「もう行かなくちゃ」
ジョミーが言うと、ブルーが幼い顔を悲しげに曇らせた。
「行ってしまうの?」
ほろ苦く笑って、ジョミーはブルーのか細い手を取り、頷いた。
「うん」
「どうして?」
「どうしても」
ジョミーの時間は限られている。いまここに在る自分は思念波みたいなものだ。生身の身体は遠い未来の地球で死に掛けている。
それだけではない。自らが生み出した時間の歪みを感じられるほど、自分の存在はこの世界で異分子だ。これ以上ここに留まれば、自分は世界から弾き出されてしまうだろう。
ブルーは薄い色の瞳を瞬かせ、もう一度ジョミーに聞いた。
「絶対に?」
「絶対に」
ほんとうは。
ほんとうはこのままブルーをさらってしまいたかった。
彼がこれから辿る運命を知っている。
このあと彼は、子どもの頃の記憶を奪われ、実験動物のように扱われ、そこから逃げ出して尚もソルジャーとして同胞のために戦い続け。
300年。
いったいどれほどの永さなのか。地球へ辿りついて尚、その数分の一程にしか生きていない自分には、見当すらつかない、気の遠くなるほどの――
こんなにも幼いのに。
いま目の前にいる彼は、ジョミーの知る偉大な長ではない。13歳の非力な子どもだ。ミュウが総じてそうであるように、虚弱で大人しい痩せっぽちの。
「ブルー……」
ジョミーは折れそうに細い身体を抱き締めた。
「待ってるから」
行かせたくない。行きたくはない。けれど、ここで過去を変えれば、自分はグランド・マザーが望む通りの未来を作ってしまう。
「地球で待ってるから……」
「地球?」
うん、とジョミーは泣き笑いの顔を腕で拭った。
「君の蒼い星だよ、ブルー」
いまの君の瞳の色のような。
そして知る。
ほんとうの約束の地は、あの荒廃した星などではなく、さらに遠い未来の、いつか再びブルーとまみえる星のことなのだと。
いつか、きっと、自分たちも地球も生まれ変わる。生まれ変わったあの星で、再び出会う。蒼く青いあの星で。きっと。
「僕は地球にいるよ。だから会いに来て」
今度は自分がブルーを待つ番だ。
「地球で待ってる。もう一度、僕たちは会うんだ」
蒼いあの星で。
ブルーの手が、恐る恐るジョミーの頬に伸ばされた。
「もう一度?」
「うん」
「地球で?」
「そうだよ」
自分へと伸ばされた幼い手を取り、ジョミーは細い指に誓いのキスを落とした。
「約束する」
だから、ブルー。
「約束するよ、約束を果たすよ」
きっと僕たちは出会うから。例え過酷な運命が待っていたとしても、自分と出会って彼が得た安らぎは、偽りではないと思うから。
だから、それまで待っていて……。
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