夜。真夜中と呼ばれる時間。アスランは小さな違和に気付いて目を覚ました。
「また……」
いつの間に潜り込んだのか。手足を丸めたキラが背中にくっついている。気付かない自分もどうかとは思うが、しょっちゅう潜り込んでくるキラもどうなんだと思う。
子どもじゃあるまいし。
小さな頃には、こうしてふたり一緒に寝た。ベッドがふたつ並んでいても、他に部屋が用意されていても、キラが枕を持ってアスランのもとにやってきた。
『君が眠れないんじゃないかと思って』
キラのセリフはいつも同じで、アスランの答えもいつも同じだった。
『眠れないのはお前だろ』
そんなことないよというキラの反論も、そんなことを言いながらアスランがベッドを詰めてやるのもいつものことで、成長とともに狭くなるベッドの中で、ふたり潜んで同じ夢を見た。
あのとき話した未来とはずいぶんかけ離れてしまったけれど、背中に感じるキラの温度は変わらない。昔もいまもキラの温度はアスランより少し高くて、こうしていると昔に還ったみたいだ。
敵としての再会。対峙した瞬間。互いの友を殺した戦場。殺しあった時間。そのどれもを消すことも忘れることもできないけれど、それでもいまは共にいる。
「お前はきっと、俺より強いんだろうな……」
たったひとり、ナチュラルの中で戦ってきたのだ。差別や偏見があったことも容易に想像がつく。
いつから彼はこんなに強くなったのだろう。それとも昔からだろうか。自分が気付かなかっただけで。
「おやすみ、キラ」
小さく呟いて、再びアスランは眠りに落ちた。
しばらくして今度はキラが目を覚ます。背中を向いてたはずのアスランの顔がいつの間にか目の前にあって、その端正な寝顔に小さな笑みを洩らした。
「どうしよう、アスラン」
小声でキラは言った。
「カガリにばれちゃったよ」
アスランは眠ったままだから、もちろん彼に聞かせるつもりはない。
「シーツが片っぽしか汚れてないって、カガリの耳に入っちゃった」
人手不足のアークエンジェルにはクサナギからお手伝いに来る人がいて、そこからカガリの耳に入ったらしい。
『一緒に寝てるのか、お前ら』
カガリに聞かれ、うんと悪びれずキラは答えた。
『寝てるよ』
『狭くないのか?』
『狭いけど別に不自由してないし』
『でも狭いんだろ? もうひとつベッドがあるんだから、そっち使えばいいじゃないか』
『でも月でもそうしてたし』
『でも狭いんだろ?』
キラは視線を落とした。
『――アスランがさ』
キラはいつかの夜を思い出す。
『何度も確かめに来るんだ。ぼくが寝てると、ぼくが本当に生きてるのかどうか』
そして寝息を確かめて安心する。
『彼、ぼくを殺したって思ってたから』
何度も何度もアスランは躊躇いがちに確かめにきた。急に不安にかられるのか、時にはキラを起こそうとして、慌ててそれをやめたときもあった。
彼はどんなふうに眠れない夜を過ごしてきたのだろう。それを思うと胸が痛い。
『ぼくが死んで、いちばん悲しむのは父さんと母さんかもしれないけど、でもいちばん苦しむのはアスランだから』
そのときキラを呼ぶ声がして、キラはカガリに手を振った。
『じゃあね、カガリ。アスランには内緒だよ』
目の前の小さな寝顔に額をくっつけて、小指に小指をそっと絡める。
「約束するよ、アスラン。ぼくは君より先に死なない」
だから君も約束して?
「ぼくより先に逝かないって」
一緒に生きて、一緒に死のう。戦場ではなく、もっと先の未来に、ふたりで。
「約束だよ」
そう呟いて、キラもそっと目を閉じた。
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