ブルーは傍らの青年を見た。
男というには青過ぎ、少年というには少し大人びて見える彼はジョミーと名乗り、ブルーを見るなり「会いたかった」と目を細めた。
「その、ジョミーくん……?」
「ジョミーって呼んで」
ブルーは少し躊躇ったのち、彼の言う通りに名前を呼んだ。
「では、その、ジョミー。申し訳ないが、君は人違いをしていると」
会いたかったと言われても、ブルーは彼を知らない。彼が一方的に自分を知っているのかとも思ったが、どうも違うようだ。
ブルーの記憶になく、ジョミーがブルーを知っていると言うのなら人違いの可能性が大きい。しかしジョミーは苦笑に似た笑みを向けると、静かに首を振った。
「人違いなんかじゃない。ずっと会いたかったよ、ブルー」
大切なもののように、そっと彼はブルーの名を口にする。誰かに聞かれたら、ブルーが消えてしまうとでも思っているかのようだ。
その声と向けられた瞳に何故か胸が騒いで、ブルーは少し困った顔になった。
「その、申し訳ないが、ぼくは君を知らないんだ」
それともどこかで会っていたのだろうか。もっと子どもの頃にどこかで。
ジョミーと名乗る彼は、もうすぐ14歳になる自分より少し年上に見える。この年頃の青年が育英都市にいることは疑問に思うが、自分より年上なら、彼だけが覚えていても当然なのかもしれない。
言うと、何故かジョミーは笑顔になった。
「うん、知ってる」
「だって、いま」
人違いではないと言ったばかりなのに。
怪訝な顔を向けるブルーに、笑顔のまま彼は言った。
「いまの僕はあなたに会ってるけど、いまのあなたは僕に会ってないから、だからあなたが僕を知らなくて当然なんだ」
わけがわからず立ち尽くすブルーに、彼は未来から来たのだと言った。
「あなたは信じないかもしれないけど、僕は300年後の地球から来たんだ」
「300……」
信じる信じない以前の問題だとブルーは思う。あまりにも唐突すぎて思考が追いつかない。
しかしブルーの戸惑いをよそに、彼は、うんと頷いた。
「300年後に僕たちは会うんだ。会って約束するんだ」
地球へ行くって。
その約束をジョミーは果たし、地球へ降りた。しかしミュウの存在を許さないグランド・マザーは地球を破壊しようとして暴走、諸悪の根源はミュウであるとした。だが、ミュウの根絶をグランド・マザーは許されていない。したがってグランド・マザーは、ミュウという種の根絶ではなく、組織の壊滅を謀ろうとした。
「伝説のタイプ・ブルー・オリジン、ソルジャー・ブルー。アルタミラを生き延び、シャングリラを造り上げ、300年の長きに渡ってミュウを率いた」
「君は何を……」
「あなたがはじまりなんだ。だからマザーは、あなたがタイプ・ブルーとして目覚める前に殺そうとしている」
真っ直ぐな目が静かに告げる。沈黙が落ちた。
「――待ってくれ」
先に口を開いたのはブルーだった。動揺のせいか、声が掠れている。
「ミュウってなんだ? ぼくを殺そうとしてる? いったい誰が!?」
ミュウという言葉は公にされておらず、ブルーが知らないのも当然だった。
「だいたい300年も導くなんてできるわけ……」
ない。普通なら。
ブルーの反論にジョミーはどこか懐かしそうに目を細め、愛しげに伸ばした指でブルーの頬に触れようとした。
びくりとブルーが身を固くする。
いまのブルーにとって、ジョミーは突然現れた見知らぬ人だ。身構えるのも拒絶するのも当然の反応で、それに気付いたジョミーは、触れる直前に指を止めて握り込み、自嘲めいた視線とともに腕を降ろした。
「……僕も同じことを言ったよ」
昔ねと言ったあと、違うな、未来だと訂正して苦笑する。
「少し違うけど、でも同じように信じなかった。僕もあなたにこんな思いをさせたんだ」
「君……」
「ジョミーだよ、ブルー」
また、あの呼び方。
ジョミーの呼ぶブルーの名は、言葉というより音に近く、ブルーの琴線に直接触れてくる。
「ジョミー……」
「うん、ブルー」
もう一度呼んで、とジョミーは言った。
「ジョミー?」
「うん、うん、ブルー。ずっと会いたかった」
彼が、ジョミーが泣いているのかとブルーは思った。けれど彼の目に涙はなく、ただ鮮やかな目が真っ直ぐにブルーを映している。
誓いのようにジョミーが言った。
「僕はあなたを守るために来たんだ」
そのために未来から来たのだと彼は言った。
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