『きっと甘い朝食』


 目覚めるとキラの腕の中だった。
 頭の下にはキラの腕があって、腕枕をされていたのだと知る。
 そろそろと起き出したアスランは、キラを起こさないようそっとベッドから抜け出した。
 床の下には色とりどりの服が散乱している。久しぶりだったから互いに服を脱ぎ捨て、その中で抱き合った。ベッドに運ばれたのはいつだっただろう。
 パジャマの上だけを羽織った姿で、適当に散らばる服を拾い集め、椅子に掛ける。キラはこういうことに頓着しないから、そのうちのいくつかはシワだらけだ。中には自分が縋って握り締めてしまったものもあるけれど。
 シャツを取ってシャワールームに足を向ける。すると、ベッドからくぐもった声がした。
「……もうシャワー浴びちゃうの?」
「起きたのか」
「うん」
 伸びをしながら起き上がったキラが、ベッドの上からおいでおいでとアスランを呼ぶ。首を傾げながら近付くと、手首を掴まれベッドに引きずり込まれた。
「キラ!?」
「もったいないよ」
「何が」
「せっかくの休みだもん。あとで一緒に浴びよ?」
「お前、昨日だって散々──」
「二回しかしてないよ?」
 しれっとそんなことを言う目の前の男をアスランは睨み付けた。
「回数じゃない!」
 時間の問題だとアスランは思う。いや中味かもしれない。
 散々焦らされ、なかなかイカせて貰えず、最後は懇願するように泣いてねだって、そのうえ。──挿れたまま寝るところだったのだ、この男は。
 なのにぬけぬけと、えー?なんて文句を言っている。
「三回目はアスランの寝顔を見ながら起き抜けにって取っといたのに……」
 そんなもん取っとくなとアスランは思う。かわいい顔でかわいく口を尖らせてのし掛かってくるな。
「離せ。俺はシャワーを」
「あとで連れてってあげるね」
「い・ま・自分で行く」
「じゃあ、シャワールームでする?」
「ばっ……」
 何がシャワールームでだ。
 手首を押さえ付けられ、体重で抵抗を封じられたまま、アスランは座った目つきをキラに返した。
 シャワールームなんて冗談じゃない。お湯が入って気持ち悪いし、声は響くし、第一立ったままするつもりか、お前はー、である。
「──ごめんだ」
 アスランがきっぱりと拒絶の意志を示すと、にこっとキラが笑った。
「うん、よかった」
 何がよかったんだろう。アスランが怪訝に思って視線を上げると、キラがじっと顔を覗き込んでくる。
「昨日はアスランの好きなようにしてあげられなかったから、今度はちゃんとね」
 ちゃんと何をするつもりだ。
 そう思っていると、ぎゅっと抱きしめられた。
「昨日は二回ともバックだったし、一回目は自分でイカせちゃったし」
 キラに直接触れて貰えず、自分の手をあてがわれたことを思い出し、アスランは顔を逸らした。後ろから貫かれ、自分でやってごらんと耳元で囁かれて、我慢できずに自分で慰め、指を濡らした。しかも床の上で。
『自分でいっちゃったの?』
 あのときの、呆れたような、どこか意地悪な顔を思い出すと耳が熱くなる。
「……あれはお前が」
 情けなくて涙が出そうだ。
 自分でやったことがないわけではないけれど、キラに自慰を促されたのもはじめてではないけれど、それでもあんなに早くいったことなんてなかったから。……久しぶりに触れたから。
 唇を噛みしめ黙り込んでいると、こめかみにキラのキスが降ってきた。
「うん、ごめんね。今度はちゃんといいようにしてあげるから」
 お詫びにね。
 アスランは上目遣いにキラを睨んだ。
「──好きにしろ」
「やさしくしてあげるね」
 もう一度キスが顔に降ってきて、アスランは目を閉じた。


2004.9.26
何だろうこれ……。すみません。

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