過食症
食べても
食べても
満たされない。
「…お前、相変わらず良く食うなー」
「そう?」
嬉しそうな顔してクゥは食べ物を胃につめこんでいく。
食べる事は幸せ。
食べているときは何事をも忘れる。
「きっと『痩せの大食い』なんだよ♪」
うっふふ、と冗談めかして言うクゥは、食べている間は本当に嬉しそうな顔をしている。
目の前に広がる皿の山は、数えてみるとざっと7人前はあるのではないだろうか。
これでも大食いな方であるビクトールは、その脅威の食べ癖にいつもながらに呆れ顔だった。
「…ていうか…なんか、最初の頃より増えてないか…?」
「うーん、だって最近忙しいし、僕だってこれでも紋章が無かったら成長期だよー?食べないでどうすんの♪」
にこにこと大振りの肉を口に運ぶクゥ。
そんな様子にわりと食の細いフリックは口を押さえて「うぷ…」とか言いながら青い顔をしていた。
びちゃ…
「…か、はっ…」
咽が痛い。
吐くタイミングが遅かった…どうやら食道が少し灼かれたようだ。
急いでうがいをする。
ふと鏡に写った自分が白い顔しているのを見てくすりと笑った。
「…まーたしちゃったかな、ふふっ」
自虐的な笑みだと思った。
それでも止められない。
まだ、足りない。
もっと食べたい。
何か食べていないと落ち着かない。
どこかに何か、なかっただろうか。
「んー…もう一回食堂行ってこよっかな…」
でもさすがにそういうのをあまり繰り返していると気付かれるから、やらない。
口に出してみただけだ。
でも、食べたい。
「そうだっ!朝バーバラさんにもらったお茶菓子があった♪」
紅茶飲みながら食ーべよっと、るんるん気分でやかんに火をかけた。
料理が好きだからと、作ってもらった小さなかまどだ。
何か食べたくて食べたくて仕方ない時、自分で作って食べられる様に。
食べ物が胃に入って消化する前に吐かないと、咽が痛くなる。
咽が痛いと会議や演説の時、困る。
クゥが吐く様になってから覚えたのは、吐くタイミングだった。
上手く掴めば、いくらだって食べ物は口に入った。
痩せたいとか、そういうわけじゃなかった。
そもそも痩せる前から小柄だし、むしろ体格を良くしたいから太りたかった方だ。
でもその前に、なんにせよ食べたかった。
初めて吐いたのは、あの日。
色々疲れていたあの日、夕食を食べたらとても美味しかった。
元々食べ物を食べるのは好きだった。
「食べる事は人生に於いて最大の幸福だ!」
と言いながらテッドと大食い競争などしたことがある。
グレミオのシチューは美味しいし、いつだっていっぱい食べていた。
思ってみれば、解放軍に入ってから気分がむしゃくしゃすると、「何か美味しい物、食べたらきっと楽しくなるよね♪」と無意識に何か食べていたような気もする。
ついその日はたくさん食べ過ぎた。
多分、5人前くらい、一人で平らげた気がする。
周りが目を皿にしながら驚いていた。
クゥは、ケロリとした顔をして
「ああ、僕昔から、たまーにこうして大食いすることあるんだよねー」
と言い放った。
異変に気付いたのは、部屋に戻ってからだった。
「…っ!?」
急いで洗面所に向かうと、吐いた。
咽が、ひりひりした。
お腹もごろごろしたし、胃もあまり調子良くなかった。
…でも、不思議と。
「…なんか、お腹空いちゃったな」
うがいしてから、また食堂へ向かった。
食べるのは、幸せ。
美味しい物を食べるのは、まさに至福。
食べている間は、何事をも忘れられる。
食べる事だけ考えれば、悲しくなる事さえない。
涙を落せばお腹が減ったし、
夜、悲しい顔して海を眺めるのが習慣になったら、いつの間にか毎晩一人で大量のお菓子とともにお茶会を開いていた。
夜はいつも、
空腹感に目が冴えた。
そのうち、食べる為だけに、生きている気さえした。
誰かに気付かれたら、その悪循環を止められたのかもしれない。
でも常に側に居たグレミオは、気付く前に死んでしまった。
感づかれた事は合ったけど、そんな所だけ器用な自分は食欲を上手くコントロールして、食べる時、食べない時を上手く操作した。
きっと自分を誤魔化すのさえ、食べる事によって上手くなっていったのかもしれない。
人の心を上手く操作するのは得意だった。
まさか自分までも上手く操作できるだなんて、どうして知ってしまったのか。
やめられなかった。
それは、解放軍が終わって、一度川に飛び込んで、かの狂王子に掴まるまで延々と続く、自ら被った自らへの呪い、だった。
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狂ってます…!(笑)
今まではちょびちょびとしか書いて来なかったけれども…でもクゥもルティル同様、どこか気狂いです。
そりゃルティルも口にも表情にも出さずに壊れてゆきますけど…(ていうかルティルの場合、元からと云う説が(笑))彼の場合、クゥよりもっと顕著なんです。
見た目や表面的な性格からしても暗いし、どっか精神脆そうだなーっていうのは、明らかじゃないですか。
…でもクゥの場合、それをすべて明るい笑顔で押し隠せちゃうんです。
元々はー…本当に明るい性格で、翳りも何もなかったのですが。
ただまぁ、実はとっても気遣いさんだったことが…彼を段々おかしくさせていった原因なのですけど。
元々、クゥとルティルは、ぶっちゃけ大差のある設定ではなかったんです(爆)
いや…見た目と表面上の性格は、前々から決まっていた事だったんですが。
クゥの次に生まれた坊っちゃんがルティルで…
あんまし、設定の差と云うものを考えてなかったのですよね、当時(笑)
だからわりとクゥとルティルの境遇っていうのは似通っている所が多いです。
精神的に可笑しくなってくというのも、その一つ。
…まぁ、ルティルは元から可笑しかったのが更に可笑しくなってくといった感じなのですけれども。
ルティルの方のお話を全部読んだ方ならもうおわかりでしょうけれども…「拒食症」の対となるお話です。
クゥとルティルは…表裏一体なのでしょうか?真白の中で?(笑)
でも根本的には良く似てるみたいです。
二人ともダメダメだネ☆
2007.04.02 真白茶飴
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