魔王列記

第一章 魔王降臨

LP3年12月 新王ランスの元侵略戦争を開始したリーザス国は恐ろしい勢いでヘルマンを制圧しつつあった。シャングリラ経由で侵略しヘルマン第4軍を壊滅させる。
現在は第3軍が守る首都ラング・バウ攻略の途中であった。

―リーザス軍作戦指令テントの奥
「ふう、いい汗かいた」
テントの奥から出てきたのはリーザス王ランス。その後ろからフラフラしながら出てきたのはランスの奴隷シィル・プラインである。
二人が戦場のド真ん中でなにをしていたか、シィルが服を整えているのを見れば当然分かってしまう。
そんなに体力をつかってしまっていいものなんだろうか?
「シィル、何もたもたしてる!それ以上遅れるなら後でお仕置きだぞ!」
「ランス様〜、あと少しだけ……」
「服なぞかまわん、早くしろ」
そういうとランスは二棟続きになっているテントの本来の目的でつかわれているほうへ入っていく。
本来の目的つまりは会議室。
そこにはリーザス赤の将リック・アディスンと魔法戦士団の将ガンジーがいた。
「お前ら、出陣するぞ全軍に指示を出せ。今日中にラング・バウを落とす」
「フフフ、腕がなりますぞ!」
暑苦しい筋肉を見せびらかして出て行くガンジー。
「では」
と一礼していくリック。二人の将軍を追い出した後、自分も緑の軍に指示を出す。
攻撃時の陣形はリック、ランスが前衛。ガンジーとシィルは後衛に回る。
今回で二度目であるラング・バウ攻略戦。
ヘルマン軍は疲弊しきっていて簡単に落とせるはずであった。

―戦場
「突撃! ヘルマンの兵は一匹たりと手逃すな!」
自軍の兵に的確に指示を出し自分自身も先頭に立って魔剣カオスを振う。
しかし、ランスは見誤っていたヘルマン側の兵力を……
「赤の軍より伝令! 後方に市民兵団が約800! 挟み撃ちです!」
「なにぃ! 後ろにはシィルの部隊がいるんだぞ!いかん、引き潮だ!!」
それは、ランスの侵略に対するヘルマンの最後の抵抗だった。
そして、それが人類の未来を揺るがす事になる……
「シィル! 俺様の許可なしに死ぬんじゃないぞ!」
ランスは兵を後方へ引き戻した。

シィルの部隊は100、敵は正規兵ではないが800。戦力差はありすぎた。
「ランス様……」
目の前で魔法兵達が倒れていく。
「シィル殿、お下がりください! ガンジー殿の部隊と合流できれば逃げ切れます!」
そう叫んだ兵士にボウガンの矢が刺さり血を撒き散らして倒れる。

―次にこうなるのは私だと自覚する冷静な自分がいる。

目の前で人が死んでいくのに……

そして、なにも出来ないでただ立っている自分がいる。

結局……お役に立てなかった……

すべてがひどくゆっくりに見える。

たおれゆく味方の兵士、飛んでくる矢でさえも……

「ランス……様……」
数本の矢がシィルの体を刺し貫く。
最期に見えたのは……いとしい人の姿。
シィルの視界は闇に閉ざされた……。

―3日後リーザス城マリスの執務室
そこにマリスと不幸な忍者かなみがいた。
「そう、それでその怪我なのね?」
「はい。まさかいきなりカオスが飛んでくるなんて……」
忍者かなみの任務は国王ランスの身辺警護。ランスがハーレムで遊んでいるときも寝ているときも常に近く(たいてい天井裏)にいなければならない。
しかし、シィルが死亡しランスは誰も部屋に近づけるなとかなみまで遠ざけて閉じこもってしまった。
ついさっきその命令を破って様子を見に行ってみれば天井越しにカオスを投げつけられ足に怪我を負った。
不幸である。
「それで様子は?」
「それが、サテラさんと何か話していました。聞き出す前に追い出されましたが」
かなみの報告を聞いたマリスは、しばし思案する。
国の現状からいえば早く復帰して欲しい。
しかし、ランスの精神的ダメージもまた大きい。
さらに、誰も近づけるなといっておいてサテラと話している内容も気になる。
「あと2、3日様子を見てみましょう。それ以上待つとヘルマンに反撃の機会を与えてしまいます。あなたは1日ごとに王の様子を報告してください」
「はっ」
短く答えてかなみは姿を消す。
すべての事務を一手にこなすスーパー侍女は珍しくため息をついた。

