ハァと今日、何度目かの溜め息をキラがつくと、傍らで優雅にお茶をしていたラクスが、ソーサーにカップを戻した。
「どうかなさいました」
キラ?と、これまた優雅にラクスが聞く。
「ラクス……」
少しうらめしげな顔をして、キラは溜め息のかたまりをついた。そんなキラに、ラクスはアイドルの定番、斜め45度に首を傾げて顔を覗き込んでくる。
「何か悩み事でも?」
キラはぽつりと悩み事を打ちあけた。
「僕って、そんなに魅力ないかな」
「あらあら?」
「アスランが手を出してくれないんだ」
「まあまあ」
「付き合い始めて、もう随分たつのに……」
ハァと、ここで再びの溜め息。
小さな頃からの幼なじみで、親友だ戦友だ、いや敵だ味方だといろいろあったけれど、ようやくふたりは落ち着くところに落ち着いた。
それから数ヶ月。何だか今更すぎて、いろいろ戸惑ったりもしたけれど、取り敢えずいまの関係は、互いに恋人同士だと認識している。
しかしである。恋人なら当然するべきあれやこれやに、いまだ辿り着いていないことをキラは憂いているのだ。
「……やっぱり、セイバーをダルマにしたのがまずかったのかな」
意外に根に持つよね、アスランって。
キラがそう言うと、ラクスが指を顎に置いて、小鳥のように小首を傾ける愛らしいポーズを取った。
「むしろ違う理由ではないかと思いますの」
「って?」
「アスランに期待するだけむだだと、わたくし思いますのよ」
カメラ目線で、ほうっと息を吐いて見せる。
「あの朴念仁様ったら、国民的アイドルにして歌姫のわたくしに、婚約して半年も手を握ろうとなさらないくらい紳士的で、一年半も頬にキスすら考え付かないくらい心身ともにストイックな方ですもの」
ここで一旦言葉を切って、キラを見る。
「キラのことも同じではないかしら」
ダンッとキラはテーブルを叩いた。
「そんなに我慢できないよ!」
それでは最後まで行き着くのに何年掛かるか。枯れてしまうではないかとキラは思う。
ラクスがカップをソーサーごとテーブルに置いて、キラに訊ねた。
「キラからというわけにはいきませんの?」
男同士ですし。
キラは少し泣きそうな顔を上げた。
「……あんな痛そうなこと可哀想でできないよ」
それくらいなら僕が!と思っていたのだ、キラとしては。アスランにそんな無理をさせるくらいなら、自分が痛い思いをした方がまだマシだ。
ラクスが、まあと頬に手をあてる。
「でも気持ちがいいともいいますわ」
「……そうなの?」
「女性は男性の7倍いいといいますもの。アスランもその半分くらいはよくなるのじゃないかしら」
「7倍……」
考え込むキラに、ラクスが約3.5倍ですわと訂正を入れる。
「キラの手で気持ちよくしてさしあげれば」
「手……」
「あらあら。これ以上のコメントはアイドル生命にかかわりますわね」
にっこり。
議長生命ではないのかというツッコミは、アイドル政権と言われている現プラントにおいてはどうでもいいことだろう。たぶん。
「今日はキラの誕生日ですもの。きっと神様も許してくださいますわ」
キラが顔を上げた。
「そうか。そうだよね、ラクス!」
アスランの許可の方は、ふたりにとってどうでもいいようだった。
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