夢。
それは最も身近な存在。
動かない現実の身体、思い通りに動かせる夢の中の身体。
そこは私が作り出した、一つの空間。
そこは私が作り出した、究極の理想郷・・・・・・
ようこそ、夢の続きへ。
いつも通りの夢。
黒い、暗い、何も見えない闇の夢。
闇に安らぎ、光を恐れる・・・・・・何も変わらない。
たまに、これは本当に夢なのだろうかと思うときがある。
考えるのも億劫になっていた私にとって、マンネリ気味だが、それでいて新鮮な疑問。
五感からは何も感じることができない孤独感と安堵感。
その二つが入り混じった奇妙な感覚。
嫌いではない。
むしろ好きなほう。
・・・ひた・・・ひた・・・
久しく感じなかった音の感覚。
闇に沈んでいた私に、思考能力が蘇る。
足音。
想像もしなかった訪問と、考えもしなかった地という存在。
“なにか”がいる。
私は浮かんでいた?
大きさ、高さ、間隔・・・・・・全てが同じ状態で繰り返し響く。
そういえば、どこかに寝転がっている感じがしないこともない。
幻聴?
錯覚?
違う、確かに聞こえる。
そうだ、この感覚は確かだ。
闇の中、意味もなく眼を凝らす私。
新たな事実に触覚を研ぎ澄ます私。
闇、闇、闇・・・・・・
陸? 海? 空?
見えるはずがない。
わかる気がする。
そこには完全な闇があるのだから。
私は“何か”の上にいる。
お前も、私の安らぎを阻もうとするのか?
使い物にならない視覚、必要のない聴覚。
解決のできない矛盾した二つの欲求に対する苛立ち。
ここは闇、私の領域。
誰にも冒すことのできないはずの、心の聖域。
誰だ! 何故ここにいる!!
今の私に考えうる唯一の、威嚇のための手段。
存在することのみ認識できる恐怖。
誰かが共にいる安堵など微塵も感じない。
私だけの世界だと思っていた。
私のために存在する世界だと思っていた。
だが、その聖域は一つの足音によって汚され、聖域としてではなく、ただの闇の空間になる。
そして、足音は消えた・・・・・・
踏みにじられた聖域、沸き立つ独占欲。
“なにか”がいた。
私の意識をかき乱すには、その事実だけで十分だった。
足音は消えた。
だが、“なにか”は消えたのだろうか。
もしかすると、足を止めただけで、私のすぐ側にいるのかもしれない。
襲い来る圧迫感、続く嘔吐感。
キモチワルイ。
もういい。
ここは闇。
何が起ころうと、闇がある限り私には関係ない。
闇は、全てを飲み込んでくれる。
そして私に安心させてくれる。
それだけでいい。
また、沈めばいい・・・・・・
そうして私は、闇に意識を預けるのだ。
抱かれて、眠ろう・・・・・・
今日はここまで。
夢はいつでも空虚なもの。
語るに軽く、聞くにも軽い。
だが、私の夢はまだ終わらない。
徐々に変化し、新たな姿を見せる、夢。
私は、それを望んでいるのだろうか。
考えなくても、続きがあればそれが答え。
ならば、次の夢へと還ることにしよう。
さぁ、深い深い闇の中へ・・・・・・
小説