暗流
「……………こ、ここは……?」
クゥはあたりを見渡す。
真っ暗で、先が全く見えない。
自分が立っている足元さえ、存在しているのかしていないのかわからない程。
見えるのは、ただ自分一人。
真っ暗な何も無い空間に、ただ自分だけポツリと浮かんでいる。
「現実、ってわけじゃなさそうだね…」
自分はさっきまで宿屋の一室にいたはずだ。
「……………なんでこんなとこに……………?」
考えてみる。
「……………そう、僕はトキのことを考えていたんだ………」
同盟軍本拠地一階広間、そこでクゥはトキを棍で殴った。
最近トキの態度があまりに余所余所しく、つい取り乱してしまったのだ。
………好きになりかけていたから。
そしてその勢いで本拠地を飛び出してきて。
「なんだかこのまま家に帰りたくなくて、バナーの村で泊まろうって」
それから、宿屋で今日あったことをずっと考えていた。
でも、考えれば考えるほど悲しくなっていって。
目を合わせようとしてもいつのまにか自然に外されているし、何か他愛の無い話などしている時も、なんだか上の空で。
「……………今までいっつもくっついてこられてばっかだったから……………」
始終べったりで。
……………だからこそ余計に。
「そしたら、急に右手の甲が熱くなってきて」
そこから黒い光が溢れてきて、必死に抑えようとしたけど………止まらなくて。
背筋が凍った。
とてつもない恐怖に襲われる。
僕は右手を押さえて叫びだした……………
そこで記憶は途切れている。
「……………こいつのせい?」
右手を見る。
そこにはいつもはあるはずの手袋が無かった。
その下にある包帯も。
そして。
「紋章が……………無い!?」
手袋を脱ぎ、包帯を解くとある、あの紅い紋様が。
そんなことをせずとも判る……強力に自己を主張する、生と死の紋章。
「そんな…そんなこと、あるはずが………」
いなくなったはずはない。
未だに感じる、その存在。
ココニ、イル。
「確かにいる……………でも、僕の中じゃない」
そう、それは僕の中でなく……………
『この空間自体が私だからな』
その声はクゥの背後から聞こえた。
「…………………………」
クゥはゆっくり振り向く。
誰がいるのかは明白。
だけどけして背を向けてはいけない相手……………そのためにも、クゥは逃げたくなる自分を必死に抑えて、
あえて余裕を見せているかようにゆっくり振り向く。
『この姿で会うのは始めまして、というべきか…………クゥ・マクドール』
そこにいた存在。
それは。
「……………
クゥはそれを見た途端、微かに目を見張る。
それはその存在、ソウルイーターが人型をしていたからだ。
「……………どんな姿をしているかと思ったら……………」
しかも意外と顔立ちは整っており、すらりと長身である。
全体的に黒くて装飾の多い服装。
多少派手だが、こんな感じの人が道を歩いていても変には思わない。
それくらい見た目はいたって普通のヒト、だった。
しかし、世にも不思議な髪の色と、同じ色合いの目がそれを否定する。
普通のヒトにはありえない、強烈な存在感と威圧感。
そして全体的に漂う、妖艶な雰囲気。
「……………っ……」
圧される……………!!
クゥは背筋が凍った気がした。
腕で自分の身体ををかき抱く。
そうすることで、ふとするとしゃがみこんでしまいそうな自分を必死で支えた。
それほどの威圧感。
本能的、恐怖。
『ふふ………良いな…その感じは。
まさしく、私を宿すにふさわしい』
クゥは圧力に負けずに睨みつけていると、ソウルイーターが満足そうに言葉を放つ。
『私のこの姿を初めて見て、立っていられるのは………おまえが初めてだな、クゥ・マクドール』
妖艶に微笑む。
『……………最高の主、ではないか』
ソウルイーターがクゥの方へ歩む。
近づいてくるその存在に、クゥは戦慄を覚える。
「くっ来るなっ…!!」
後退ろうとするが、身体が金縛りにあったかのように動かない。
結果、ソウルイーターはクゥの目前まで来てしまった。
クゥはもう蛇に睨まれた蛙状態で、ソウルイーターの動作をただただ目を見張って見るしかなかった。
ソウルイーターがクゥの髪に手を伸ばす。
「……………っ!」
クゥはビクリと身体を振るわせる。
ソウルイーターはそれを気にかけた様子も無く、好きなように手を動かしていく。
『この髪…この目…この身体……………すべて、そうすべて』
ソウルイーターの形のよい手が、クゥの白い肌をすべる。
そして顎を掴み、
『すべて私のものだ』
ふっくらとしたクゥの紅い唇に自分のそれを合わせる。
「っ!」
またビクリと身体を震わせ、目をきつく閉じるクゥ。
怖い。
クゥの頭にはその一言以外はなかった。
ただ圧倒的な何かが、自分を捕らえている。
そのことがクゥの動きを止めていた。
「……………っ!?」
クゥの口内に何かが侵入してきた。
その途端、クゥは体中を戒めていた鎖が解けたように、思いっきりソウルイーターを突き飛ばす。
そして自身もソウルイーターからできるだけ離れる。
「なっ………何を………!?」
ソウルイーターは数歩よろめくが、後は何事も無かったかのように腕を組む。
『……………お前は私を受け入れぬ、ということだな…』
「な、何のことだよ……………!?」
『トキ、といったかな?』
「!?」
クゥは目を見開く。
「っな、何でそこでトキが出てくるの…………!?」
目に見えて反応したクゥを見ると、ソウルイーターは目を細めた。
その途端、さらにソウルイーターの纏う威圧感が増した。
…………………………!!!
