それを地球から見たのははじめてだった。
地球に降り立ったのがはじめてというせいもある。しかし、テラズナンバーやユニバーサルの映像ですら、地上から見たものはあまりなかったはずだ。
夜空に浮かぶ月。
太陽系を臨む宇宙や船から見たものとはまるで違う地上から見上げたそれは、ジョミーのよく知る人の面差しに似ているような気がした。
「ブルー……」
ほろ苦くジョミーは笑う。
こんな荒れ果てた地上より、空に浮かぶ月の方がよほど聖地のようだ。
月にまつわる様々な伝説。美女が住み神が住まう天上の。
「そう言えば、うさぎも住んでるんだっけ」
ひとりごちて、コツンとガラスに頭を預けた。
白い毛皮に赤い目のうさぎは、確かに誰かに似ているとジョミーは思う。
仄かに白い月。
冷たく距離を置きながら、光はやさしく地上を包む、孤高の白。
「やっぱり似てるな」
そんなところまでそっくりだ。
地球に残る古い物語によれば、月から地上に堕とされるのは罪人なのだという。
けれどブルーなら、罪人が住まう星でも焦がれたのだろうか。
月に似た面差しで、紅い目に憧憬を宿して。
「あなたはそこにいるの?」
天上と呼ばれる月のどこかで、自分たちを見ていてくれるのだろうか。以前と変わらぬやさしさで、微笑んでくれているのだろうか。
心のどこかで、地球に来れば彼を感じるのだと思っていた。彼がここで待ってくれているのだと。
けれど、死に瀕したこの星に、彼の気配は感じない。
荒れ果てた地球。
それでも、とジョミーは思う。それでも僕は、地球を見守る月を見付けた。
エグドラシルのガラス越しに月を見上げ、ジョミーは誰に聞かせるでもなく言葉を落とす。
「やっとここまで来たよ」
あなたが焦がれた蒼い星ではなかったけれど。それでも、一緒に見たかったと。
「あなたに話したいことがいっぱいあるよ」
あなたに聞いてほしいことがたくさんある。
月と地球と。そのどちらをも隔てるガラスに頬を寄せて、ジョミーは祈るようにその人の名を呼ぶ。大切な、その名を呼ぶ。
その名とともに浮かぶ夢のように美しい星を思いながら、ジョミーは静かに目を閉じた。
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