少し時間をさかのぼる。

―ランスの寝室
「……今の話聞かれたかな?」
「大丈夫だろう。それより……決行は明日だ。俺様は健太郎をどこかへ進軍させ追っ払う」
「サテラはリトルプリンセスに魔封じの指輪を渡す……」
サテラはぎゅっとランスに抱きついた。
「……本当にいいのか、ランス?」
「俺様が信用できないのかお前は?」
フルフルとサテラは首を振った。
「サテラは、ランスを信じてる……」
「……寝るぞ」
気恥ずかしかったのかランスはシーツをサテラにかぶせるとガーガーといびきを立て始める。明らかにたぬきであった。

そして運命の日

―リーザス城 謁見の間
「はぁ……洞窟探索ですか?」
聖刀日光を携えた異界の少年小川健太郎。
朝早くから呼び出されて洞窟探索だといわれなんとなく釈然としない物を感じている。
「うむ、そうだ。近頃解呪の迷宮からモンスターが沸いて出てくるらしくてな。それで、お前にモンスター退治を命じたわけだ」
「そうですか、ではいってきます。王様、美樹ちゃんにこのこと伝えておいて頂けますか?」
「おう、わかった。」
健太郎が去ると入れ替わりにマリスが入ってきた。
「ランス王、モンスターが溢れてくるなどと言う報告は一切受けておりませんが?」
「そう、気にするなマリス」
「しかし、王。今はその軍事費ですら出すのが難しい状況にあります。お戯れでの遠地探索などは出来る限り控えていただきたいのですが」
「臨時徴収だ。それでそのくらいまかなえるだろう?」
マリスはいつもと違うランスの雰囲気に押され思わず了承してしまう。
「問題ないなら実行に移せ、命令だ」
そう告げるとランスは謁見の間を出て行ってしまった。
「……かなみ」
「はい、マリス様」
天井裏からかなみが現れる。
「ランス王の行動を監視しなさい。サテラ殿といる時は注意して」
「はっ」
かなみがいなくなるとマリスも自分の執務室へ戻っていった。
やらなければならない事が山積みなのだ。

―リーザス城 廊下
忍者かなみはあっけなくサテラのシーザーにとらわれていた。
「どうせ、マリスのおせっかいだろ?」
「……」
かなみは答えない。忍者だから。
「あとでSMフルコースな」
「なっ……なんで!」
「主君の質問に答えないような忍者へのお仕置きだ」
「ランス、そんな人間ほっておこう」
まだまだ続きそうだったランスのかなみいぢめをサテラは中断させた。
「シーザー、そいつはどこかに縛り付けといて」
「ハイサテラサマ」
かなみを追っ払うとサテラとランスは魔王の部屋へと向かった。

―リーザス城 魔王の部屋
「はぁい、あっ王様サテラさんもどうしたんです?」
サテラのノックに応じてピンクの髪の少女美樹が顔を出す。
「リトルプリンセス様。サテラはあなたに用があるんです……。差し上げた指輪つけておられますか?」
「うん、ほらね。健太郎くんも似合ってるってほめてくれたの」
「じゃあ……さよならです!」
サテラが指輪に封じられたホールドの魔法を発動させる。
「きゃっ! なに、何なの?!」
「ランス、いまだよ!」
ランスはカオスを抜き構える。
「王……様……?」
「……」
何が起こっているのかパニックに陥った美樹には分からない。
ランスは深呼吸を一つして、カオスを振り下ろした。

三時間後……
リーザス城上空にランスとサテラ、シーザーの姿があった。
そのランスの放つ気配は明らかに人ならざるものの気配、魔王のものだ。
「サテラ、もうここに用はない。帰るぞ、魔王城へ」
「うん、ラン……じゃない、魔王様」
「別にどう呼んでも構わん」
「分かった……ランス。あっ、でもまだメガラスが来てないよ?」
「サテラサマ、ウシロニ」
シーザーの声を聞きサテラが振り返る。いつの間にやらメガラスがいた。
「……ドウイウコトダ、サテラ?」
「見てのとおりだよ」
サテラの簡潔な答え。
「……ワカッタ」
メガラスの答えもまた簡潔だった。

このとき暦はLP暦から魔王ランスの時代のRC暦へと変わる。
暗黒の時が今、幕をあける。




あとがき
HPを開くにあたりあとがきを全て書き直すことに。
とはいったものの何を書けばいいのかさっぱりで……。
書くべき点と言ったらやっぱりかなみが不幸な点とかしかない訳で……投稿時とかわらん……
次は頑張ろう。

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