浴室から出てきたキラが見付けたのは、机に向かうアスランの姿だった。
「何してるの?」
タオルで髪を拭きつつ聞くと、ああとアスランが答える。
「鎖が切れたんだ」
アスランの手元には乳桃色の小さな石。ハウメアの石と呼ばれるお守りだが、アスランが言うように鎖が切れてしまっている。
キラの記憶が確かなら、それはカガリがアスランに贈ったもののはずで、そのおかげで命拾いをしたというのはアスラン本人からも聞いていた。つまりはアスランの命の恩人(?)ということだ。
とは言え、これの贈り主のことを思うと少しばかりおもしろくないのも事実で、キラは唇を尖らせてアスランの手元を覗き込んだ。
機械いじりに慣れた指は、こうしたものを扱うのも得意らしく、器用に細かい作業をこなしていく。が、何かへんだ。
「……ねえ、アスラン」
疑問を感じたそのままに、キラは怪訝な声を出した。しかし、それを別の意味と取ったらしく、アスランがキラに謝る。
「すまない。すぐに終わる」
「そうじゃなくって、それって指輪だよね?」
切れた鎖を修理しているのかと思えば、何故かアスランの手元にあるのはリングだ。それに、アスランが顔を上げた。
「ああ。鎖が短くなってしまったんでどうしようかと思ってたんだが、それならいっそ指輪にしたらどうかっておばさんが」
言われて見れば、そのリングには覚えがあった。デザインを変えたために不要になったのだが、思い出があるからと母さんが取っておいたものだ。
が──
「アスランがするの、それ」
シンプルなものならともかく、母が所有していたものだから、いかにもといった飾りがある。デザインも少しばかり古風だ。しかもキラの読みが正しければ、その真ん中にはピンクの石が鎮座するはずなのだ。
いくらお守りとは言え、アスランがそれをするのだろうか。それくらいなら、自分がもっといいのを贈りたい。そう思っていると、まさかとアスランが笑った。
「カガリのだよ」
「カガリ?!」
「ああ、俺の代わりにな」
アスランはカガリのボディガードだ。その言葉が意味することはひとつだが、しかし、それはさすがにやばいのではなかろうか。世間一般的な常識として。
だが、どうもアスランは自分がしようとしていることがわかっていないらしい。やさしい目で石を見つめ、苦笑する。
「俺はもう充分守ってもらったから、これはカガリに返さないと」
これからカガリはますますたいへんになるし、とかなんとか。
返すのはもちろん大が付くほど賛成だが、その形状はさすがにまずいのではないかとキラは思う。今も昔もリングは特別なのだ。カガリがかんちがいしないとも限らない。
アスランに取っては、マイクロユニットの方が特別なんだろうけど──
キラはアスランから完成した指輪を取り上げた。
「キラ?」
「これは僕から返しておくから」
「いや、でも」
「いまは僕のことだけ考えてよ」
言葉にアスランが、仕方ないなといった顔をする。
そのままアスランとベッドになだれ込んだキラは、机の上に置いた指輪のことをきれいに忘れた。
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