いつになく、うっとりとした目で笑い掛けてきたアスランに、キラは呆れたようにひとつ息をつく。
アスランの両手はキラの肩にそれぞれ掛り、首を傾げてにこにこしている。頬と目尻が赤いから、酔っぱらっているとすぐに知れたが、それにしても上機嫌だ。
いつもはとっつきにくいと言われているアスランが、子どもみたいに、ふわーっと笑う。ふわーっと笑って、子猫がじゃれるみたいに、キラに擦り寄ってくる。
キラは無防備このうえない幼なじみの腰を片手で抱き寄せ、取り合えず所有権を主張してみた。
「何飲ませた?」
首だけ捻って後ろを窺う。
「人聞きの悪いこと言うな!」
反発したのはカガリだ。
「コイツが勝手に……!」
それでも歯切れが悪いのは、カガリにも思うところがあるからだろう。
だいたいコーディネーターは、薬物同様、アルコールに強くできている。強い酒は喉を刺激するから好きではないが、キラだって酔った記憶はほとんどない。ただアスランは、どうしたわけか特定のアルコールにだけ弱かった。
「カクテル飲んだらこうなったんだよ」
ふにゃんとして、腰が抜けた猫みたいになったと、ふて腐れた顔でカガリは言った。
「立てないとか言ってへたり込むし、突然お前を捜し出すし、イスやら置物としゃべり出すし、大変だったんだぞ」
「でも、かわいかったでしょ」
「なっ」
「満更でもなかったって顔してるよ、カガリ」
図星だったらしい。カガリは顔を赤くして、言葉を濁した。
だいたい男にカクテルと飲ませるなんて、何か間違っているとキラは思う。甘いものが得意ではないアスランが、自ら進んでカクテルをオーダーするとも思われない。
「カクテルに入ってたお酒が問題だけど、まあ、だいたい想像はつくよ」
前にも一度同じことがあって、キラを慌てさせたことがあった。
突然、熱いと言ってキラに甘えてきたアスランは、キラがトイレに立った間ですら、ものすごく淋しそうな顔をして待っていた。
その空白の数分間のことを、のちにミリィから聞かされたキラは、酔っぱらったアスランから一瞬たりとも目を離すまいと誓ったのだ。
「アスラン君ねえ、そこのお花に『キラは?ねえ、キラ知らない?』ってずーっと聞いてたの。迷子になった子どもみたいだった」
すっごいかわいかったけど、すっごくかわいそうだったなーと言われ、キラは心に誓ったのだ。
なのに勝手に出掛けて、勝手に酔っぱらってきて。
キラは再び溜め息をつく。
「アスラン、行くよ」
ぎゅーっとキラの首に抱きついてきたアスランが、すりすりと自分の頬をすり寄せながら、キラと甘い声で名前を呼ぶ。
「きら?」
「はいはい。シャワー浴びてからね」
言って腰を引き寄せると、アスランがにこーっと笑った。
「なあ、なんか」
すいぶん意味深なセリフだなと、シャワーに反応してカガリが言うと、さらに意味深な笑みをキラは向ける。
「アスランがさっきからしてるこれ、何かわかる?」
キラの首に抱き着き、上機嫌で頬を擦り寄せてるアスランを、カガリは溜め息とともに眺めた。
「これって、随分懐いてるみたいだな」
喉を鳴らして甘えてる猫みたいだとカガリが言う。
にっこりとキラは笑った。
「マーキング」
「マー……!」
「アスラン発情してるからさ」
「発情って、おい、キラ!」
「じゃあね」
アスランの腰を抱いたまま、キラはカガリに背を向けた。
酔っぱらうと泣いたり暴れたり、ナチュラルはたいへんだと思っていたけれど、かわいい恋人がこんなにかわいくなるのなら、アルコールも悪くないとキラは思う。
「きーら」
「はいはい。あとでね」
いつものアスランなら絶対に許してくれないあれやこれやを思いながら、キラもまた上機嫌でアスランの髪に頬を寄せた。
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