第5回 ヤマト・那古教同盟

―オオサカ古墳 地下2階北の部屋
そこは敵軍の捕虜を捕らえて置くように改造された一室。
快適とはいえないがそこそこの環境は整っている。
翌日、温泉から取って返した男性人(ビノノン王含む。リセット達はもう一泊するらしい)は帰るなりその部屋を訪れた。牢番ハニーから鍵を受け取り中へ。
「あら、もう捕虜の処遇を決めにきたの? 男を連れているってことは私、抱かれるのかしら?」
「処遇を決めに来たのは正解ですが、貴女を抱くつもりはありません。まあ、とりあえずこんな辛気臭い所から出ていただきます」
ついてきてください。とだけ言われ、まったく拘束もされない。古墳から出てもそのまま。
かといって、傷の癒えていない身体では3人から逃げることなどできそうにない。言われるままに事務所に連れて行かれた。
そして、促されるままにソファーに座る。
「さて、最初に名前を教えていただけます? 僕は山本無敵といいます」
「私は月瀬寧々。……ちょっと戸惑ってるんだけど、私の置かれた状況、教えてくれる?」
「少なくても貴女に危害を加えるつもりはありません。ちょっと、話がしたいだけです」
奥からハニーがやってきて4人分のお茶と菓子が並べられる。
「貴女が那古教の幹部だということは分かっています。ですので、これは停戦交渉と思ってもらいたい」
「停戦!? 攻めてきたのはそちらでしょ?」
「……こちらにも色々ありまして、目的は温泉だったんですよ。温泉のある土地がたまたま那古教の支配地域だっただけのこと。……姉上に言わせればそうなります。だから、那古教と全面戦争になる気はないんです。僕らの敵は悪司組ですので」
「……たったそれだけの理由で戦争を吹っかけてきたの?」
「ええ」
寧々はどう判断していいか決めかねる。無敵の敵意のない様子を見れば停戦するのが得策に思える。かといって、裏に何もないとも計り知れない。寧々のヤマトに対する調査はまだ始まったばかりだったので武器となる情報もないに等しい。
「今のところどちらの陣営にも死者は出ていませんし、さして問題はないと思いますよ」
「……少し、考えさせてくれないかしら? 出来れば他の聖女のところに戻って話し合いたいんだけど?」
寧々はそう言いつつも素直に返してもらえるわけが無いと心の中では諦めていた。
しかし、
「かまいませんよ。本部まで護衛もしましょう」
返ってきた答えにしばし呆然とする。
「私って、捕虜じゃないの?」
思わず聞き返す。
「……分類的にはそうなるかもしれませんが。関係ありませんよ。かまいませんよね、ビノノン王?」
「うむ。先ほども無敵殿が言ったがそなたらと戦争する気はない。よって捕虜をどうにかする気もない。もともと成り行きで助けただけじゃからな」
予想外もいいところだ。とにかく帰れるならそれに越したことは無い。
一刻も早く由女に無事な姿を見せたい。
さらに、無敵が付いて来るならやりようは色々とある。
「……じゃあ、シキナまで送ってもらえるかしら?」
「わかりました。では行きましょうか」

―シキナ 那古教本部
「……寧々さん、これは一体なんでしょう?」
無敵はアフロの男たちに囲まれていた。全員がかなりの強さであることが感じられる。
「山本さん、敵陣に一人で乗り込むのはあまりに無用心じゃありませんか?」
「彼方を送って来ただけなんですけどね」
「停戦の話、前向きに検討してみますけど決まるまでおとなしくしていただきたいの。部屋を用意させますからそこにいていただきます」
「今日の夕飯までには帰らせてくださいね」
「ふふふ、どうでしょう?」
寧々はそのまま奥に消え、無敵は本部の一室に連れて行かれた。窓には鉄格子、入り口の扉には外から鍵が。正真正銘監禁するための部屋だ。
「さて、寧々さんに早く決めてくださいねと伝えてもらえます?」
無敵が中に入れられると外から鍵がかけられた。
由女の僕は黙って去っていく。
「ふう、夕飯までゆっくり眠らせてもらおう。最近ろくに寝てないからなー」
昨日の晩もカネシタ制圧祝いと称した酒盛りが開かれ体質的に酔えない無敵一人が酔っ払い6人を介抱することとなりほぼ寝ていない。ホーネットと同じで睡眠が生活の一部となっているため寝なければ眠い。
みんな酔うと変わるな〜と昨晩のことを思うかしつつ無敵は眠りに落ちた。

