った。
「お前といることが」
 アスランを驚かせたくて、内緒でカガリに話を付けてさらってきた。アスハ邸から有無を言わさず連れ出したのは、もちろんふたりきりの時間を作るためだ。
 では、そのかいがあったということだろうか。
 まるで猫がそうするみたいに、アスランが額をキラの手首にこすりつけて甘えてくる。ときどき見せるアスランのそうした姿は、普段が普段なだけに目に毒だ。
「いいの、そんなことして」
 知らないよと言うと、キラのいちばん奥まで届く指に歯を立てる。
「かまわない」
 言った目尻が発情している。
「知らないから」
 アスランがねだって囓ったその指で、ケーキのクリームをすくって唇にこすり付けた。
「ココとココにもね」
 首筋と鎖骨と耳の後ろと。アスランの感じやすいところに、甘いクリームを塗りつける。
「あ……」
「アスランの好きなようにしてあげるね」
 手にしたいちごを囓りながらそう言って、いちごごとアスランに口付けた。

2004.10.29

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