「お前、ほんとーにアスランのこと好きだよな」
カガリにそう言われ、キラは顔を上げた。
そりゃ確かに好きだけど、そんなにしみじみ言われるほどのことをしただろうか。小さな頃はところかまわず「アスランだいすきー」なんて言って回ってはいたけれど、いまはさすがにそんなことはない。
かと言って否定することもできずキラが答えあぐねていると、くすくす笑いながらラクスまで、ほんとうになんて言ってくれた。
「キラはアスランといるととても嬉しそうですもの」
「アスラン見てニコニコしてんのな、お前」
「そうかな」
アスランといるのは好きだけど、だからといって離れていても淋しいということはない。
特に連絡を取り合うこともなかったし。
いまだってそうだ。オーブとプラントに分かれているが、お互い連絡を取り合うこともない。律儀なアスランはメールにせよ電話にせよ必ず返事をくれるがキラは忘れがちだし、アスランにしたところで自分からくれることはほとんどなかった。
「けっこう淡白な付き合いだと思ってたんだけど」
「へえ?」
そうなのか?とカガリに聞かれ、キラは言った。
「メールとか電話とか全然してないし、会えなくて淋しいってこともないし」
現に今日だって、カガリに会いながらアスランに会えなくても、特にどうということもなかった。
会えなければ残念だと思うし、できれば会いたいとは思うが、残念ながらそれ以上の感情は起こらない。
男同士なんてそんなものだとキラは思う。たぶんアスランとは何年も会わなくても全然平気で。でも再会すれば、一瞬で昔の空気を取り戻せる、そんな自信がある。
たぶんそういう関係なのだ。
カガリとラクスにはどう見えているかは知らないが、しみじみ言われるほどの関係でもないと――
「――遅くなってすまなかった」
ドアが開き、入ってきた人の顔を見るなりキラの顔が自覚なく綻んだ。
「アスラン!」
もちろんキラは自分の声が弾んでいることにも気付いていない。
「遅かったな」
カガリに言われ、アスランは顔を向けた。
「少し報告が長引いてな」
「でももう大丈夫なんだろ?」
食事は一緒にできるよな?とカガリが念を押している横で、お久しぶりですわねとラクスが微笑む。
「ええ、ラクス」
プラントにいるラクスとキラがオーブに来ていることはもちろん非公式、いわゆるお忍びというやつだ。公式でならカガリとラクスは数ヶ月前に顔を合わせているが、そのときアスランは同行しておらず、こうして四人で顔を会わせたのは久しぶりのことだった。
「半年ぶりだね、アスラン」
キラが言うと、アスランが今度はキラに笑みを向けた。
「ああ、キラも」
キラの顔が綻びを通り越して弛んでいる。目はさっきからアスランに向けられたまま、微動だにしない。
食事の手配をし終わったカガリは戻ってくると、その様子を見ているラクスの横に並んだ。カガリはひとつ息をつく。
「ほんと、キラはアスランの顔が大好きだよな」
にっこりとラクスが笑んだ。
「ええ。わたくしがいても、先にアスランの顔を見るくらいですもの」
同じ部屋にラクスとアスランがいて、そこにキラが入ってくると、真っ先にキラの視線はアスランに向かうのだという。それは写真でも同じで、キラの視線はレーダーのようにアスランの顔に反応する。ようするにアスランの顔は、キラの好みのど真ん中、いちばん好きな顔なのだ。
「しかも無自覚」
カガリは情けない気持ちで双子の弟を見た。
確かにキラの言う通り、ある意味キラはアスランに対して淡白だろうとは思う。敵味方に分かれて戦ったときも容赦はなかったし、会えなくて淋しいということもないのだろう。しかしそれは、アスランの顔を見ていないからだとは、さすがに声に出して言いたくはない。
「面食いなのは知ってたけどな……」
アスランの顔がそこになければ、キラはむしろ冷たくすらあるのだ。ことアスランに関しては。しかしそれとは反対に、アスランの顔が目の前にありさえすれば、キラは途端に上機嫌になり、彼にたいへんやさしかった。
「複雑ですわね」
ちっとも複雑ではなさそうにラクスが言った。
「アスランが女の子だったら、ことは簡単でしたでしょうに」
よしてくれ、とカガリは思った。
「もっとたいへんだったと思うぞ」
アスランが。
それにラクスが笑った。
「でもしあわせなことでもありますでしょう? 出会ってからずっと、いちばん好きな顔でい続けられるなんて、そうはありませんもの」
四歳で出会ってから十五年以上もずっと、相手のいちばん好きな顔でいられる。奇跡とまでは言わないが、そんなに多くはないだろうとはカガリも思う。
「……確かにな」
やさしい笑みを見せるボディガードを少しばかり不憫に思いながら、カガリはそれには同意した。
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