第26章 お子様達の冒険

―RC10年 長崎城 リセットの部屋
昼食も終わりのんびりとお昼寝でもしたい時間帯。
リセットは自室で本を読んでいた。
ハイティーン向けの冒険小説で10歳のリセットには読めない漢字もあり大変だがリセットはそれに没頭していた。
「はわ〜こんな冒険したいな〜」
目はウットリ夢見る少女で。
しかし、夢で終わらないのが彼女の良い所(?)。その行動力はすさまじいの一言。
まず、隣室でお昼寝している弟・無敵(9歳)を蹴り起こし姉代わりであるアスカの部屋へ。魔法の勉強をしていた姉をかなり強引に連れ出すと三人は城下町へ。
「どうしたのよもう!」
「姉上……僕はまだ眠たいのですが……」
スパーン。リセットがどこからともなく取り出したハリセンが無敵の頭にヒットした。
「目、覚めたでしょ?」
無敵は涙目で頷くしかなかった。まだといえばもう一発飛んできそうだったから。
「……それで? リセットは何がしたいの?」
あきれ果てたアスカはリセットに続きを促す。
「冒険がしたいの! 長崎の近くに大蛇の穴ってダンジョンがあるってそこにオロチっていう悪い蛇がいるからそれをリセットたちがやっつけてパーパにほめてもらうの!」
「さ、三人でですか?」
「そうだよ? 剣士と魔法使いと魔法剣士がいれば何とかなるよきっと!」
ちなみに無敵、アスカ、リセットである。くしくもさっきリセットが読んでいた小説と同じメンバー構成だった。
「……あの、姉上。僕は刀を持って来ていません」
「あるよ」
リセットはあっさりと無敵の刀を差し出した。
「あんたと一緒に持ってきたの。はい、アスカ姉さんのもあるよ」
リセットはアスカにもマジックブースター付きの杖を差し出す。
「私のはあるんだけど」
アスカの指には緑色の石が入った指輪が光っていてこの指輪が杖と同じ効果をもたらす。
「この前王様に貰ったからそれは使ってないのよ」
「あ、そうだっけ。じゃあ袋にほりこんどくね。お城の倉庫から世色癌もかっぱらってきたから準備は万全。さ、いこ!」
もはやリセットを止められる人物はいない。
スキップしながら先を行くリセットとため息をつきながらその後を追う二人。
その様子を見ている第三者がいた。
「……殿にご報告せねばならんな……」
小さく呟き山本忍軍筆頭服部半蔵は姿を消した。
報告の時、たまたまランスがきていたことにより事態は大きくなってしまうのだった。

―五十六の執務室
「殿、すぐお耳に入れたいことが」
襖の向こうでは五十六とランスが慌てて服装を正している。
(なんともタイミングが悪いな)
ランスの機嫌を損ねたくはないがリセットたちのことも気になる。
「は、入りなさい」
襖を開けると真っ赤になった五十六とそ知らぬ顔のランスがいた。
「無敵様、リセット様及びアスカ様の三名が大蛇の穴へ向われました」
「大蛇の穴? なんのためです?」
「オロチを倒すためとのこと。しかし、オロチと言えば……」
「俺様が処刑したな。かわいい女の子を生贄に要求する奴など生かしておく価値はない」
「では性急に知らせに―」
「待った」
待ったをかけたランスはニヤニヤ笑いを浮かべている。絶対何かを企んでいる顔だ。
「最近リセットの行動が目にあまる。ここらでちょっとお灸を据えてやろう」
「何をなさるおつもりですか?」
少し心配そうな五十六。
「少々怪我させてもかまわんとモンスターどもに伝えておく。ギリギリまで追い詰められればあるいは化けるかも知れんしな。怪我はすぐ治療できるよう準備はしておくがな」
「本当に大丈夫でしょうか?」
「魔王の命令を聞けんモンスターなぞいない。ま、安心しろ俺が見張っておく」
五十六は小さくため息をついた。そして悟る、ランスを止めることはもう不可能だと。
無敵の性格があまりランスに似ないように願わずにはいられなかった。

