格納庫に向かう途中で呼び止められた。
アスランと名を呼ばれ振り向くと、キラがいる。
「これ」
そう言ってキラが差し出したのは、黄色の小さな布。
「なに?」
「手出して、アスラン」
怪訝に思いながらアスランが腕を出すと、キラがアスランの二の腕に布を通した。
「地球ではね」
キラの器用な指が、黄色い布をきゅっとアスランの二の腕に結ぶ。
「黄色が身を守る色だって聞いたから」
お守りだよ、と言ったキラが、ひとつ息をつく。
「前に僕たちはまだ死ねないって言ったけど……」
キラの言葉に、アスランはほろ苦く目を伏せた。
プラントに戻ろうとしたとき、キラがアスランに言った言葉。
まだ死ねない、だから戻って来いと。
「そのときはまだ来てないから、アスラン」
「……ああ」
まだ死ねない。人の命が簡単に失われるいまだからこそ、まだ。
キラが結んでくれた黄色いの布に目をやって、アスランは少し躊躇ってから、布と言った。
「アスラン」?
「その……もうないのか? キラにも……」
そんな習慣は知らなかったから、自分はキラに何もしてやれない。いまから捜す時間もない。
このままジャスティスとフリーダムに分かれたくなくて、それでも何をしていいかわからなくて、アスランは黙り込む。
するとキラが、ほらとパイロットスーツの襟元を開けた。
襟元にやはり黄色い布が結んである。
誰かがキラに結んだのだろうか。ラクスかアークエンジェルの誰かが。
その布を結んだのが自分ではないことに少しの淋しさを覚えながら、それでもキラを守るものがあることに安堵する。
「……なら、いい」
アスランが小さく笑うと、キラが両手でアスランの顔を包み込んだ。
「キラ……?」
「地球にはもうひとつね」
顔を覗き込んでキラが言う。言って笑う。
「愛する人の無事を祈って、黄色いリボンを家に結ぶ習慣もあるそうだよ」
リボンがなかったからこんなのになったけど、とキラが続ける。
「愛する人が無事に帰ってきますようにって。――アスランが僕のもとに還ってきますように」
「キラ……」
「約束するよ。僕はアスランのもとに還ってくるから。僕が帰るのはアスランのところにだけだから。だからアスランも約束して?」
キラのもとに還ると。
なぜか泣きたくなって俯いてしまったアスランに、キラはやさしく笑んだ。
「約束して、アスラン」
やさしく響くキラの声と頬から伝わる温度に涙腺が弛んで、止めることができない。
「う…うん――」
抱き合う手を離してしまえば、そこはもう戦場なのに、それでもやさしさが溢れてゆく。
トクトクと聞こえるのは心臓の音だろうか。
いまはそれしか聞こえない。
パイロットスーツ越しに抱き締められても、キラの温度を覚えている。
ぎゅっと強く抱き締められて、心音がひとつに重なったような気がした。
「――行こうか」
「ん……」
約束を果たすために。
僕たちは。
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