クゥの額に汗が浮き出る。
『そうか……………そやつが私を受け入れぬ原因か……………
始まりの紋章の片割れを宿すもの……………ふむ、それはそれは……………』
ソウルイーターはニヤリと嗤う。
『面白いではないか。
それはぜひとも、目をつけておかねばなるまい……………』
クゥはその言葉に目を見張った。
ダメっ…………………………!!
こいつに、そんなことはっっっっっ!!
「させないっ!!
それだけは僕が絶対にさせない!!
トキはっ…トキだけは、絶対にっ……………!!!!!」
本能的恐怖はまだクゥを戦慄させてたが、クゥは恐れる自分を叱咤し、ソウルイーターを強く睨みつける。
だが、ソウルイーターはさらに笑みを濃くしただけで、針に刺されたほども感じていない様子。
それだけでなく、距離を置いたクゥにまた歩んでいく。
「や……近寄るなっ……………!!」
一旦強く出たせいか、最初よりは動けるようになっていたクゥはソウルイーターから離れていく。
だがまたじわじわと恐怖がクゥに浸透していく。
どうしよう…………今度捕らえられたら逃げられない……………
そんな気がした。
だが、その時。
”クゥさん!!”
「…………………………え?」
声…が、真っ暗な空間に響き渡る。
……………トキ!?
ソウルイーターの足が止まる。
『……………タイムリミット、か』
そしてそうつぶやく。
「……………えっ!?
な、なに、何のこと!?
どうなってるのっ……………!?」
クゥは極度の緊張といきなりのトキの声、それにソウルイーターの言葉に混乱する。
慌てるクゥを見て、ソウルイーターはふ、と笑う。
『忘れるな……………お前は私のものだ』
「は!?
なん…………」
”クゥさんクゥさんクゥさん……………!!!!”
トキ………………?
自分の声を遮り、響いてくるトキの声にクゥは真っ暗な空間の中、安堵する。
安堵した途端、意識がどこかへとひきずられる。
『忘れるな……………クゥ・マクドール………最高の主よ………………………』
ソウルイーターの声を耳の奥底で聞きながら、クゥは真っ暗な空間がどんどん晴れていくのを感じた……………
「あ……………」
目を開いた時、そこにいたのはトキだった。
「ト、キ……………?」
*…………………POSTSCRIPT…………………*
はええ、書き終わった……………☆
これは「好きの理由」の5から6にかけて出てくる、坊ちゃんソウルイーター暴走シーンの話です。
じつはこんなことがあったのですヨ!
ソウル坊!!
ステキ!!
わ〜い♥
ソウルさんは坊ちゃんが大変気に入ったご様子。
そして今回餃子が一番書きたかったのは、ソウルvsトキ×クゥな場面なのでした!
面白いくらいにソウルさんがトキを敵視してくれて嬉しかったです♥
てか坊ちゃん弱!!
あ、あたしの中の坊ちゃん設定ってこんなに弱かったっけ………!?
↑弱くないつもりでした、実は(笑)
でもいつの間にか弱くなってるんだよ〜、いつもーーーーーー!!!
何故!?
……………ヨシ!
では次は強い坊ちゃんを書こう!!
強気坊ちゃん!
次の目標ができたっ!
……………………果たして餃子は目標達成できるのか!?
次回、こうご期待っ♪
あ、ちなみに題名の意味は『表面に現われない流れ(動き)』です。
2004.9.12 真白茶飴
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