少年
それはとある地方の、とある森の奥深く。
その少年は住んでいた。
「君は…確か20年前にも…」
ザクエルは、少年を見て20年程前この森の奥深くに迷い込んだ事を思い出す。
「ああ、僕の父のことでしょうか?」
少年は、ふわりと不思議に魅力のある微笑みを返す。
…それは、見る物の心に、温かな火を灯すようなものだった。
20年前にも見たその笑みに、ザクエルは思わず笑みを零す。
「そうか、君は息子なんだね」
「ええ…僕の家系はちょっと特殊なんですよ。
僕のように男児が生まれると、決まって代々そっくりな顔つきをしているんです」
ザクエルはふ〜んといかにも不思議そうな顔で少年をまじまじと見た。
「珍しい家系だね…」
ええ。とまたしてもにっこり微笑む少年に、ザクエルはあっさり納得した。
「…お疑いにならないのですか?」
「なぜだい?」
「だって…おかしいじゃないですか。
代々同じ顔の男の子が生まれるだなんて」
少年が、少し不安げな顔をする。
「いや…俺ももう、昔と違って随分な歳を取ったからな。
そして随分な年月、旅を続けてきたからな…世の中には、まだまだ俺の知らない不思議なことが一杯ある」
ザクエルは続ける。
「色んな物を見てきた。
色んな事があった。
色んな人と出会ってきた…だからこそだ。
知らないからと追求し続けることも良いが、知らない方が良かったこともあるし…な?」
そう言って右眉を茶目っ気たっぷりに上げるその仕草。
昔とは言っても、ともに過ごした時間は僅かなものだった。
それでも、よくザクエルがしていたその妙に愛嬌のある仕草に、少年は目を眇めた。
それも、たった一瞬のことだったが。
「そうですか。
…昔父が世話になったお礼です。
今日は是非とも僕の家に泊まって行って下さい」
「そいつはありがたい!
実は道に迷っていてね…泊まる場所に困っていたんだ。
野宿でも良いんだが…この森はやけに険しくてな。
昔君の親父さんにも案内してもらったんだ」
「ええ、父から聞いたことがあります。
『ザクエル』という方が、この森に迷い込んで来た話をですね…」
ザクエルが60の歳を過ぎた頃。
これが最後の旅かなと思いつつ、とある国の、とある諸島を旅していた。
また、昔会った少年に良く似た、少年を見た。
「君!ちょっとそこの君!」
「はい?なんでしょうか」
「…瓜二つだ…君は、ヤキンの森にいた少年の…」
「ああ、従兄の兄さんのことですね?」
「やっぱりそうか…君たち一家は、本当に同じなんだな」
「…僕たちの話を聞いたのですね。
まぁ、こういう家系ですから…」
「わたしはまた、随分歳を取ったようだ…
あの時出会ったあの少年とそっくりな君を見てると…非常にそう思えるものだ」
少年は、少し哀しいような、困ったようなとても微妙で複雑な表情をした。
…言葉にして言ってみればそんなものだろうか。
ただ、その表情は、本当に僅かなものだったのでザクエルは大して気に止めなかった。
「ここで会ったのも何かの縁だ。
今夜は君の…ええと、叔父さんと従兄のお兄さんから受けた恩のお礼を代わりに受け取ってくれ!
そこにわたしが行きつけの旨い料亭があるんだ。
ぜひとも夕飯をおごらせてくれよ」
少年は三度ほど、「良いですよ、そんな」と断ったが、四度目に
「わかりました、では折角の好意ですから、ありがたく頂戴しましょう」
と返答した。
・
・
・
「君は…叔父さんにも従兄のお兄さんにも良く似ているんだな」
「そうでしょうか?」
少年が、顔に似合わず強めの酒を軽々飲み干すのを見てザクエルはぼんやり昔に思いを馳せる。
「わたしは…生まれて60年も過ごしてきて、本当に沢山の事を経験してきた…
でも、こんな不思議な気持ちは初めてだ」
「なぜです?」
「君は…本当に良く似ている。
…なぁ、本当は、君はあの、一番最初に会ったあの少年なんじゃないか?」
少年は、少しの間目を見張ったが、ふわりと不思議に魅力のある微笑みを返す。
「いえ、違います。
僕は僕で、それ以外の何者でもありません」
ザクエルはふ、と笑う
「そうだよな、そんなことあるわけないよな。
あまりに似ているもんだからついそう思ってしまった」
そう言って大きく口を開いて豪快に笑い声を上げ始めた。
その少年と夕飯を終えて別れた後、ふとザクエルは気づいた。
「そういえば…名前聞いてなかった」
気になったので、その料亭まで引き返してみたがもうそこには酔いつぶれた客を追い出している顔馴染みの店長しかいなかった。
念のため付近も探してみたが、やっぱりいなかった。
少年は、それと感じさせない程違和感無くそこにいた。
名を知らなくても、まるで昔からの顔馴染みのように。
特に慣れ慣れしいわけでもなく、特に冷たいわけでもなく。
ただ、ザクエルの話を聞いてくれた。
…どの少年も、だ。
ザクエルはふとそう考えて足を止めた。
「ま、でも…知らないからと追求し続けることも良いが、知らない方が良かったこともあるし…な?」
そう言って右眉を僅かに上げた。
まるでそこに、もういない筈の少年が、まるですぐ目の前にいるかのような仕草で。
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嘘つきクゥ君の、常套文句?なのでしょうか。
色々なことがあったクゥも、何十年か何百年か経てばこんな飄々とした人になってしまうのでしょうかね。
…所で、アドレスバーの所を見ればわかるのですが…
ファイル名、『eternalmacdol』ですってよ(笑)
いつもならば小説の題名に変えてサイトにはUPしてるのですが…
でも実は小説を書いてる時は、こんな風にファイル名で遊んでたりします(笑)
今回はなんか面白かったので、そのまま残しておきました(笑)
あ、あともう一つ。
『ヤキンの森』
これ、何処から来たと思います?
…実は種の「ヤキンドゥーエ」からです(笑)
かなり適当www
今回は珍しくオリジナルキャラが出てきましたねー。
多分もう二度と活躍は無いと思われます、ザクエルさん(笑)
ちょっとビクトールに似てますね(笑)
CPの話ではないですし、このサイトの坊ちゃん小説としてはちょっと異端なのですが…
真白は気に入っています。
このクゥは、トキと一緒に暮らしているクゥとはもしかしたら違うかもしれないし…もしかしたら同じなのかもしれない。
一応SUB STORYに入れておきましたが…真白的には、MAINでも良い感じです。
未来のクゥの姿、そんな感じで。
2007.06.13 真白茶飴
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