「でも仕方ないじゃない。こんな状況のときにカガリにまでバカなことをされたら、もう」
そう。だってカガリには、アスランの子どもを産んでもらわなくちゃならないんだから。僕とアスランの繋がりを作るために。
「バカなこと!?」
カガリが吠える。
そう、ばかなことだよ。僕にセイランと親戚になれっていうの? 僕の血を引く子どもをセイランとの間に作るって?
アスランを裏切って?
「キラ……」
僕の気持ちを知っているラクスが、心配そうに僕とカガリを交互に見る。
僕は嗤う。心の中で、苦い笑いを噛み殺す。
「大丈夫だよ、ラクス」
カガリに本当のことなんて話したりしない。彼女にはアスランの望む「しあわせ」を、担ってもらわなくちゃならないんだから。そのためには、何も知らないままでいてもらわなきゃならない。アスランはあれでいて、カンはいいんだ。
その間もカガリの主張は続いていて、僕は込み上げてくる笑いを抑えるのに必死だった。
何を言ってるんだろうね? この人は。オーブのこととか、国家元首とか。ねえ、そんなことはどうでもいいんだよ。アスランが君に協力しているから僕もそれに賛同しているだけで、本当はどうでもいいんだ。
『アスランとも子どもを作れるでしょうに』
そう言ったのは誰だっけ? ああ、そうだラクスだ。
君の気持ちを受け入れることはできるけど、応えることはできない。──君が望むようには。
そう言ったら、そう言われたんだったっけ。
確かにいまは男同士でも子どもは作れる。コーディネイターを作るのと同じように、遺伝子操作で。けれど、アスランがそれを望まない。
『アスランにその覚悟がないのに?』
『キラ……』
『アスランは僕のことが好きだよ。でも認めない』
彼はまだ、自分の気持ちを友情だと思ってる。いや、思いたいんだ。それを壊してまで僕の気持ちをぶつけたら、彼は僕から逃げようとするだろう。何も聞かなかったことにして。それくらいなら僕は、彼の隣で笑っていることを選ぶ。──友人として。
『それでキラはいいのですか? アスランには何も言わず』
言ってどうなるっていうの? 彼を追い詰めるだけなのに?
『ラクス、僕はもう何も失いたくないんだ』
アスランの何も。
『でも、それではあまりにキラが』
ラクスが痛ましそうに僕を見る。そんなラクスに僕は同情の目を向ける。
どうして君は僕なんかを好きになってしまったの?
『……ごめんね』
君に応えられなくて。
『それでもキラ、わたくしは……』
ラクスの目が揺れる。
ほろ苦く、僕は笑う。
ああ、そうか。君と僕は似てるんだ。
かわいそうなラクス。手に入らない心を追って、それでも傍らにあることを望んで。君と僕は同じ種類の人間だから。君だけは僕を理解してくれるだろうから。だから君の側にいるのは心地いいね。君のやさしさに包まれているのは、ほんとうに気持ちがいい。
『ラクス』
僕は名を呼ぶ。誰よりもやさしい音で。
それでも君がいいと言うのなら、君にやさしくしてあげる。誰よりも大切にして、君だけを守ってあげる。心はあげられないけど、それ以外ならぜんぶあげる。せめてもの償いとして。
アスランはそんな僕とラクスを見て安心するだろう。親友のしあわせを祝福してもくれるだろう。
少しだけ淋しそうな顔をして。
僕は嗤う。
やさしくて残酷な彼の望みを叶えるために、僕は自分の心を殺し続ける。
モラルと常識に囚われ続けるかわいそうな君のために。しあわせの形なんて、人それぞれだって知らない君を安心させるために、僕は君の前で笑いながら親友を演じ続ける。僕のしあわせは、しあわせな君を見ていることなのだから。
ねえ、アスラン。
君が望むなら、君が笑っていてくれるなら、僕は何でもできるだろう、何にでもなれるだろう。自分を殺すことも、騙すことも,、君を裏切り続けることも。君の傍らで笑い続けるために。
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