デュナン統一戦争から幾年が過ぎた。
華々しい終幕を迎えた同盟軍。
歓喜の声飛び交うその祝賀会のさなか、彼は人知れず姿をくらました。
その戦いは彼に様々な思い出を残した。
愉快な事象、不愉快な事象、喜びの事象、憤りの事象…たくさんの出来事が彼の過去の傷痕を慰めた。
しかしその間、彼は過去を忘却の彼方に置き去りにしていた。
そしてそのことは、彼が終幕を実感したその瞬間、怒涛の如く彼の中を吹き荒れたのだった。
終戦を祝う祝賀会、既視感覚えた彼は逃げ出さずにいられなかった。
過去の
彼はその時から随分な時を経た今でも、鮮やかに思い出す……………
千篇一律
彼はハルモニア神聖国に隣接した見渡す限り緑々の草原に、一人ぽつんと佇んでいた。
「ここが…グラスランド…」
雄大な自然の中、彼は孤独を実感する。
それと同時に、彼は思う。
退屈。
たくさんのものが変化し、彼のそばをすり抜けていった。
それらは様々な彩りで鮮やかに壇上で舞っていた。
そして変わらず、彼は
そうと望んで彼は観客に収まった。
…なのに。
この退屈は、なんだろう。
なぜ鮮やかに舞う彼等は、こんなにも退屈に見えるのだろう。
それは。
一様な旅路、単調な日々…変わらぬ自身。
それは、彼、だからこそ思うのだ。
何事も、彼と違い変化していく。
時間という概念から取り残された彼は、ただ
ゆっくりと、過ぎていく。
時も人も皆。
もう何事にも関わってはいけないと誓った彼は、何事からも一線を引いた。
すべてが一様で、面白味が無く思えた。
変えられない現実、どう仕様も無い事実。
デュナン統一戦争終幕後、彼はしばしばそのことに捕らわれる。
一様な旅路、単調な日々…変わらぬ自身。
それが永遠に生き続けなければならない者の宿命。
彼の名は、クゥ・マクドール。
不変の英雄の名を戴く者
「……………何、を」
クゥは呟いた。
呟かずにはいられなかった。
雄大な草原、広がる空一面の鱗の雲。
穏やかな天候だった。
しかしそんな見る者を圧倒させるような空でありながら、クゥの気は晴れない。
ずっと顔を下げ、ひとり草の海原に佇むその姿は全くをもってその光景に相容れなかった。
もう一度何事かを呟くために口を開ける。
「…これから、何を」
風一つ無い空間。
何もかもが静まり返っていた。
このような日だからこそ、クゥは尚強く思う。
このままずっと単調な日々が続くのかと。
ここに来たのは、噂を聞いたからだった。
“グラスランドで不穏な動きがある”
クゥはその過去のために、そういった世の中の動きに敏感だった。
それに紋章が動いたこともクゥは自身の紋章から感じ取っていた。
自身の紋章
現在の状況を作り出している元凶。
しかしその元凶から感じ取った動きだからこそ、信憑性は高かった。
また、星が動き始めている。
そして何よりも、この単調で面白味の無い毎日に気力を失いかけていた。
気力を失っても、別段生きるのに何の問題も無い。
しかしここ幾年変化の無い日々に心底疲れ果てていたのも事実だった。
そこへ行けば、何かがあるかもしれない。
クゥが旅路をグラスランドへ向けたのは、そんな理由からだった。
しかし大草原を旅すれど旅すれど、単調である日々に変わりはなかった。
そのために先刻の呟き。
これから何をすれば良いのだろう
今まで幾度もクゥの頭に思い浮かんだ言葉であるが、幾度も口から零れる言葉だった。
あの戦争が終わってから、幾度もそう呟いた。
しかし、そうしたことによって何かが変わったことは無い。
そう思っていつも頭から払いのける言葉であったが、自身の頭から離れることはなかった。
ふ、とクゥは諦めたようにため息をつく。
「何をすれば……って、どうせやることといっても生きることだけだもんね」
そう言って左手で自分の右手を触った。
現在の状況を作り出している元凶。
されどもう動かしようのない現実。
不老不死。
近頃では思い浮かべることさえ億劫だ。
『これさえ無ければ』
などという言葉など、とうに言い厭きた。
一様な旅路、単調な日々…そして変わらぬ自身。
クゥの絶望である存在。
それと同時に、生き続ける理由。
希望、などとは口が裂けても言えない。
過去にこれがどんなに人の魂を吸い取ってきたのかと思うと、おぞましさに吐き気がする。
死神……………そう過去に陰で言われ続けてきただけある。
クゥは良くつくづくそのように思う。
まさにこれは死神であると。
しかしどんなに忌み貫こうが貫かまいが、大切な親友から預かった唯一の形見でもあり、親友の魂が眠っている場所でもある。
他にもたくさんの大切な者達が永遠にこの中に眠っている………
希望、などとは口が裂けても言えない、言いたくないが、これが自身の存在理由でもある。
絶望であって希望。
皮肉にもある意味クゥにとってそうであるのかもしれない。
「……………?」
クゥはふと何かに気づいた。
それは………触っている右手が微かに熱を発したような気がしたからだ。
気のせいかと思うが、クゥは他にすることも無いしと果てしなく続く思考を止め、手袋を外して包帯を解いた。
……………もしそれが本当で、何か大変なことでも起きたのなら取り返しがつかないから…と頭の片隅で考えながら。
「嘘……………」
現れた紋章は、自身の存在を禍々しい赤い光で主張していた。
最初は微かに、だがだんだんとその反応は顕著になっていった。
「まさかっ!」
紋章の上から包帯を巻き、手袋をしてクゥは一気に全身を緊張させる。
その時。
ひゅんっ
クゥの脇を後ろから来た何かが通り過ぎていった。
「……………え?」
わけがわからずクゥが茫然と通り過ぎていった何かを見ているとさらに、
「危ないっっ!!」
「え?何…わぁッ!!」
ドンッ!!
