ラクスの肩に腕を回し、笑顔を向ける僕に、アスランが淋しそうな笑みを向ける。僕はそんな彼の顔を見て、昏い笑みを吐く。
嫉妬ではなく、淋しさ。ラクスと僕を見た彼が、どんなふうに感じるか、どんな顔をするか、僕はよく知っている。
それを知っていて見せ付けた。
だって君が悪いんだ。
デスティニーのパイロット、彼の名前なんて呼ぶから。
血まみれになって、意識を失って。胸が張り裂けそうになるくらい心配したのに、うわ言でずっとアスランが呼んでいたのは彼の名前だった。彼のために無茶をした。
ザフトで何があったかなんて僕は知らない。誰と出会って、誰とどんな関係にあったかなんて知るはずがない。
ザフトのアスラン・ザラ。
僕の知らないアスランは、いつもザフトとともにある。
「──じゃあね、アスラン」
わざわざラクスの肩に腕を回して、背を向けた。
不安そうな彼の顔。母親に置いて行かれる子どもみたいな。きっと、そんな顔を彼はしているのだろう。自分はしっかりしていると思い込んでいる彼に、そんな自覚はないのだろうけれど。
「──キラ?」
医務室を出た途端、肩に回した腕を抜くと、ラクスが怪訝な顔を向けてくる。
僕はラクスにも作った笑みを向けた。
「ああ、ごめんねラクス。僕は寄るところがあるから」
「そうですの?」
「うん。だから先に行ってて?」
何も聞かないラクスは、わかりましたと言って、先にブリッジに向かう。そんな彼女を見送りながら、僕はうつろな笑みを吐く。
ザフトの赤服。アスランが着ていたザフトの。確かによく似合ってはいたけれど、でも始末してしまわなくちゃ。彼のセイバーと同じように。
「君は僕に守られていればいいんだよ」
ずっと手の中にいれば誰より大切にしてあげるのに。
黙って守らせてくれる人ではないけれど。だから余計、始末におえない。
「ほんとうに困った人だね」
手が掛かるったら。
昏いものが内に生まれる。それは針の穴のように、まだ小さなものではあったけれど。でも何より昏く、痛みを伴う。
その小さな痛みを心地よく感じる僕に、僕は嗤う。
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