きつい碧色の目が睨み付けてくる。
それを頬杖付きながら見下ろしたキラは、クスッと小さな笑みを漏らした。
「いい眺めだね」
「キラ!」
「だってアスラン、ブロックするじゃない」
だから、できないようにね。
そう言って、太腿の内側にキスをする。
ビクンと身体を竦ませたアスランの反応に気をよくして、キラはさらにやわらかなところを舌の先で舐めあげた。
かれこれもう三十分は、舐めたり噛んだり生ぬるい方法を繰り返してきたから、もともと感じやすいアスランの内側はじわじわと熱が生まれて敏感になっている。
もっともアスランがこんなに感じやすいなんて、最近まで知らなかった。「妻にするならナチュラル、愛人にするならコーディネイター」って大人のジョークがあるくらいだから、確かにコーディネイターはイイのかもしれない。
「バカ、やめっ」
「はずかしい? はずかしいから怒るんでしょ?」
後ろ手に縛られ、抵抗の術を封じられたアスランは、両足を持ち上げると悔しそうに唇を噛み締めた。
アスランのすべてが露わになって、羞恥で震えた目許に涙が滲んでいる。
それが、とてもきれいだとキラは思う。
羞恥で朱に染まるアスランも、怒りに震える碧の目も、とてもきれいだ。
最初は無我夢中で、よくわからなかった。
慣れてなかったから、無茶をしてずいぶん泣かせたように思う。
それで二度目はなるべくやさしくしようと慎重にいったら、この物覚えのいい幼なじみは、すでにキラのくせを身体で覚えていて、ことごとくブロックしてくれたのだ。
もっともアスランの方は無意識だったらしい。
「アスラン……」
キラが抗議の声をあげると、ご、ごめんっと素直に謝ってくれた。
しかし、胸も下も耳も十分の一秒早くアスランの手でブロックされ続ければ、キラだっていい加減にしようよと言いたくもなってくる。が、アスランはアスランで無意識というか、条件反射というか、身体が勝手に反応してしまうわけだから止めようがないらしい。で、キラは強引な手段に出たというわけだ。
キラは身体を熱くし始めたアスランを残してベッドを降りた。放っていかれるなんて思ってもなかったらしいアスランが、一瞬、置いていかれる子どもみたいに不安そうな顔をする。
それがかわいくて、戻ってきたキラは、安心させるようにこめかみにキスをした。
「怒ったわけじゃないよ」
「キラ……」
「抵抗できないようにね」
手にはタオル。よくわかってないらしいアスランをひっくり返して、後ろ手に縛った。
「キ、キラっ!?」
腰には枕。もともと重力がさほどではない艦内だから、体重は掛からないとは思うけれど、無理な姿勢を強いることになるから、できるだけアスランに負担を掛けたくはなかった。
「アスランとの時間はね」
膝を割って間に入り、上から伸し掛かる。
「アスランにも邪魔されたくないんだよ」
「あ……っ」
固くした舌先で胸を舐めると、アスランが小さな声をあげる。
ミルクを舐める猫のようにして胸の先をころがすと、何かに耐えるようにアスランの唇が震えた。
女の子とは違うなだらかな胸、小さな突起。それでもキラは欲情せずにはいられない。
「きらっ」
女の子と経験のあるキラと違って、まだ慣れてもいないアスランは、どうしていいかわからず混乱している。それでも、まだわけがわからなくなるまでには至ってないから、非難するようにアスランはキラを睨み付けた。
「解け、ばかっ」
「ひどいよ、アスラン」
バカだなんて。
キラが恨みがましく言うと、アスランがさらに睨み付けてきた。
「ばかだろう。こんなこと」
「じゃあ、アスランがしてくれる?」
アスランの頭の中にはなかった答えだったらしい。切り返すと、さすがに目を丸くして言葉を失った。
が、どんなときにも潔いアスランは、こんなことにもやみくもに潔かったらしく。
「――わかった」
そう言うと、再び解けとキラに“命じ”、アスランはキラの前に陣取った。
ゴクンとキラは唾を飲み込んだが、それはアスランも同じだったらしい。
