「めちゃめちゃ落ち込んでたぞ、アイツ。お前を殺したって泣いてた……」
カガリの言葉は僕の心に重く響いた。
アスランが泣いている。
僕を殺したと思って、僕を失くしたと思って、ひとりぼっちで泣いている。
僕はフリーダムを見上げ、遠い彼に想いを馳せた。
かわいそうなアスラン。
ラクスが僕に託したフリーダム。その重さと重大さを僕は知っている。
そしてラクスがしたことの意味も。
彼女の行為はザフトに対する裏切りだ。
ラクスがどう言おうと、託された僕にその意志がなかろうと、それでもザフトの新兵器を奪取したことに変わりはない。
ザフトへの裏切りは、アスランへの裏切りと同じこと。
かわいそうなアスラン。
彼は小さな頃からしっかりしていて、強くて。いつだって僕が先に泣いてしまうから、アスランは泣き顔なんて見せたこともなくて。
その彼が泣いている。
僕は小さな彼が膝を抱え、丸くなって泣いている姿が目に浮かんだ。
小さな、小さなアスラン。
戦渦で何度か再会したのに、こんなとき思い出すのは、月での小さいアスランの姿ばかりだ。
震える彼の細い肩を抱いて、慰めてくれるやさしい手が、彼の近くにあることを僕は願う。
けれども同時に僕は知る。
彼は自分のものだという欲。彼の側にあるのは自分だけでいいというエゴ。そして、いますぐにでも彼を抱き締め、慰めに行きたいと願う強い想い。
ラクスに護られたプラントで、僕が考えていたのは僕と僕の友だちのこと。けれどもずっと僕が思っていたのはアスランのことだった。
思い出すのは月での生活、月での君。
小さな頃、僕たちは迷子になったことがあった。探検しようと言い出したのは僕で、アスランは止めたけど、結局、僕に付き合ってくれて。未開発の外れに出て。
月は荒涼としたもう一つの顔を見せて、僕たちを不安にさせた。
泣き出した僕の手を、困った顔をしたアスランが握ってくれたのを覚えている。
「大丈夫。大丈夫だよ、キラ」
自分だって怖かっただろうに、アスランは笑って言い続けた。
「あっちに地球が見えるだろう? ぼくたちはユーラシアが見える方から来たから、向こうに行けばいいんだよ」
「でも、もうずっと歩いてるよ?」
「疲れてるからそう思うんだよ」
僕の手を、ぎゅっと握ったアスランの手が、震えていたのを思い出す。
僕は彼に庇われてばかりで、そんなことにも気付かなかった。
ごめんね、アスラン。
ずっと君に護られてきたから、今度は僕が君を護ってあげる。
僕が自由にしてあげる。
そのために託されたフリーダム。自由という名の機体。
だから追っておいで。
僕はもう君に殺されたりはしないから、君を二度も泣かせたりしないから。
僕は君より強くなるよ。
だから、おいでアスラン。
僕はここにいる。
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