―大蛇の穴 
そこへ魔王直々命令を下しに来た。治療班のホーネットもつれて。
モンスター達が逆らえるはずもなく……
「もうすぐ俺様の子どもがここへ来る。お前らはいつもやってるように攻撃してもかまわない。ただし気絶させるまででやめろ。間違っても殺そうなどと考えるなよ?」
一瞬ランスは魔王の力を開放する。
モンスター達は震え上がり脅しとしての効果は抜群だった。
「ま、死にたくなければ逃げるのもありだ。そこまで強要はせん。あと、戦うのは男どもだけだ。女は俺様と最深階に来い。ホーネット、もちろんお前もだぞ」
ランスが女の子モンスターを連れて何をするつもりか、火を見るより明らかだった。
「あの、ランス様リセット様達を見ておかなくてもよいのでしょうか?」
「もちろん、俺様が監視しておく。お前達は俺様に集中していろ」
ランスはホーネットのローブの間に手を忍び込ませる。
男の子モンスター達は慌ててその広間を出た。

―大蛇の穴・入口
「さ、入るよ」
ずんずんと先に進むリセットともうどうにでもなれと続く二人。
三人は大蛇の穴に踏み込んでいった。
中に入ったとたんグリーンハニー6体と遭遇。
「アイヤー侵入者!」
「ハニホーやっつけろ!」
ハニーのセリフはどこか棒読みっぽかったがとりあえずリセット達は気づいていない。
「二人とも頑張ってね、ハニーには私無力だから」
ハニーには魔法が効かないのでアスカは少し下がる。
「任せといて! 行くよ無敵!」
「はっはい!」
これが初めての実戦となる無敵はこわごわと刀を抜いた。
一方リセットは城から抜け出して自分で修行していたため実戦は経験済みだ。おまけに何体か部下にしたモンスターもいる。
そしてアスカに至っては戦争経験者だ。
リセットが手にしているのはカラー族が好むレイピアではなくJAPAN製の小太刀。身軽さを生かして忍者スキルを手に入れつつあるリセットお気に入りの武器だ。あと、手裏剣なども持っているがこっちはめったに使わず遠距離攻撃には魔法を多用する。
「ハニーフラーッシュ!!」
絶対命中のこの技は下手に避けるより自分のペースを崩さず正面から受けるのほうが、効率がいい。全身に引きつるような痛みが走るが相手はグリーンハニーだけにさほどきつくない。相手は攻撃した後で大きなスキを作っている。攻撃は容易だ。
「あいや〜」
グリーンハニーは真一文に切り裂かれた。
一体倒したリセットの背後から別のハニーがトライデントを突き出す。リセットはそれを小太刀で受け流しハニーを馬跳びの要領で飛び越える。スカートがめくれ上がってパンツが丸見えになるが特に気にしない。ハニーの背後に回りこむと今度は縦に一閃。2体目も屠られた。
一方で無敵が二体を倒していた。
「あいや……話が違う……怪我させられるくらいの相手じゃなかったのか?」
ハニー達は頭をくっつけるとなにやら相談し始めた。
「話が違う? ……ヘンなの……」
岩陰に隠れていたアスカは小さな疑問をもった。もともと何かおかしかったのだ。相手からはほとんど殺気が感じられない。何かに対する脅えが感じられるのみ。
「まさか……」
魔物が脅える存在は数少ない。
アスカはカマをかけてみることにした。
ハニー達に近づくとリセットや無敵から見えない位置に立つ。
そして、驚くハニー達に話し掛けた。
「私達に怪我はさせてもいいけど殺しちゃダメって言われてるの?」
ハニー達の動きが止まりビンゴとアスカが呟く。
「言ったのは王様?」
「……て、撤退〜」
ハニーは後ろも見ずにダッシュで消えた。
「わ〜お姉ちゃんすご〜い。魔法も使わずにハニーを撃退しちゃった」
「さすがアスカ姉様」
「ふふふ。ま、当然ね」
ほめられて悪い気はしない。でもそれよりランスの悪巧みが気になっていた。
「さ、急ぎましょ。あいつらが仲間を連れてこないとも限らないわ」
「うん。無敵、行くよ」
「はい姉上」
こうして三人はどんどん奥へ突き進んでいった。

―最下層
「思っていたよりやるようだな」
「三人に怪我はないでしょうか?」
ランスは10人ほどの女の子モンスターを相手にヤッている最中である。
ホーネットと話している最中も動きは止めず今抱かれている髪長姫はかなりつらそうだ。
「あいつらはほっといても大丈夫そうだな。ん、悪い悪い。やさしくしてやろう。ホーネットも気にせず今を楽しめ」
暗い洞窟内部に甘い声が響いた。