クゥに何者かがすごい勢いでぶつかってきた。
ドサドサッー!
そしてクゥは巻き込まれて何者かと一緒に倒れこんでしまった。
「………………っぅ……………!!」
あまりにもいきなりだったために受身の取れなかったクゥはどうにか身体を捻って顔面地面激突だけは免れたが、
その代わり背中をしたたかに地面に打ちつけた。
ついで頭も打ち付けていたため、軽く脳震盪を起こしたクゥはしばし呻くだけで動き出せなかった。
「あ……………ってぇー!!」
たし。
クゥの右耳のすぐ隣に何者かが手を置いた音がした。
自分の上に何者か乗っていることがわかった。
クゥはなんだろうと霞む目を凝らして見ようとする。
……………だれ?
それは余りの痛みに声にならなかったが。
「って、あっ!!あの大丈夫かっ!?怪我は!?」
「……………………ぁ、っ」
まだ声が出ない。
しかし目の端で誰かが動くのに気づく。
「ほんとに大丈夫か……?」
目の前にいる誰かが頬に触れてくる。
目が元通りになってきて、相手の顔がだんだんはっきりしてくる。
しゃべらないクゥを心配そうに見ている。
……………カラヤ族?
グラスランドを旅していて、たびたび見かけるこの風貌と特徴的な衣装。
ぼんやりとクゥはそんなことを考えた。
なぜ、ここに?
湧き出る疑問に返る答えはもちろん無い。
ソウルイータのあの反応。
そしてその後にこの出来事。
この少年は、一体。
クゥは心の奥底がザワリと揺れるのを感じた。
「あ…の」
やっと声が出てきて、搾り出すように声をかける。
「どうした!?」
はじかれたように反応するカラヤ族の少年。
声をかけておきながら何を言えば良いのか迷ったクゥは、まだ苦しそうな顔をしながらもとりあえず困った顔で言う。
「えと、どいて…くれるかな?」
「ほんっとすまんっ…!!」
「いや、まぁ…済んだことだし」
突然の衝突から数分後、なんとか復活したクゥは謝罪の嵐にあっていた。
随分激しくぶつかってこられ、数分たったいまでさえクゥは体の節々に痛みが残っていた。
それをこの少年は心配したのだろう、何度も「大丈夫か?」とぶつかったクゥの安否を尋ねている。
しかしクゥは別段怒らずにいた。
怒ることよりも、むしろこの目の前のカラヤ族の少年のことのほうが気になっていたからだ。
自身の紋章があのように反応した。
そしてその後すぐに現れたこの少年。
クゥはその時のことをふと思い出し、尋ねる。
「そういえば……………最初僕の隣を通り過ぎたのは何?」
「っあーっ!!そうだ忘れてたっ!!フーバー、フーバー!!」
思い出したのか、今まで謝り倒しだったカラヤ族の少年は大きな声を出して何者かの名前を呼ぶ。
するとすぐに大きな羽音が聞こえ、クゥの背丈を越すほどの大きさの動物がカラヤ族の少年の隣に降り立つ。
「こら、おまえはーっ!いたずらするにも限度があるぞ!!」
キュオン…と首(?)を竦めて嘴を差し出す。
そこには。
「……………瞬きの…手鏡」
思わずクゥは呟く。
それは過去自分が何度も使っていた物。
そう思った瞬間、クゥの中でその頃の記憶が栓を切ったかのように鮮明に溢れ出した。
クゥの故郷グレッグミンスター、本拠地の城、そこにいた人々…
クゥは我知らず、その手鏡を目を細めて仔細に眺めていた。
「あれ、何だ?これ知ってるのか?」
クゥの様子を見て、不思議に思ったのかカラヤ族の少年が聞いてくる。
思わずクゥはその顔を見つめる。
「君…もしかして………」
緑翠石の瞳がクゥの漆黒の目に留まる。
その色に、息を呑む。
何か不思議な力で満たされている
その色は見る者を魁いてやまないという…
この瞳を、僕は知っている
「いや、いい、なんでもない」
慌ててクゥはそう言う。
答えは、何よりもその瞳が語っていた。
「君、なんて名前なの?」
クゥは聞きたくなって聞く。
こんな瞳を持っているこの少年。
一体どんな者なのだろうか。
「ヒューゴだけど………あんたは?」
「え?」
一瞬なんのことかわからなかったが、すぐに自分も名前を聞かれていることに気付く。
「僕の名前?僕はクゥ。クゥ・マ…」