目を覚ましてみると外は暗い。
日はすでに落ちているらしくそろそろ夕飯の時間だ。
「ふう、やっぱり返してもらえないか……」
霧と化した無敵は扉の隙間から出ると実体化する。見張りをしていた由女の僕は目をこすり目の前で起きたことを良く見ようとする。その遅れは致命的だ。
強烈な一撃が由女の僕の鳩尾をえぐった。
「ちょっとそこにいてくださいね」
無敵は鍵を抜き取ると牢の扉を開け中に由女の僕を入れて、再び鍵をかけた。
鍵をその場に放置し歩き出し、連れてこられた時の記憶を元にとりあえず玄関を目指す。
が、途中で重大なことに気づいた。
「……どうしよう、迷った」
教団本部の中はどこもかしこも同じような装飾がなされ無敵には見分けがつかなくなっていた。と、廊下の先から数人の声がする。無敵は気配をたってそこに近づいていく。
そこにいるのは白衣を着たウィミィ人と軍服を着たウィミィ人、後は那古教の幹部らしき女性が4人。一人は寧々だった。
ただ、無敵がついた時には話し合いが終わっていたようで、ウィミィ人二人は踵を返した。
そこへ無敵がひょっこり顔を出す。
聖女の一人古宮陽子はイハビーラ相手に無茶をした由女を張ろうと手を振り上げた直後だった。その手は行き場をなくしそのまま下ろされる。
「……えっと、停戦の件どうなりました?」
「山本さん、一体どうやってあそこから?」
「そんなことはどうでもいいですよ。そろそろ夕飯なので帰りたいのですが、結論がまだなら明日また来ますよ?」
「帰る必要は無い。ここにいてもらう」
古宮が槍を構える。
「これ以上、遅くなると姉上に怒られるのです。出来れば強行突破などしたくないのでどいていただけませんか?」
「強行突破? 武器も持たずにこの人数を突破する気か?」
騒ぎを聞きつけ集まってきた信者も武器を構える。
「ちょっと、陽子さん! この人は一体誰なんですか?」
「由女は下がってて。こいつはカネシタを温泉が欲しいという理由だけで奪った組織の者。悪司組と敵対していて共闘を申し入れてきたの。……私は信用できない」
「でも、悪い人には見えないけど……」
その間にも包囲の輪は縮まる。
「戦う気はないのですけど……やっぱり戦わなければいけませんか?」
「彼方が引いてくれれば戦わなくても、誰も傷つかなくてもすみます」
聖女の一人土岐遥は腰の刀に手を添えて居合いの構えを取る。
「遥さんまで! みんな止めてください!」
「寧々、由女を奥へ」
「そんな、嫌です!」
由女は抵抗するが数人の信者と寧々に連れられて奥へ消えた。
「これで、止めるものはいないと。仕方ありませんね、強行突破します」
「もう一度だけ言う。牢へ戻って」
「寧々さん、本当に前向きに検討する気はあるのですか?」
「私はそのつもりだったのだけど……(陽子は損得勘定苦手だから)」
「その女性の頭が固いと?」
無敵が言ったとたん槍が突き出された。無敵はそれを一歩踏み込んで回避。槍は穂先を避ければダメージは無い。念のため手刀で穂先を切り落とす。そこまでやってバックステップし距離をとる。
「なっ……」
古宮は呆然と穂先をなくした槍を見る。
「次はわたしです!」
今度は土岐が一歩踏み込む。抜刀の速度を乗せた居合い斬りを放つ気だ。
抜刀。無敵の体が横一文字に切り裂かれる。だが、すぐに形をなくしその姿が消える。
「え、ええ!?」
手ごたえも無かった。まるで霧や霞を切ったよう。
無敵は土岐の背後でミストフォームを解除、首筋に手刀を入れた。
「なかなかのスピードですね。でも僕には通用しません。さて、続けます? 続けるなら全員お相手しますが? 正直自分より弱い人々と戦いたくは無いですが」
圧倒的な戦闘力を見せ付けられ誰も手の出しようが無かった。
「こないんですね? じゃあ、今日はこれで帰りますが、いい返事を期待していますよ?」
再びミストフォーム。無敵は窓から外へ出た。
なぜ最初からこうしなかったのかと内心首を傾げながら。
「……言ったでしょう、陽子。敵対できるレベルじゃないの。むしろ、協力できるなら味方に引き込んだほうが得策よ。敵対するにはリスクが高すぎる」
「……わかったわ。彼方に任せる。もしもの時の事も考えておいてね」
「ええ」