―地下9階層
三人はこのフロアで足止めを食っていた。
「……見つかりませんね、階段」
「おっかしいな……無敵、あんた見逃したんじゃない?」
「姉上じゃないんですからそんなミスはしません」
スパーン。本日2発目がヒットした。
「それどこから出したのですか?」
無敵は涙目でリセットを見る。
「フフフ、ひ・み・つ。乙女にはいろいろと隠し場所があるのよ」
「……バカ言ってないで階段探しなさい」
アスカの目がかなり恐かったので二人は黙り込んだ。そして壁を調べ出す。
だがそれらしい物は見つからない。
「まだ9階よね……このダンジョン30階以上あったと思うけど」
「帰ろっか?」
リセットは飽きっぽかった。
「いいの? 王様にほめてもらうんでしょ?」
「うん!」
「じゃあ、あきらめるには早いわよね?」
リセットは押し黙った。どうも悩んでいるらしい。
そんなリセットを無敵に任せてアスカは一人歩き始めた。
そして、ある壁の前で立ち止まり、その壁に手を押し付けるとなぜかカウントダウンし始める。手には指輪を中心に濃密な魔力を帯びていた。
「5……4……3……2……1……」
0をカウントする前に壁が横へ移動した。その奥には通路と階段が。
「お役目ご苦労さん。モンスターも大変ね。でも、王様が何考えてるのか知りたいから通してもらうわ。これ以上足止めされるのも嫌だから」
そう言い残してアスカはリセット達を呼びにいく。
ハリボテの壁を支えていたモンスター達は落涙した。

―地下10階
「ふう、おっしま〜い!」
彼女の足元には倒されたモンスターの山ができていて、彼女は無傷。
モンスター達は集団戦闘に持ち込んでリセット達を追い返そうとした。結果はこのざまで、たった三人に100体のモンスターが全滅した。もちろんモンスターが全力で戦えないための結果だがリセットたちの成長には目を見張る物があった。
「無敵、世色癌食べときなさい。背中、怪我してるわよ」
「大丈夫ですよアスカ姉様。これくらいの傷はたいしたことありません」
無敵の背中には引っかき傷がある。5cmくらいの怪我だがアスカは問答無用で世色癌を無敵に与えた。無敵は苦味に顔をしかめ恨めしそうにアスカを見る。
「大丈夫なのですが……」
「念のためよ。(王様が絡んでるんだから)油断しない方がいいのよ。何が起きるかわからないからね」
「二人とも! もう一匹いるよ!」
奥から出てきたのはムサシボウ。アスカは瞬時に違いを感じ取った。今までに現れたモンスターのあきらめた様な雰囲気ではなく明らかに害意を持っている。
「リセット、無敵、気をつけて! さっきまでのようにはいかないよ!!」
「う、うん。わかった」
ムサシボウはランスの話を聴いてはいた。しかし、他のモンスターが戦って辺りに血の匂いが立ちこめると殺すなと言う命令は頭から消える。目の前の敵を殺せと言う本能が命じる。ムサシボウは本能の赴くままに巨大な金棒を振り下ろした。
「っつ……速い!」
リセットはすんでのところで攻撃を避ける。金棒はリセットのいた場所を粉砕した。
そこに大きな穴が開く。
「こんなの当たったら死んじゃうよ……」
思わず立ち尽くすリセット。大きな隙を作ってしまう。そんなリセットに興味を持ったのかムサシボウはリセットを捕らえた。軽く握ったつもりだったがリセットの華奢な体には強すぎて骨が軋む。
「痛……い……助けて……」
もがいた所で抜け出せるはずもない。
「姉上!!」
リセットが囚われた事で無敵は逆上した。何も考えずに正面から斬りかかる。
アスカとリセットが何かを叫んだ。
だが無敵の耳には届かず、気づいた時には横に金棒が―
まだまだ成長途中である無敵の体は軽くあっという間に壁に叩きつけられた。
ぐしゃっと体が砕ける音が洞窟に響く。
続いてリセットの悲鳴が響いた。

―情けない。姉上を敵の手から助ける事が出来なかった……それどころか……きっと僕は死んでしまったのだろう。
(待てよバカ。勝手に死ぬな)
―なっ? だれだ!?
(おいおいそりゃないだろ? 俺が誰だかわからない? お前の最も近くに存在する者だ)
―どういう意味だ?
(世話が焼けるな。お前は俺で俺はお前だ。……姉上を助けるため力が欲しいだろ? ならばしばらく代われ。俺が姉上を助けてやる)
―まて、お前が僕ってどういうことだ!
(……人と魔の二つの血統。お前はまだ人の領域にいる。お前はもう少し寝てろ)

