背中合わせの自分
〜たった一歩ぶんの距離〜


   闇に支配された森の中を、銃を手にした二つの人影が走っていた。

   大道寺沙羅と大道寺双樹。

   いわずと知れたサバゲーマニアの姉妹だ。

   闇を駆け抜け、森の奥深くで彼女たちが見つけたのは暗い風穴。

  「このあたりでいいかしら?」

  「そうね。ここからなら周りを見渡せるし、いざとなったら奥に逃げ込むことができるわ」

   二人は風穴の前に陣取り、お互いに背中を合わせ、反対の方向を向いていつ襲ってくるとも知れない敵の影を監視し始めた。

   遠く近く、響いてくる風の音は静かで、近くに人の気配はない。

   戦闘経験の多い二人にとって、戦場でのこの空白の時間は、緊張を解き、精神を休めることのできる数少ない時間。

   二人はこのようなとき、何かを、特には胸の中にわだかまる想いに耽ることにしていた。


沙羅

 私と双樹はいつも一緒だった。

 姉妹だから、双子だからっていうわけじゃないけど。

 食事も、お風呂も、寝るのも、趣味まで一緒。

 そして好きになる人も……

 サバイバルゲームで出会ったあの人を二人同時に好きになって――

 まったく、そんなところまで似なくてもいいのに。

 でも、ま、二人一緒に――って言うのも悪くないか……

 ……双樹のことはいいとして、問題はあの人の彼女。

 わざわざ学区外の高校を受験して、親元を離れて双樹と二人暮しをしてまで追いかけてきたっていうのに……

 幼馴染みらしいけど、いつの間にか彼女のポストに納まっている、確か名前は――大阪 絢、とかいったっけ。

 ……晶先輩はあの人のどこがいいのかしら。

 私が調べた情報によると――

 身長143センチ。

 スリーサイズは上から68、56、69。

 お子様体型……っていうか小学生?

 噂によると小学生のころの服がいまだに普通に着られるらしい。

 自慢じゃないけど、私と双樹は胸は……まあ、そんなに大きなほうじゃないけど、背はそこそこあってプロポーションははっきり言って良い。

 性格でも負けていないと思うし……

 でも、晶先輩は絢先輩を選んだ。

 私たちじゃあ絢先輩に勝てないのかな?

 晶先輩の趣味の問題もあるし、正攻法じゃだめよね……

 やっぱり、絢先輩を抹殺するしかないかな。


双樹

 私と沙羅はいつも一緒だった。

 姉妹だから、双子だからっていうわけじゃないけど。

 服装も、体型も、身に付ける物も、趣味まで一緒。

 そして好きになる人も……

 サバイバルゲームで出会ったあの人を二人同時に好きになって――

 まったく、そんなところまで似なくてもいいのに。

 でも、ま、二人とも同じっていうのは、少し嬉しいかな。

 ……沙羅のことはいいとして、問題はあの人の彼女。

 わざわざ学区外の高校を受験して、親元を離れて双樹と二人暮しをしてまで追いかけてきたっていうのに……

 幼馴染みらしいけど、いつの間にか彼女のポストに納まっている、確か名前は――大阪 絢、とかいったっけ。

 ……晶先輩はあの人のどこがいいのかしら。

 私が調べた情報によると――

 成績は中の上。

 得意科目は特になし。

 苦手科目は体育と家庭科。

 噂によると百メートル走は24秒、調理実習で野菜炒めを炭にしたらしい。

 自慢じゃないけど、私と沙羅は自炊をしているだけあって家事一般は得意だし、運動なら学校内でも上位クラス。成績だって上位だ。

 顔でも負けていないと思うし……

 でも、晶先輩は絢先輩を選んだ。

 私たちじゃあ絢先輩に勝てないのかな?

 晶先輩の趣味の問題もあるし、正攻法じゃだめよね……

 やっぱり、晶先輩を洗脳するしかないかな。



  『はぁ……』

   二人は同時にため息をついた。

  「……どうしたの? ため息なんかついて」

  「ちょっとね、考え事」

   沙羅は、晶のこと以外にも、大きな悩みを抱えていた。

   それはすぐそばにいる双樹のこと。

   鏡を合わせたようにそっくりな二人でも、同じ人間ではない。

   いつかは別れ、それぞれの道を歩む日が来る。

   そう思うと、沙羅の心はいつも痛んだ。

   風が吹き、木々が揺れて波のような静かな音を立てる。

  「ねえ沙羅」

   双樹が、背中を合わせた沙羅に語りかける。

  「私たち、いつまでも一緒だよね?」

  「な、なによいきなり改まって……」

   沙羅はうろたえながらも、闇に銃口を向け、しっかりと前を見続けている。

  「私をおいて先に行ったりしないよね?」

   合わせた背中を通して、双樹の早鐘のような鼓動が沙羅に伝わる。

   そっか、双樹も不安なんだ……

   自分の半身が、どこかに行ってしまうのではないか。

   安心して心を開けるもう一人の自分がいなくなってしまったら、その空ろになった空間をどう埋めればいいのか。

   自分が胸の奥に秘めていた物と同じ不安を抱えていた双樹の心を悟り、沙羅がやさしくこたえる。

  「当たり前じゃない、私たちはいつまでも一緒よ」

  「ほ、本当……?」

   だが、双樹の声は暗いまま。

   それどころか震えだしてさえいた。

   そう、まるで何かにおびえるかのように……

  「ど、どうしたの?」

  「み、右のほう向いてみて……ゆ、ゆっくりと……」

  「ん……?」

   沙羅が顔を右に向けると、真っ暗な木々の合間に、何か白いものが見えた。

   靄のようなそれは、次第に人の形を取り――

  「っきゃああああああ!」

   パパパパパパパパパパパッ

   叫んで放たれた弾丸は、しかし白い人影をつきぬけ、闇の奥へと消えていく。

   その光景を見て、双樹が走り出す。

  「ち、ちょっと双樹!」

  「知らない! 私は何も見てない!」

   あわてて双樹を追いかける沙羅のその後ろを、白い影がすーっと音もなくついて動いていく。

  「先に行ったりしないでって言ったのはあんたの方でしょ! そのあんたが先に逃げてどうするのよ!」

  「だって怖い!」

  「私も怖いわっ!」

  「うああああああっ、こんなことになるんだったら『納涼! 富士の樹海でサバイバルゲーム&キャンプ大会』なんかに参加するんじゃなかったぁ!」

  「しかたないでしょ! 晶先輩の企画なんだし!」

  「これじゃあサバイバルゲームじゃなくてリアルサバイバルよ!」

  「文句なら晶先輩に言って!」

  ぐにゅうっ

  「いやああああああ! なんかぐにゅっとしたもの踏んだぁ!」

  「確認しちゃだめ! こんなところにあるものなんて×××なものか△△△なものか○○……」

  「それ以上言わないで!」

  たぁ〜……すぅ……け……てぇ〜……

   地の底から響いてくるかのような声が、二人にさらに追い討ちをかける。

  『いやあああああああっ!』

   二人が晶たちのキャンプに無事に戻れたのは、それから二時間後のことだった。

   めでたしめでたし。

 『めでたくなんかないわよ!』


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