ジョミーが生まれたとき、ブルーは真っ先にハーレイに報告、しかし長老たちの反応が鈍いと知ると、次にフィシスのもとに来て、拗ねたように愚痴をこぼした。
「どうしてハーレイたちは気付かないんだろうね?」
ミュウたちの偉大な長は、頬杖をつきながら小さく肩を竦めて見せる。心の溜め息が聞こえそうな、というよりは、心の中で唇を尖らせているかのようだ。
「こんなに強い力なのに」
呟いて視線を斜めに向けてしまったブルーに笑みを浮かべながら、フィシスは彼の前にカップを置いた。
「それだけ強いということなのでしょう。わたしたちにも気取られない程に」
力が強いほどESP検査に引っ掛からない。それはミュウ同士にも言えることなのだろう。それだけ強い力なのだと言ったのは当のブルーなのに、誰からも賛同を得られなかったことが不満だったらしく、彼は賛同者を求めてフィシスのもとに来た。
「君にも見えないかい?」
今度はフィシスの番らしい。ブルーに聞かれ、フィシスは声の方に顔を向けた。
「でも未来は見えますわ」
言葉に、ブルーが息をつく。
「やっぱり見えないのか」
小さく肩を落としたのがわかり、やさしくフィシスは水を向けた。
「でも、あなたには見えるのでしょう?」
ブルー?というと、彼が笑んだのがわかった。
「ああ。見えるというより感じるんだ。でも、どうしてだろうね? なんだか懐かしい感じがするよ」
不思議だねと言ったブルーは、同じタイプ・ブルーだからかな?とちょっと自信がなさそうに付け加えた。
苦笑に似た慈愛の笑みは、生まれたばかりの子どもに向けられたものなのだろう。
ジョミー・マーキス・シン。彼は生まれたときから、こんなにも愛され、祝福されているのだとフィシスは知る。
そんなブルーにやさしい笑みを向けながら、もしかしたらとフィシスは言った。
「どこかで会っているのかもしれませんわ」
フィシスの言葉に、ブルーが笑った。
「まだ、ほんの赤ん坊なのにかい?」
「ええ」
「生まれたばかりだよ?」
「それでもですわ」
暗く沈む意識の底で、かつてフィシスに聞いた話をジョミーは思い出していた。
ブルーが感じた懐かしさの意味。やっと、それがわかった。彼が何故、あれほどジョミーに記憶を手放すなと言ったのかも。ほんとうなら、もっと早くにジョミーを保護してもよかったのだ。
彼が手放してしまった記憶。それでも、彼は覚えていてくれた。
彼がそそいでくれた愛情の大きさを、ジョミーはいまになって知る。彼はジョミーに思い出をくれ、ただ黙って見守ってくれた。ただ、ジョミーがジョミーであるようにと。
「ブルー……」
もう一度はじめるための眠りを、ジョミーは静かに受け入れた。
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