呆然とするアスカの前で無敵の体は再生していく。
「む……無敵? 今、心臓が……。あ、あれ?」
金棒の一撃で無敵の体は見るに耐えないほど破壊され即死だった。それにもかかわらず無敵は立ち上がる。立ち上がりアスカの横に立ったときにはもはや傷はなかった。
「アスカ姉様、邪魔ですから隠れててください。姉上はすぐに取り返します」
「え……う、うん」
アスカは無敵の放つ気配に圧倒されわけがわからないまま岩陰に隠れた。

「おい、木偶の坊。5秒だけ待つ。姉上を離して死ね」
「無敵……だよね?」
リセットは痛みに顔をしかめながら明らかにいつもと違う無敵に困惑している。
「別人に見えますか? 少し待ってて下さい。姉上に手を出したこの下郎を消します」
無敵は重力に逆らいふわりと浮き上がると無造作に腕を振った。一瞬の間を置いてムサシボウの指が切り裂かれた。リセットは空中に投げ出され無敵がキャッチ。
「い、今何したの!?」
「斬っただけですこれで」
無敵の爪がすらりと長く伸びる。ケッセルリンクと同じだ。
地上に降りるとアスカと同じ岩陰にリセットを置いた。
「姉上、アスカ姉様と隠れていてください」
無敵は呆然とする二人を置いて空中に上がった。傷ついた片手を押さえムサシボウは無敵をにらみつける。
「そんな目でにらんでも無駄だ。お前は今から死ぬ。姉上を傷つけたんだ100回殺しても足りない」
ムサシボウは雄叫びとともに刀を振り下ろした。だがそれは無敵の体を通り抜けたにもかかわらず手ごたえがまったくない。無敵の体は輪郭がぼやけ消えていく。
あせったムサシボウはむやみに刀を振り回す。
「お前、当てる気あるのか?」
無敵のその声はムサシボウのすぐ近く肩の上から聞こえた。気がついたときにはすでに遅く……。無敵はサディスティックな笑みを浮かべムサシボウのこめかみに抜き手を打ち込んだ。ビクンとムサシボウの体がふるえ、それで終わりだった。
「……せっかく出てきたのにこれじゃ物足りない……」
無敵はふわりと地上に降りると軽い足取りでリセットとアスカの側に歩いていく。
「姉上、一つお願いがあります。……喉が渇いて仕方がないのです―」
アスカとリセットは近づいてくる無敵から何かを感じ取って一歩引いた。だが後ろはすぐ壁でもう下がれない。無敵と視線を合わせた瞬間から体の自由が利かず無敵の赤い目から視線をずらす事すら出来ない。
「少しでいいので血を下さい」
恐い。目の前にいるのは無敵の姿をした別人に見える。そうでなければ弟にこれほど恐怖するはずがない。赤い目に魅入られたリセットは意思に反して首筋をさらす。
無敵の牙がリセットの首筋に食い込むかと思われた時、大きな手が無敵を鷲掴みにしてリセットから引き離した。半透明の巨人チューハイだ。
「アスカ姉様! 邪魔しな―!?!?!?」
何か言いかけた無敵の唇をアスカが奪った。それはもう強引に。
たっぷり5秒後アスカが唇を離すと無敵はぐったりと意識を失っていた。
「……なんとかうまくいったみたいね」
無敵が意識を失うと同時にリセットも体の自由を取り戻す。リセットはアスカと無敵を交互に見比べて顔を赤らめる。
「えっと、血はつながってないから……応援するよ?」
「そんなわけないでしょ」
大きな勘違いをしている妹を見てアスカは小さくため息。
「ヘンな勘違いしちゃダメ。今のは一種のショック治療よ」
「治療?」
「そう。無敵は人と魔王の両方の血を体に宿しているでしょ? 王様が言うにはもしかしたら魔の一面が顔を出す可能性があるって。言ってたのはずっと前だけど、そんな時は大きなショックを与えてやれって。とっさに思いついたんだけど……別にチューハイで殴っても元に戻ったかもね」
「無敵、大丈夫?」
「……あれ? ……姉上? 一体僕は何を?」
「それは―」
さっきの出来事を無敵に話そうとするリセット。アスカはそれをいち早く察してリセットの口を塞いだ。そして小声でささやく。
「さっきのは黙っときなさい。無敵のためよその方が。姉にファーストキスを奪われたなんて知りたくないでしょ?」
「確かにそうだけど……一つ間違ってるよ。無敵、2回目だよ」
「えっ?」
「あの、お二人とも一体何を話しているのですか?」
無敵は心配そうに二人を見る。
「女同士のひみつ。無敵、体は大丈夫?」
「はい、とくに異常はありませんが」
「そう、ならちょっと休んで先に進みましょう。あまり時間をかけすぎると五十六さんや城の人達に迷惑をかけちゃう」

