narratage

「ルティル。…何してんだ、あんた」
雨が降る中、傘も差さずにルティルが雨に濡れていた。
「……雨…」
単語で話すのは彼の癖。
彼は何事をも嫌う。
それは話すことも然り。
そして最も彼の嫌うものはルティル自身そのものだった。
「あぁ、わかったから、雨が何なんだ」
すると彼は意外な答えを返した。
「雨…好きだから」
「………は?」
あまりに珍しい返答に、思わずリェイムは暫しの間ルティルの顔をじぃっと見つめてしまった。
「それはまた…何で…」
ルティルは無表情なその顔を微かに緩ませた。



「な、何してんだ?ルティル」
「………テッド」
雨のしとしとと降る中、傘も差さずにルティルは雨に濡れていた。
雨宿り場所を探していたらしく、テッドが手で顔を庇いながらルティルへと近付く。
「ホラ風邪引くぞ?早くあそこ行こうぜ」
ルティルの手を引いて近くにある楢の木々の元へ行こうとする。
「………」
ルティルは別段逆らわなかったが、一度だけ雨空を振り仰いだ。

「…お前なぁ…なんであんなとこでズブ濡れんなってんだよ」
また心配しちまったじゃないか…と呆れたように言うテッド。
ルティルは時折激しく精神不安定になるので、テッドはルティル専門の心配性になりそうな程だった。
ルティルは精神的に脆い。
あれだけの棒術が使え、なおかつ他の武器、格闘技などのセンスもかなりのものがある。
毎日鍛練は欠かさないし、普通に考えれば体力派で健康的な少年だ…テッドは思う。
…定期的に起こす胃痙攣さえなければな、と心の中で勝手に付け加えたが。
ルティルはどんなに理性でわかっていても、けして自身を甘やかそうとしない…むしろ意図的に厳しくあたる。
いや、そもそもその理性自体、おかしいのかもしれないが。
「テッドは…雨、好き…?」
「は?雨?………う〜ん、嫌いだな!」
「…何故?」
「だって雨降ったらお前と外で遊べないじゃん」
その言葉はルティルの目を驚きに見開かせた。…微かだったが。
しかしルティルはこう答える。
「僕は…好き」
「っはァー!?ルティルが?好きって…何を?雨を!?何故に!?」
テッドはあまりの珍しさに思わず言葉がおかしくなったが、そんなテッドに何を思ったか 思わなかったか常と同じく無表情に淡々と話す。
「雨は…汚れを綺麗に流す…だから」
「…は?そりゃあ、地面に有るもの流し去って、それからいつの間にか何処か消えちまうけど…それがどうかした?」
「うん、そう…汚い物、皆消し去る…」
「…ってお前もしかして」
何かに気付いたテッドの方へ向き、ルティルは微かに目元を笑みの形にする。
「うん………。ついでに…木々に恵みを与え、地上を浄化するそのついでに…僕も消し去って欲しかった」
ルティルは雨が降るたび、雨が己の汚れを浄化するような気がしていた。
諸悪の根源である己自身を綺麗に流しきってくれる気が。
己など、生きている価値も暇も無い存在。
希望等という言葉を生まれつき持ち併せぬ自身だから、幾度と無く、消え去ろうとした。
しかし何時いかなる時もルティルは死ぬことができなかった。
己の意思ではない。
どんな悪運か、自殺を免れるのだった。
「…でも」
ルティルが雨を見遣る。
そのまま何も言わず、ただじっと雨を見ているので、
「でも…何だ?」
テッドは先を促す。
「…確につまんないね、こんな雨じゃ」
テッドはまず呆気にとられ、そしてその意味を捕えると、盛大に吹き出した。
「嫌い、か?」
「…うん、嫌い」



「一度、嫌いになった。…でもやっぱり雨は好き」
その珍しい表情に
「………はぁ…?何のことだ?」
訝しがりながらも見蕩れている自分をリェイムは自覚する。
「もう、テッドはいないから」
「はぁ…」
テッドって誰だ?と思いながらもその表情をまだ見ていたかったため、リェイムは黙る。
ルティルは己が死ねなかったのは己が天魁星だったからだろう…等とまるで他人事の様に考えた。
雨が降る中、傘も差さずにルティルが雨に濡れ、傘を差したリェイムはそのままずっとルティルを見つめることを止められずにいた。


*…………………POSTSCRIPT…………………*

narratageとは…narration+montageと組み合わせた言葉で、回想場面にナレーションを入れる映画技法。
真白はナレーションと言うよりかは、「回想」といった意味合いで使いました。
微妙に間違っているかもしれませんが、このお話に似合う気がしたので。

これは…結構昔に書いた話ですね。
旧サイト放置ぷれい時代わりと初期に書いたものじゃないでしょうか。
「mistake」に同じく、小綺麗に纏まっていて気に入ってる話です。
この話を書いたきっかけは…narratageって言葉との出会いからだったと思います。
ふとした事からnarratageと云う言葉を知り、なんとなく気に入り…
それで小説にしてみたいな、と思っていたのです。

多分この話は、
「雨が降る中、傘も差さずにルティルが雨に濡れていた。」
って一文から、広がっていった話だったと思います。
多分…その一文が思い付いて、頭から離れなかった…そんなんじゃなかったのかしら。
あまり…良くは覚えてません。
でも気に入ってる話なんです。

 2007.04.02 真白茶飴

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