白いシャツの襟を落とすと、いまだ生々しい傷痕が露わになる。そのひとつを指でなぞって、シンはアスランへ顔を向けた。
「これ……」
軍人である彼に、傷はめずらしいものではなかったけれど。
「おれがつけた傷ですか」
聞くと彼が苦笑に似た笑みを刻んだ。
「そうだな」
逃げる彼を追って、撃墜したときのものだ。あのときの出来事は、シンに苦いものを呼び起こす。そのあとのことも。
言葉を失い、彼の視線を受け止めることもできず、シンは項垂れてベッドの上の拳を握り締めた。
「シン?」
そんなシンを不審に思ったのか、アスランが訝しげに首を傾げる。それでも答えることができずに俯いたままでいると、そっと腕が肩に回され、抱き締められた。
「大丈夫」
やさしい声が、シンの胸に落ちてくる。
「大丈夫だ、シン」
その温かさに驚いて顔を上げた。まっすぐに向けられた眸の中に、泣きそうに歪んだ自分の顔がある。
硬質な碧の眸。時折やさしい色にも見えるそれ。
その眸で、彼は笑んだ。
「俺は生きているだろう?」
そう言ってシンの頭を引き寄せ、彼は自分の胸に包み込むようにして抱き締めた。
耳元で、彼の心臓が鳴っている。彼は自分にこれを聞かせたかったのだとシンは気付いた。涙が零れそうになる。
「……よかった」
震える声が涙で掠れた。
「ほんとうに。おれ……」
呻くように言ったシンに、彼が頬を寄せてくる。いつくしむようなその仕草に涙が零れた。
「シン?」
「もっと、名前……呼ん……おれ」
彼がやさしく笑んで言葉を重ねる。
「シン」
こめかみに額に髪に。すり寄せるようにして。
「アスラ……」
「シ、ン」
「うん……」
「君が本気になるなんて思わなかった」
彼相手にとキラが言う。苦笑めいた顔をキラに向け、アスランは目を伏せた。
「二度も殺されるわけにはいかないからな」
キラが笑む。
「うそつき」
「お前、何言って──」
怪訝な顔のアスランを、キラは意味ありげな笑みで封じた。
「あ、うん。確かにうそはついてないよね。でもちょっとちがうでしょ?」
「キラ?」
「“彼”に殺されるわけにはいかなかったんでしょ? 妬けちゃうね」
「何を」
「僕のときは本気にならなかったのにね」
どう返していいかわからずアスランが黙り込むと、背を向けたキラが振り返って、クスッと笑った。
「行ってあげたら? きっと待ってるよ、彼」
「あ? ああ」
「いまだけは君を貸しておいてあげる」
そう行って出ていった幼なじみを、アスランは苦笑で見送った。
まったく何を言っているんだか。
パイロットスーツから着替えようとして、少し躊躇う。オーブの軍服。シンが嫌っていることを思い出して、手が止まった。
「昨日もそう言って脱がされたんだったか……?」
似合わないとか言って怒られて。でもこれしかないのだから仕方がない。
覚悟を決めて、アスランは白いそれに手を通した。
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