『海よりも』


  強い潮風が蒼い髪をさらう。
 目を細め、海の果てを見遣る幼なじみは風を追い、キラはその横顔を視線で追った。
 平和だと思う。
 出撃も戦闘もない日常を平和と言うのなら、間違いなく今は平和なのだ。
 キラは傍らで佇むアスランの手首を取って引き寄せた。
「キラ?」
 片腕で抱き寄せ、その腕を背中に回す。
 直に伝わる体温と首筋の甘い匂い、薄い背中。くすぐったい思いは、すぐに欲に変わる。
「――いい?」
 言葉に、アスランが困惑した顔を向けた。いやじゃないから困ってる、そんな顔だ。
 キラはくすっと笑う。
「いい? アスラン」
 再度の要求に苦笑に似た笑みを浮かべた幼なじみは、薄く唇を開けてキラに応じた。
 唇はいつも甘い。
 やさしくするときも、激しくしてしまうときも、アスランは変わらずキラを受け止めてくれる。
 いびつな自分のいびつな熱。どんな形でもアスランは変わらず、受け止めようとしてくれるから。
 水みたいだとキラは思う。もしくは海か。
 たぶん溺れてる。自分はこのやさしい幼なじみに。
「キラ……」
 キスひとつで潤んでしまった目を向けて、それでもアスランが逃れようと身体をよじった。
 その耳を甘く噛んで、キラはそっと耳元に囁く。
「大丈夫だよ」
 秋の海は肌寒くて、アスランの耳から体温を奪うから、いつもやわらかい耳たぶがシャーベットみたいに冷たい。
「ここには誰もいないから」
 ここはアスハの家の私有地で、無人島でもあるから誰が見ている心配もない。
「ね?」
 脇腹に右手を忍び込ませ、それをそのまま下へと伸ばした。
 下ろしたファスナーから中を探ると、アスランがきゅっと身体を強張らせる。
「キラ……っ」
「うん。肩に掴まってて」
 そう言って跪き、キラはアスランの腰を掴むと、硬くなりはじめたものを口に含んだ。
「あっ……!」
 ギリッとアスランの指がキラの肩に食い込む。
 明るい陽の下でする行為は、いけないことをしているみたいで、いつもよりアスランの目が潤んでいる。
「きら……」
 もう泣きそうになっているアスランは、縋るものも支えてくれるものもなくて、キラの手のうちで子犬みたいに震えた。
「キラ、もう……!」
「うん、イッていいよ?」
「だめだ、いやだ、キラ」
「約束したでしょ? 隠さないって」
「や……」
 出生のこともフレイのことも、キラは全部、アスランに話した。だからアスランも隠さないでとキラは言った。
 一方的な約束。ずるいという自覚はある。それでも受け入れてくれた幼なじみを、キラは誰よりも強く欲する。
 自分のものにしたいと。
 キラの口の中に放ったアスランは、そのまま膝を崩してへたり込み、そんなアスランの頬を撫でながら、キラは言った。
「今度はアスランがしてくれるんでしょ?」
 コクンと頷いたアスランの目が、欲情に濡れて潤んでいる。
「飲まなくてもいいからね」
 口を拭いながらキラが言うと、アスランがキラの頬をぺろりと舐めた。


2003.11.3

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