クゥ・マクドール、とすべて答えそうになり、クゥは詰まる。
『クゥ・マクドール』
というのは彼の過去の名前。
とうの昔にクゥが捨てさった名だった。
父殺しの肩書きを背負ったときから、クゥの中で『クゥ・マクドール』という名は消え去った。
そしてこれからはただのクゥという不死の軍主であるのだと。
仲間になった同盟軍では、ずっと『英雄のクゥ』という肩書きを背負っていた。
そのため、『クゥ・マクドール』という名はクゥにとって過去の遺物でしかないのだ。
しかし同盟軍を去り、変化のない日々で名を名乗ることのなかったクゥは、今ここで遺恨の残るこの名をあえて名乗りたくはなかった。
クゥは少し間を置いて言った。
「……………いや、僕はクゥ。ただの旅人さ」
そう、ただの旅人。
クゥは微笑んで空を仰ぐ。
そこには雄大な鱗雲がグラスランドの空中に広がっていた。
「フーバーの羽みたいだ…」
つられて上を向いたヒューゴがポツリとつぶやく。
フーバーを追いかけていてこの壮大な雲の群れに気付かないでいたらしい。
どこまでも続く鱗雲の群れ。
それはまるで手が届きそうな程。
空が、近い。
クゥは手を空に伸ばす。
「なんだか…雲がつかめそう」
クゥにはそれほど空が近い気がしていた。
ここに来た当初、別段目にも入らなかった光景。
いままでの面白味のない日々の延長だとずっと考えていたからだ。
しかしそれもこの、思いがけない出来事によってクゥには何か変化が起こったような気がした。
それは、単調な日々の区切れのようにも思えた。
心の奥底がざわめきたつ。
何かが、起こりそうな気がしていた………
*…………………POSTSCRIPT…………………*
四字熟語で百の御題第一弾、千篇一律完成ー!!
いやぁ大変でしたコレ(涙)
すごい書きづらかった……………(T T)
小説書くのって大変……改めて認識。
でも完成の時の喜びが極度に好きです。
またキャラが爆走しました……………ヒューゴ君。
ソウルさんもι
途中からかなり文の雰囲気が変わってしまったので、何度書き直そうと思ったのですが…
でも色々と切り捨てたくない部分がいっぱいあったので、そのまま手を加えるに留めました。
ええ、ほんま何度切り捨てようと思ったことか……………(泣)
文書くの好きですけど、上手く書けないと本気で放り投げたくなりますね。
でも完成させたかった……………
というかさりげにこのサイトでは初の幻水3小説ですね。
ハルモニアン(←笑)とか書きたいですよー!!
実はまだこの小説書いた時点では3未クリアなんですねー(笑)
色々とわかんなくて苦労しました。
早く3クリアしようぜ自分………(遅ー!!)
このページの背景、実は11月24日に関東で見られた綺麗な鱗雲なんです。
ニュースでもネットでも噂になってましたね……………!!
餃子はガッコの帰り道、あまりに綺麗だったもんでわざわざ回り道して人気の無い道で一人で楽しんでました。
この小説はその前日から書き始めたんです、携帯で。授業中(爆)
ガッコが終わってガッコから出たとき、この空が広がっていてとても感動しました……………
ケータイでバシバシ撮ってたら、小説ずっとケータイに打ち込んでたせいで電源切れたんです(怒)
一番撮りたかった空が撮れませんでした……………
でもあまりに綺麗だったのが忘れられなくて、餃子はこの小説に取り入れてしまいました。
クゥがこれを見て、それで何かを感じた……………そんな風にしたくなったんですよね。
あと、この鱗雲が鳥の羽みたいに太陽を中心に広がっていたんです。
それでヒューゴ君にどうしてもあの台詞を言わせたくなって……………
良い日でした。
もう二度と見られないでしょうけど、どんな感動的な映画よりも大感動でした。
2004.11.27 真白茶飴
*……………………………………………………*
THANKS TO
→青空鈴姫!!(助言感謝!!)
→五十嵐暁!!(3未返却御免!!)
【千篇一律】
多くのものがみんな同じ調子で、変化やおもしろみのないようす。
(広辞苑抜粋)
ちなみに餃子はこの『千篇一律』は『千変万化』の対義語だと主張したい!!