このダンジョンに現存するモンスターで最強のムサシボウが倒されたことによりもはやこの三人に襲い掛かるモンスターは一体もいなくなった。
それにより三人はサクサク下へ進むのだった。

―最下層
しばらく前は騒がしかったそこも今は静かになっている。
さすがのランスも11対1では疲れ果て眠りこけていた。
ゆえにランスはムサシボウの暴走を知らない。って言うか忙しくってリセットたちのことは頭になかった。幸せそうにいびきをかいて寝ている。
幸か不幸かリセット達が最下層にたどり着いたのはそんな時だった。
裸のホーネットと女の子モンスターに囲まれ眠りこけているランスを見つけこめかみに×マークを貼り付けている少女が一人。もうひとりは『やっぱりね』とか呟いてて最後の男の子は肌色の世界に鼻血を垂らしていた。
「パ〜パ〜」
押し殺したリセットの声がランスの鼓膜を刺激した。
「ん〜……リセットか……お前も混ざるか?」
ランス寝ぼける。娘は無表情になり地面に埋まっていた巨石を担ぎ上げた。へたしたら何百キロもありそうだが怒りゲージMAXのリセットには関係ない。
巨石が飛んだ。着弾点にいた女の子モンスターとホーネットはとっさに避難。
ズズンと魔王は下敷きになった。
「パーパのバカバカバカバカバカ大バカ!!」
リセットは速射砲のごとく叫んで岩の上で飛び跳ねる。そのたびに岩の下からくぐもった悲鳴が上がった。
「もう知らない! パーパなんかずっとそこに埋まってちゃえ!!」
リセットは捨て台詞を残して帰り木を使った。
「あのね王様、影でこそこそ何かするならもっと徹底しなきゃダメだよ?」
「……とっくにばれてたか」
「もうとっくに。じゃあ頑張ってね。私リセットが心配だから帰るわ」
アスカも帰り木を使って脱出した。
「……父上。このことは母上に報告させていただきます」
「なに!? 無敵! それだけはやめろ!!」
叫べど岩は動かず、子供たちは帰ってしまう。
今回の事はさすがのホーネットもフォローの仕様がなかった。 

後日ランスとホーネットは五十六の前で正座していた。
「まったくランス様が大丈夫だと仰られたからこどもたちの事をお任せしたのになぜあのような事に……。ホーネットさんもです。ランス様のお側にいたのならランス様を止める事くらい出来たでしょう? それなのに一緒になって……」
「……申し訳ありません……」
「もう、勘弁してくれ……」
ランスもホーネットも小さくなっている。一方、五十六は鬼の形相。
怒った五十六の前では魔王も魔人も形無しだった。

―長崎城 城下町
「今度はなんなのですか姉上?」
「ふっふっふ、オロチはパーパがやっつけた後だったけど今度は大丈夫。佐渡の金山襲撃事件あったよね。いまだ逃げてる犯人をリセットたちで捕まえるの!」
「……もう何も言いません」
無敵は早くもリセットを止める事が不可能だと悟る。
「でも、佐渡まで遠いよ?」
「大丈夫。もう旅支度してウマに積んであるから」
「「……はぁ……」」
二人はため息をつく。もうついて行くしか道はない。
「レッツゴー!」
ウマをつないである町外れまでリセットは走り出す。
抵抗をあきらめた二人もダッシュでその後を追っていった。

―佐渡金山 盗賊のアジト
ぼこぼこにされた盗賊達。その中に一人だけ立って―否、立たされている者がいる。
盗賊団の頭目の男だ。
「分かってるな? リセット達が来たら演技と分からないように抵抗して捕まれ。いやならこの場で殺す」
「ひっ……分かりました! だから殺さないで!!」
「よし、じゃあちゃんとやれよ」
「は、はい!!」
ランスが姿を消し頭目は胸を撫で下ろした。そして、伸びている部下を蹴り起こす。
「おい、起きろ!! 殺陣の練習をやるぞ!!」
はてさて、盗賊達の運命やいかに!?

あとがき
ゴーイングマイウェイなリセットのお話でした。
リセットはランスの、無敵は五十六の性質が濃く出ているという設定でやっていますが、どっちもランスよりってのも面白かったかなと思ったり。

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