その子どもの顔には見覚えがあった。
アッシュブロンドの髪とブルーグレーの瞳。色のせいで印象は違うが、面影は間違いなく彼のものだ。
ソルジャー・ブルー。
彼の顔をジョミーが見誤るはずがない。
ジョミーは彼に近付くと、跪いて目線を合わせ、呼びかけた。
「ブルー……?」
十一、二というところだろうか。前に彼の記憶が流れ込んできたときより、少し幼い。彼は不思議そうな顔をしてジョミーを見上げた。
「ジョミー?」
今度はジョミーが驚く番だった。
ミュウの子どもを見付けたあのときのように、幼いブルーは子ども部屋にいた。ジョミーの知るソルジャーでも、成人検査のあとの辛い記憶の中の彼でもない。目の前の彼は、しあわせな子どもに見えた。その子どもの口から自分の名前が出てきたことに驚き、それから苦笑する。そうだ、これは夢なのだ。
でなければブルーの記憶だろうか。
成人検査より前の記憶はないと聞いたが、記憶とは本来、消えてなくならないものだ。ただ、思い出せなくなるだけで。
ジョミーは小さなブルーに笑いかけた。
「そうだよ、ジョミーだ。よくわかったね」
ジョミーが言うと、屈託なくブルーも笑った。
「だって知ってたもの」
「へえ?」
「いつかあなたと会うって。あなたに会って、ぼく、やっと安心するんだ。ぼくね、それまで生きていなくちゃいけないんだよ」
「ブルー?」
「何があっても、生きていなくちゃいけないんだ」
予知……?
小さなブルーの中の小さな決意。
これがブルーの記憶で過去の出来事なのだとしたら、自分は昔のブルーに出会い、ブルーは自分との出会いを予知していたことになる。
「ブルー、あなたは」
知っていたというのだろうか。こんなにも幼いうちから、いずれ自分に訪れるであろう凄惨な未来を。知っていて、尚も穏やかな笑みを失わずにいたと。
ジョミーの心を読んだのだろうか。ブルーがかわいらしく首を傾げる。
「また会える? ジョミー」
ジョミーは小さなブルーの手を取り、誓いのように口付けた。
「ええ、必ず……!」
彼の笑みとともに、ジョミーは目覚めた。
青の間で、今日も彼は眠っている。そのベッドの傍らに立ち、ジョミーは眠る彼の頬にそっと手を伸ばした。
「ブルー」
夢の中のように名を呼ぶ。
「子どもの頃のあなたに会ったよ」
彼自身すら忘れてしまった幼い彼に。
「あなたは僕を見つけたって言ったけど」
指先で頬に触れ、補聴器をなぞる。
「僕もあなたを見付けたよ、ブルー」
おそらく自分は過去に翔び、まだ幼いブルーと出会った。
実感はない。リアルな感覚も。むしろ夢のような気もするが、夢ではないとジョミーは思う。
自分はあの「ジョミー」と同化していた。ブルーの記憶を自分のことのように感じたあのときのように、今度は彼の中の「ジョミー」を通し、彼を見た。
失われたブルーの記憶。
あれがブルーの記憶なら、ブルーの過去に翔ぶのはもう少し先の自分か。
名残り惜しげに指で髪を遊んでいると、ぴくりと彼の睫が震え、薄い瞼が開いた。印象的な紅い瞳がジョミーを映す。
「ブルー……」
目覚めは何日ぶりだろう。驚きと嬉しさに目を見開くジョミーに、彼が静かに微笑みかけた。
「……ジョミー」
おはようと彼が言う。目覚めたとき、いつも真っ先に彼がジョミーに言うセリフだ。
「おはよう、ブルー。まだ真夜中だけど」
そうかと彼は言い、ベッドに身をゆだねたまま、一つ息をついた。
「夢を見ていたよ」
「どんな夢?」
ジョミーにだけ許された無礼。ブルーのベッドの縁に腰掛け、白いその顔を覗き込んで聞くと、ブルーが小さく苦笑する。
「それが思い出せないんだ」
「いま見たばかりなのに?」
「どうしてだろう。悪い夢ではなかったようなのに」
呟く彼に、ジョミーは笑んだ。
「その夢だけど」
「あ? ああ」
「たぶん僕は知ってるよ、ブルー」
言って、ブルーの上に覆いかぶさる。
不思議そうにブルーは紅い目を瞬かせ、それからジョミーのキスを受け入れるために目を閉じた。
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