家の前で車を止めた。
アスハ家の別邸。流されてしまった施設の替わりに、留守を預かるマーナの手配によって用意されたのだという屋敷は、アスランも一度訪れたことのある場所だった。
ハンドルに身体を預けて、アスランは絞り出すような声を出す。
「でも、やっぱりまだ見付からない……」
何とどう戦うのか。プラントに核が放たれ、地球にジェネシスが撃ち込まれたときに見付けたと思ったあれは、いま根本から崩れようとしている。
混沌とした思いに足もとがすくわれそうだ。
声に出したことで疑いは現実になり、アスランのうちから吐き出たことで、問題は大きく手の届かないところに行ってしまったような気がする。
戦争が終わればすべてが解決すると思っていたわけではないが、それでも解決の糸口は見付かるものだと信じていた。けれど、一旦もつれた糸はほどくより引きちぎる方がたやすく、引き金はすでに引かれてしまっている。
──父の考えに賛同したものたちによって。
「アスラン……」
気遣うようなキラの声。
思いがけず途中で会ってしまったからうまく言葉もまとまらなくて、迷う気持ちそのままに心情を吐き出した。
こんなことを言うつもりなんてなかったのに。
心の中で苦笑する。
昔はキラの前で弱音を吐くことなんて考えもしなかった。キラと離れてからも。
その苦笑ごと受け止めるように、キラが手を伸ばしてくる。
キラのやさしい手。
ナチュラルの中にいながら逃げることなく同胞たちと戦い続けた幼なじみは、その分だけ、アスランより強くなった。
傷付いた場所を補強するように、心もまた傷の深さだけ強くなるのだろうか。
急ぐことなくゆっくりと構築されていくキラの強さは、どこか地球に似ているとアスランは思う。急ぎすぎる自分とは大違いだ。
ほろ苦い思いが、アスランの口許にのぼる。
ザフトを離反し、父とのことを自爆という形で終わりにしようとした自分は、いまもまだ、何かから逃げているのかもしれない。
見付からない答え。
温もりにアスランは少しだけ崩れそうになる。
「アスラン?」
離れようとした手に反射的に顔を上げ、その勢いに自分で驚き、戸惑った。
「……その、すまない」
怪訝そうなキラの顔。気まずい沈黙のすえ謝ると、キラがくすっと小さく笑った。
「ごめん、気付いてあげられなくて」
「え?」
「準備してきたんでしょ? いい匂いしてる。髪もまだ濡れてるし」
「あ……」
そんなつもりはなかったけれど、どうしようもなくキラの顔を見たかったのは事実だ。温もりに縋りそうになったのも。
否定しきれない思いに視線をそらすと、キラの指が今度は頬に触れてくる。
アスラン、疲れてると思ったから。
手のひらより少しだけ冷たい指先は、それでもアスランに安らぎと温もりをくれた。
「アスランは大丈夫だよ」
頬から耳をなぞり、耳からまだ水分を含む髪のすそへと冷たい指が降りてくる。
「大丈夫だから」
「キラ……」
たぶん明日になればすべてが動き出すから。
「客室をあけてもらうね」
いまだけは。
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