いつものように、ジョミーは青の間を訪れた。そこで眠る人の姿を認めてベッドの傍らに立つ。
「ブルー」
眠る人の名をジョミーは呼んだ。
「まだ起きないの?」
もちろんブルーが返事をすることはない。
ジョミーはそっと彼の額にかかる白金の髪を払った。整った貌が露わになる。
秀麗な額、完ぺきな鼻梁、濃い影を落とす長い睫。パーツの一つ一つは精巧に作られた人形のように硬質なのに、彼から受ける印象はいつもやさしくてやわらかい。
大きな人なのだとジョミーは思う。いや、むしろ深いというべきか。
凄惨な経験をしていながら、不思議に彼には悲惨さも悲哀さも感じられない。人間を憎み、恨んで当然なのに、彼にあるのはただ自分たちを理解し、受け入れてほしいという切なる願いだけだ。
どうすれば、それほどに強くいられるのか。虚弱なミュウたちの中にあってさえ、華奢といっていいくらいの人なのに。
ジョミーは寝顔に視線を落とす。
「ねえ、ブルー」
口の端に苦笑を乗せ、呟いた。
「寝顔は見飽きちゃったよ」
ブルーの眠りは深い。
けれど、時折、気まぐれに彼の意識が浮上することがあって、そんなとき、彼の思念はジョミーのそれに触れてゆく。光に惹かれ水面に昇ってくる魚のようなそれは、手を伸ばすと、銀色の腹を翻して逃げてしまうところまでそっくりだ。
深いブルーの眠り。
深すぎて誰にも追うことはできないのに、彼の思念はいつもやさしく、ゆりかごのようにこの船を包んでくれる。 彼の意識を、掴まえたくないと言えば嘘になる。掴まえて引き摺り上げれば、彼はきっと目を覚ましてくれるだろう。けれど、ミュウのためにずっと戦い続けてきた人を、休ませてあげたいという気持ちにも偽りはなく。
大切なもののように、ジョミーはそっと指先で彼の頬をなぞり、最後は唇に触れた。硬質な彼のパーツの中にあって、唯一、人間めいたやわらかな場所。
ここに来たばかりのとき、ジョミーの頭の中はマムのことでいっぱいだった。
やさしかった両親のことを片時も忘れたことはない。けれど、いつのまに自分の頭の中は、彼でいっぱいになってしまっていたのだろう。
「――あ。」
ジョミーの口許に笑みが浮かんだ。
いま、ブルーに触った。
ほんの一瞬、浮上した彼の意識が、掠めるようにジョミーに触れ、離れていった。
「ブルー……」
やさしい想い。ブルーの。昔、マムに貰ったキスに似ている。
彼の眠りを守りたいとジョミーは思う。そして、目覚めてほしいとも。
「矛盾してるね」
相反するふたつの思い。自分でも自覚しているその思いに苦笑して、白い額にキスを落とした。
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