今年も残すところあと数時間。

そんな、コタツにでも入ってゆっくり過ごしたい時間に、僕は寒い寒い物置の前にいた。

僕は振り返って、窓ごしに家の中を見る。暖房の効いた室内で、父さんがコタツに入ってくつろいでいる。

自分が今日まで片づけようとしなかったのが悪いのだけれど、なんだか無性に腹が立つ。

そう、まだ僕の分の大掃除が終わっていないのだ。

倉庫に鍵をさし、扉をすべらせる。僕は暗闇に半身と首を突っ込む。

薄闇の中に白い息が現れては消える。

僕はスペースいっぱいに詰め込まれた段ボール箱の一つを抜いた。たいした重さはない。

とりあえずその段ボールを縁側に置いて、上蓋を開けてみる。

すると、中には見覚えのある掃除機が入っていた。

使わないのなら棄てればいいのに、と思いながら、開いた上蓋を閉じて、次の段ボールに指をかける。

今度の段ボールは掃除機のものよりもさらに軽い。軽々持ち上げて縁側に置く。

僕はさっきと同じように、何気なく蓋に指をかけて、手早く開けた。

開けて、僕は固まった。

急速に僕の頭が働いているのがわかる。

僕の目は、段ボールの中にたたずむそれに縛られて離れない。

さっきまで倉庫の中、段ボール箱の中で眠っていたそれは、一組のグローブとボールだった。


これは特別な日のことじゃない。

何度も何度も繰り返した、何気ない一日の光景。

空き地でキャッチボールする自分。

相手に、僕の父さん。

当時の僕より、ずいぶん背の高い父さんは、腰を下ろしてグラブを構える。父さんの後ろの夕日が眩しい。

僕は頭の上にグラブを掲げ、投球モーションに入る。そして、投げる。

僕の手を離れたボールは、真っ直ぐな軌道で父さんのグラブめがけて飛んでいく。

父さんのグラブにいい音を立てて収まる。父さんが軽く頷く。

さらに深々と頷いてから、腰を上げる父さん。

「そろそろ帰るぞー」

立ち上がった父さんは、僕を見ずに公園の出口に向かう。

父さんの足下から生える長い影が、僕のいるところまで伸びている。

僕は父さんの影の上を全速力で走って、暖かい父さんの背中に飛びついた。

「また速くなっただろ!」

僕は父さんの耳元ではしゃぐ。

「ん、お前はいいボールを投げるな。プロになれるんじゃないか?」

父さんはいつも、笑顔で僕を褒めてくれた。

そして僕もいつも、笑顔で返事をしたんだ。

「うん、絶対プロ野球選手になってやる!」


グローブの柔らかい革の感触を僕は指先で感じる。

僕はしばらくグローブを眺めていたけれど、丁寧に段ボールの中に戻して、別の段ボールに手をかけた。

次の段ボールには昔遊んでいたオモチャがごちゃごちゃと入っていた。

僕はプラスチックやビニール製のロボットたちを手に取ってみる。

いくつかに触れて、また慎重に段ボールに戻す。

出した物が元通り収まった段ボールを、元の順に倉庫に戻す。

倉庫の扉を閉めて、鍵をかけて、僕は家の中に上がった。

居間に入ると、父さんがコタツに入ってテレビを見ていた。

父さんは突っ立っている僕を見上げる。

「ん、終わったか」

「うん、まぁだいたい」

僕はもぞもぞとコタツに入って、ミカンをむきはじめる。



どんなにゆっくり過ごしても。

今日でこの一年が終わる。