ジャスティスからそのまま合流したアスランは、パイロットスーツしか着るものがなく。地球連合の軍服にも抵抗があるだろうと考えて、キラはカガリに言ってオーブの作業服を借りてきた。
オレンジの上着にグレーのズボンというコーディネイトはけして悪くはないはずなのに、アスランには致命的に似合わない。
それを見て笑ったキラに、アスランが少しだけ機嫌を損ねたような顔を向けた。
「ごめん、アスラン」
無言で抗議の目を向けてくるアスランに、苦笑を噛み殺してキラは謝る。
「いいけど……」
不満げな声には、これを持ってきたのはお前だろという非難が言外に含まれていて、これにもキラは苦笑を噛み殺さなければならなかった。
こんなに子どもっぽい人だっただろうか。
キラの知るアスランは誰よりも大人びた子どもで。いつも年上みたいに感じていたのに、いま目の前にいる彼はまるで小さな子どもみたいだ。
「三年振りだね」
感慨深くそう言うと、アスランが、ああと応える。
戦火の中での遭遇もラクスを引き渡したときも、再会という実感がなかったのは、触れ合う距離ではなかったからだ。
四歳の出会いから三年前のあの別れまで。キラの記憶はいつもアスランとともにあって、手を伸ばせば届く距離だった。こんなに離れるなんて思いもしなかった。
けれどもいまアスランは、キラの目の前にある。
「さわっていい?」
「何をだ?」
「アスランを。アスランにさわりたいんだ。さわっていい?」
聞くと怪訝な顔をしたけれど、アスランは特には何も言わなかった。
「背、伸びたね」
指先で頬に触れる。
「前髪も伸びてる」
指で目もとに掛かる髪を払う。
「でも変わってない」
蒼い髪も碧の眸も唇も肌も何もかも。
「変わってない、アスラン」
「キラ……」
戦って殺し合って。あんなに遠く離れた距離が、いまは嘘のように近い。
触れ合ったのは三年振り。
キラがアスランの手を取って指先に口付け、そのまま手のひらを自分の頬に押し当てる。
「アスラン」
「ん?」
「もっとよく見せて?」
アスランが怪訝な目を向ける。それに笑んだ。
「よく見たいんだ、アスランのこと」
「キラ……」
指先の戸惑いは、キラの意図を察した故だ。
アスランの手のひらに唇を寄せながら、キラは彼の戸惑いを強い視線の先に閉じ込めた。
「でも、キラ」
「大丈夫。ここには誰も来ないよ」
キラの部屋は将校用の二人部屋で、いまはアスランと同室ということになっている。パスワードはアスランに決めてと言って変えたから、誰かが間違って入ってくる心配もない。
アスランはキラの視線から逃れるように目を伏せ、それでも言われた通り、上着に手を掛けた。
キラが似合わないと言ったオレンジのそれを取ってベッドに投げ、ズボンを脱ぐ。ザフトのアンダーだけになったアスランは真っ直ぐキラに向き合ったけれど、そんなアスランに、キラは、全部と言った。
「全部見せて?」
「…………」
「アスランの全部が見たいんだ。お願い」
昔みたいに。
別れの日に触れ合って以来、こうしてアスランを見ることも触れることもなかった。
アスランは少し迷い、それでも、キラに言われた通りアンダーも脱いだ。
「隠さないで」
キラに手首を掴まれたアスランの目が、戸惑いに揺れる。
尖った肩。陽に当たらないその場所は、昔と同じように白かったけれど、昔にはなかった小さな傷が幾つもあって、それがキラを切なくさせた。
そのひとつに舌を這わせると、アスランの身体がピクンと跳ねる。
「き、きら……っ」
昔と同じように、甘いうずきがアスランを支配してくれているのだろうか。
愛しさは指先から溢れて、唇にたどり着く。
「やっと会えた」
ザフトのアスラン・ザラではなく、キラの大切な幼なじみのアスランに。
思わず零れた言葉。首筋に顔を埋めると、甘い匂いがした。
「……していい?」
「ばか」
アスランの小さな抗議は、口付けの中に消えた。
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