『Kira』


 戦争が終わって、いろいろあって、それでも何とかまとまって。少しずつ。
 平和とか共存とか、そんなものが見え始めた頃、アスランはラクスとともにプラントへと戻って行った。事実上、脱走兵とされてもおかしくないアスランの扱いは、クライン派の特命を受けていたということで決着がついたから、彼が罪に問われることもない。
 それを、よかったねと口では言いながら、心は違ったことをキラは知っている。
 ほんとは、ずっとそばにいてほしかった。たとえ、罪人としてであっても。
 プラントに戻れば、アスランの身辺は忙しくなるだろう。
 イザークさんみたいになるの?と聞いたキラに、まさかと言ってアスランは笑ったけれど。
「向いてないよ、俺には」
「そうかな」
「そうさ」
 デュエルのパイロットだった彼は、最年少の評議員議員として選出されたと聞く。彼の姿をテレビで見たとき、同じ姿をしたアスランが自然に浮かんだ。
 ばかだなと思う。
 アスランと自分を隔てるものは戦争だけだと思ってた。ほんとは一緒のものなんて、何もなかったのに。
 月にいた頃と同じようにアスランが笑うから。だから忘れてた。
 アスランの生まれとか、素質とか、血筋とか。
「はー」
 何だかこれ以上ひとりでいると、どんどん落ち込んでしまう。
 滅入る気を紛らわすには何がいちばん効果的だろうと考えても思い浮かばず、キラは取りあえず眠ることにした。


 目が覚めたのは音のせいだ。
 夜とはいえ、まだ浅い。夜中とは言えない時間だから、ケータイが鳴ってもおかしくはない。
 何だか出る気にならなくて放っておいたら、すぐにコールは切れた。
「……あすらん……?」
 アスラン専用の着信音ではなかったけれど、何となくキラはそう思って身体を起こした。他の友人たちなら、もっとしつこく鳴らすはずだ。カガリなんて繰り返し掛けてくるし、ラクスにしたところでここまであっさり引き下がったりしない。
 控え目なコールが彼を思わせて、慌ててキラはケータイを取った。
 着信歴には非通知とある。では外から掛けてきたのだろうか。ディスプレイには留守録を示すマークが見える。
 恐る恐る留守録を呼び出すと、サービス機能がたった一言だけメッセージを告げた。
『キラ……』
 元気か?も、どうしてる?もない。おやすみも、またかけるも。
 それでも、アスランの少し掠れた声が、キラのやわらかい場所に触れたような気がして、キラは少しだけ泣きそうになった。


2004.5.18

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