―翌日 コフン
「こんにちは、山本さんはいるかしら?」
「いまは見回り。……おね〜ちゃんだぁれ?」
事務所にいたのはワーグ一人。無敵もリセットも出払っている。
「私は月瀬寧々。那古教の代表者としてきたのだけれど……出直すしかなさそうね」
「ふ〜ん、で、停戦は受け入れたの?」
月瀬はしばし声の主を探す。が、今ここには目の前の少女と自分しかいない。
「なにを戸惑ってるのよ、声の主は目の前にいるでしょう? 私も一応ここの幹部なんだけど。話ならきくわ」
ホンのちょっと前とは気配がまるで別人。無意識のうちに半歩下がる。
「そんなに脅えなくても取って食ったりしないわよ。で、どうするの? 停戦と共闘は」
「……お願いするわ。正直、悪司組に抵抗できる手段が無かったから助かるわ」
「ん、分かった。伝えとくね」
「ええ」
寧々は伝えることだけ伝えるとすぐに帰る気だった。だが、事務所を出ようとしたところで服の裾をワーグに掴まれた。
「……ちょっと待って。5分ほど時間を頂戴」
「え、ええ」
ここへ来るまでにヤマトの主要メンバーの調査はしてある。しかし、分かったことはほとんどない。誰もが得体の知れない存在ということ以外分かっていない。そんなワーグにとめられて、寧々は息をのんだ。
「正直、私は彼方達を信用しない。……特に彼方からはあの女と同じにおいがする。大事なものを守るために、だんな汚い行為でも平然とやってしまうようなあいつと。一応、停戦はするみたいだけど……下手なことして御覧なさい、死ぬよりもつらい目にあわせるから」
言葉と共に放たれるのは殺気。しかも、心臓をギリギリと締め付けられるようなプレッシャーだ。
「あと、不愉快だから私達の周りをかぎまわるのもやめてね? 私、無敵ほど温厚じゃないの」
ワーグの目は子供のそれとは見えず、睨まれればひざの力が抜けて崩れ落ちそうになる。
「……わかったわ」
寧々は何とかそれだけ搾り出すとすぐにその場を離れた。
「……あれだけ脅しとけば大丈夫でしょう。……ふう、柄にもないことすると疲れるわ」
ん〜、と大きく伸びして首をこきりとならす。
「ただいま戻ったッス」
と、寧々と入れ替わりに鬼門が事務所に帰ってきた。
「あ、ごくろ〜さん」
ワーグはお子様モードに切り替えて鬼門に飛びつく。
「他のみなさんは?」
「ビノノンお〜と無敵は見回り、リセットはあそこのお仕事をそのままに抜け出して買い物で、辻家のお姉さんと未来おねえちゃんの二人が探しにいったよ」
「で、ワーグさんは留守番、と?」
「うん。でも、待ってるのに飽きちゃった。ワーグたちも探しに行こう!」
「え、マジっすか? 少し休ませてくださいよ……」
「だめ〜」
お子様モードのワーグに鬼門が逆らえるわけもなく、鬼門はワーグに引きずられるようにして外へ連れて行かれた。
その後、鬼門はワーグの気分転換が済むまで町中をつれまわされる事となる。
そして、事務所に帰り着いたときには疲れ果てて玄関で崩れ落ちた。
「ちょっとはしゃぎすぎたかな?」
「ちょ、ちょっとじゃないっす……」
中ではメンバーが集まって会議をしていた。
「遅いですよ、二人とも。明日はフナイを攻めるんですから準備を怠らないでくださいね」
「あら、フナイに決まったの? ハクアは?」
「ちょっと、運営資金が減り始めましてね。ある程度の収入が見込めそうな場所を先に落とすことにしたんです。悪司組の資金ルートを潰すためでもあります」
「なるほどね。森だけの土地よりもっと人の多いところの方がいいわけね」
「そういうことです」
「無敵殿、資金は後どれくらい残っている?」
ビノノン王の言葉に無敵は何かを書かれた紙を渡した。
「だいたいあと半月は持つと思いますがそれまでに悪司組を撃破できるかは微妙なところなので」
「ふむ。確かに金策を講じねばなるまいな」
「めんどくさ〜い」
「姉上、原因に心当たりがありませんか?」
「う……ない」
リセットの目が泳ぐ。
「姉上の部屋にあるこの世界の服が原因ですね?」
リセットは固まり無敵はさらに続ける。
「ちなみに今日の買い物でいくら使ったんです?」
無敵の目が怖い。さすがのリセットも全てばれてると分かると脱兎のごとく逃げ出した。
確かにカラーの運動能力は人間より優れている。魔王の力を失った今でもなかなかのものだ。
「……今日はここまでで。明日の襲撃は全員で行きます。派手に行き、住民の目をさっさとこちらへ向けてしまいましょう。では解散してください。……僕は姉上を捕まえに行きます」
カラーの能力はあくまで人よりは上ということ。魔人とは比べるべくもなく……。
リセットは間もなく捕まり朝まで無敵にしかられることとなった。さすが五十六の性格に似ているためか、こういうときは姉に対してでも厳しかった。五十六がランスに対して厳しかったように。

あとがき

そろそろ二人の世界も進めないといかんのですが……。
ま、いいか。
次はフナイでつぶらな瞳の大男と対決予定。あとは殺と無敵の会談(?)になるはず。
ランス6では武勇伝と逆にさっちゃんがランスワールドに迷い込んだようですが。


小説の部屋へ      ねくすと〜