キラ・ヤマトの肩に乗る鳥を、イザークは複雑な目で見遣った。緑のそれはロボットで、アスランが作ったのだという。
アスランが?とイザークは聞いた。尋ねるためではなく確認のための問いに、彼はやわらかな笑みを浮かべた。
「ええ、月にいたときに」
そう言えばラクス・クラインに贈り続けたのもハロというロボットだった。本人からはエンジニアになりたかったのだという話を、寝物語に聞いたような気がする。
「アスランは好意をこういう形でしか現せないから」
不器用で無口な幼なじみをそう表したフリーダムのパイロットは、何か思い出したように笑い、呟くように言った。
「まさか、ラクスにまで贈ってるとは思わなかったけど」
言葉尻に苦笑が滲む。
確かに婚約者へのプレゼントにしては色気も味気もない。一度呆れたら、花くらいは贈ったことがあると反論したが、その花にしたところで、毎回義務のように同じ花だったと、ラクス・クラインが言っていた。
だがそれは、いかにもヤツらしいとは言えた。いいか悪いかは別にして。
「それとも婚約者だから贈ったのかな」
「どういう意味だ?」
聞くと、やさしい視線を足元に落とした。
「作っている間、ずっとその人のことを考えてるってことでしょう? 贈ったときの相手の顔を思いながら作ってるんだろうなって」
ラクスが喜んだら、次もそのまた次もハロをくれたって言ってたから、きっとラクスの喜ぶ顔を思いながら作ったんだろうって。
そう言ったキラ・ヤマトは、告白みたいなものですよねと続けて笑った。
買って送りつけるだけのものでも、プレゼントというものは相手のことを考えて選ぶものだ。それが制作となれば、作っている間もずっとということになる。
相手のために費やす手間と時間。
はじまりと終わりがどうであれ、アスランがラクス・クラインを大切に思っていたことは事実だ。恋愛感情とまでは育たなくても。その大切な婚約者のために、アスランはハロを作り続け、贈り続けた。キラ・ヤマトについては言うまでもない。アスランがマイクロユニットを贈った相手は、ヤツにとって特別な存在だということになる。
「…………」
イザークは、知らず温度が上がっていく顔に、口許を押さえた。
「どうかしたんですか?」
「いや……」
口ごもって答えると、通路の向こうからキラを呼ぶ声があった。金髪がこちらに向かい、それに答えるように、キラ・ヤマトが、じゃあと言って背中を向ける。
会ったのは偶然だ。会談の末席に連なることになったイザークと、たまたま姉を訊ねてきたキラが顔を合わせたのは。トリィというマイクロユニットの鳥が飛んできてイザークの肩に止まらなければ、会うこともなかっただろう。
「……こいつのせいか?」
あのトリィという鳥がイザークの元に飛んできたのは。
ひとりごち、ポケットの中の小さな固まりを指でなぞろうとして、躊躇う。キラの言葉が事実なら、これはアスランの好意ということになる。
が──
「でも、なんでこれなんだ?」
ポケットの中には、松ぼっくりに似た小さな固まり。
アレックス・ディノの名前で送られてきたパインコーンツリーの中に紛れていたそれは、銀色の小さなはりねずみだった。
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