サ ラ = アスラン
カイル = シ ン




シンアスVer.


 突然現れた少年を、アスランは信じられないという目で見た。
「えーと、君……?」
「シンです。シン・アスカ」
 突然現れ、未来から来たなどと言われれば、本来なら揶揄われたと怒るのは自分の方だとアスランは思う。しかし何故か相手の方が不貞腐れた顔をしていて、アスランは少し躊躇いがちにもう一度、聞いた。
「その、シン・アスカ君」
「なんです?」
「未来から来たと言うのは」
 いったいどういうことなのか。タイムスリップは理論上は可能だが、タイムマシンとなるとまた違ってくる。だいたいタイムスリップにしたところで、いまもって机上の理論にすぎなかったはずだ。
 しかし彼は未来から来たといい、しかもアスランを守るために送られてきたのだという。
「さっきも言いましたけど」
 彼はあくまで不機嫌で、面倒くさそうに口を開いた。
「あんたはキラ・ヤマトと戦って重傷を追うんです。そのせいでプラントは危機に陥る。そうならないためにおれは」
「待ってくれ」
 シンを遮り、アスランは言った。
「キラと戦うって、俺が? 確かに以前は敵と味方に分かれて戦ったさ。だが、もう戦争は終わったんだ。それに」
 苦々しくアスランは吐き捨てた。
「あいつは戦える状態じゃない」
 アスランが言うあいつとはキラのことだ。大戦後、キラは宇宙に放り出されたショックから記憶が混乱し、いまだ完治にいたっていない。どこか精神を病んだ様子の見られるキラと、いまはオーブにある自分がどうして再び戦うなど。
 アスランの言葉に、シンは怒ったようだった。ムッとしたように口を開く。
「もう一度起こるんです、戦争」
 アスランは顔を上げた。
「いろいろあって、あんたはそれに巻き込まれて、それで」
「それを信じろというつもりか?」
 確かに政情は不安定だが、こんなに早く戦争が起こるほど人類が愚かだとは信じたくない。
 しかしシンの言葉はきっぱりとしたものだった。
「戦争を起こしたくてたまらない連中がいるんです。もちろんオーブにも。だから」
「だから起こると?」
 シンは頷いた。
「信じる信じないはあんたの勝手です。おれはおれで勝手にあんたを守りますから」
 シンはそう言ったが、アスランからすればシンは年下に見える。そう言ってアスランに向けた背もまだ子どものもので、彼の背中を見送っていたアスランは、ふと思いついて小石を拾うと、彼に向かって投げ付けた。
 シュッと風を切って飛ぶ小石にシンが反応して振り返る。反射速度は悪くなかったが、そのあとの事態は予想していなかったらしい。小石に気を取られたシンの隙をついて、アスランは彼の懐に飛び込んだ。
 手にした銃を脇腹に押し付け、アスランは驚いて見上げてくる紅い目に苦笑した。
「君に守ってもらう必要はなさそうだな」
 自分を完ぺきだと思ったことなど一度もないが、アスランには自分の身は自分で守れるという自負があった。ザフトのアカデミーで記録を塗り替え、エースとまで言われたのだ。それを誇りには思わないが、自信には繋がっている。
「~~~~」
 紅い目に睨み付けられ、その目を、いい目だとアスランは思った。
 彼はいい兵士になるだろう。だが、できることならそれは、戦争ではなく別のところで役立ててほしいと願う。自尊心を傷つけられ、それを隠そうともしないほど、彼はまだ子どもなのだ。
「――卑怯もの」
 抑えた声でそう言われ、アスランは銃を仕舞った。
「油断したのはそっちだろう」
 シンにもその自覚はあったのだろう。もともと不貞腐れ顔をさらに不機嫌にして、アスランから顔をそむける。
 今度はアスランが彼に背を向ける番だった。
「自分の身は自分で守るよ。誰からの命令かは知らないが、戻ってそう――」
「キラ・ヤマトでもですか」
 アスランの足が止まる。シンは続けた。
「あんたの命を狙うのがキラ・ヤマトでも、あんたは自分を守れるっていうんですか」
 アスランは振り向いた。
「何を言って……」
 笑い飛ばそうとして失敗する。きっぱりとシンが言った。
「あんたはキラ・ヤマトを殺せない。でも、あいつはあんたを倒せる。ストライクを討ったとき、どうしてあいつが死ななかったのか、あんたは疑問に思わなかったんですか」
「…………」
 先の大戦で、アスランのイージスはキラのストライクに組み付き、自爆した。自分が脱出するときには、まだキラがコクピットにいたことは肉眼で確認している。その彼が生きていることを奇跡の一言で済ませるには、確かに無理があった。
 シンが言った。
「すでに一度、過去は書き換えられてるんです。キラ・ヤマトによって」
 沈黙が風を呼び、アスランの髪をさらった。

つづきません。



2007.10.13
伝説のエースも「ずっと憧れてた」も入りませんでした。
黒幕は議長です。彼はシンを騙してるんです。



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