少しだけ腰を浮かせたアスランの唇を唇に感じ、それをやわらかいと認識したと同時に勢いよく押し倒される。
さっきより幾分冷えたアスランの肌が頬を掠め、首筋に顔を埋められた。
「アスラン、くすぐったいって」
「うるさいっ」
色気なんか欠片もないセリフを吐くくせに、顔だけは真っ赤で。普段は器用なくせに、こんなときだけ不器用になる指先が、キラのファスナーに手間どっている。
どうしてもうまく指でできないアスランは業を煮やして唇でファスナーをくわえ、それにキラは慌てた。
「ちょ、ちょっとアスラン」
「――△×ってろ」
いまひとつ解読不明な言葉は、おそらく黙ってろと言ったのだろう。
ゆっくりと時間を掛けて、アスランが口でくわえたキラのファスナーを引き下げていく。
殊更ゆっくりキラを焦らせるテクニックなど、アスランが持ち合わせているはずもなく。キラがそう感じているだけなのか、単にアスランが不慣れなだけかはわからない。わからないが、妙に音が響いて、喉の乾きをキラはいやがおうにも自覚する。
キラから見えるのは、アスランの頭とベッドについた両手。顔はわからないが、鼻の先が擦れるのをときどきアンダー越しに感じて、キラはもうそれだけでイキそうだと思う。
しかしアスランの方はそんなキラなどお構いなしで、ファスナー引き下げの成功に気をよくして、今度はアンダーシャツに手を掛けた。
何だか目的を間違えてやしませんか?と言いたくなる必死さで、アスランがキラの胸に口付け、脇腹を撫でたとき、気付いたキラは自然に込み上げてくる苦笑を噛み殺した。
アスランはキラにされたことを、正確にトレースしているのだ。
もちろんアスランにそんな自覚があろうはずはなく、キラは下へと降りていくアスランの頭を、子どもにするみたいにしてやさしく撫でる。
キラの記憶が確かなら、もうすぐ自分にもそんな余裕はなくなるはずで。果たしてキラの予測通り、アスランは少し躊躇いながらも、キラをその小さな口の中に含んだ。
「あっ」
アスランの口の中は、アスランの中と同じくらい熱くて気持ちよく。何より、それがアスランだというだけで、もうだめだとキラは思う。
けしてうまくはないたどたどしさがかえってキラを煽り、自分のものがアスランの口で育っていくのがわかる。大きなキャンディを舐めるように無邪気に舌を使われ、いやがおうでも熱量と質量を増したキラを口いっぱいにアスランが頬ばる。ファスナーで手間取ったアスランは先を急ぎ、その分キラの方も追い立てられるようにして余裕を失った。
「アス、ラン……っ」
アスランの口の中に放ちたくはなかったけれど、キラに名を呼ばれたアスランが、声に反応して突然無防備な上目遣いを向けたものだから、その瞬間、キラの理性は弾け飛んだ。
慌ててキラはアスランの肩を掴んで引き離したものの、当然間に合うわけもなく。何が起きたのか、いまひとつわかっていないらしいアスランの赤い唇の端から、間に合わなかったキラの熱が白濁した雫となってしたたり落ちた。
「あ……」
手の甲で口許を無造作に拭い、いまだ熱の冷めない目でキラを見遣ったアスランの頬が、白い液で汚れている。拭いきれなかった雫はそのまま落ちて、ゆるやかなラインを描く鎖骨に白い小さな水たまりを作った。
「ごめんっ」
大丈夫?と聞くと、ぼーっとした目で、きらと呼ぶ。
「なに、アスラン」
タオルを取ってアスランの口を拭うと、朱に染まる目に涙が滲んでいた。
「きら……」
「うん」
「その、……し……。いや、いい……」
もごもごと言って、しょんぼりと俯くアスランが小さな子どもみたいで。キラは赤くなった頬の意味を正確に理解した。
「今度は僕がしてあげるね」
ちろりとキラを見遣ったアスランは少しだけ唇を尖らせ。それからぼそぼそと、縛るのはいやだと消えそうな声で言った。
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