Pazzle of hearts 〜順〜
あたしの好きな人は、男と付き合っている。
幼馴染みの、宮(みや)。
あたしの好きな人。
小学校1年の頃から高校2年の今まで、何故かずぅぅぅっと同じクラス。
家も徒歩5分以内で付いてしまう距離で、学校帰りに会えば、良く一緒に帰ったこともあった。
腐れ縁…とも言うのかもしれない。
実際、中学半ばぐらいまでは、ずっとそう思ってた。
好きになったキッカケは…正直、あまり覚えていない。
でも、段々、段々、いつの間にか好きになってた。
奴の素直な性格とか、やんちゃで、高校2年になった今でも、子供の様な顔を良くする所とか、なんか可愛いし…それに何より言う事が率直。
宮は、ぶっちゃけ単純馬鹿と言って差し支えないくらいの単細胞で。
あたしがたまに、昔から近くにいるよしみで、つい他の人には言えない、言いたくても隠してたりする愚痴をこぼしたり、うじうじした所を見せると、奴は決まってこんなことを言う。
「順はクールだと良く言われてるど、いつまでもそうしていると、いつか本当に冷たい冷血人間になるぞ?」
それがまさにあたしの性格をズバリ言い当ててて。
あたしは…皆の言う通り、ボーイッシュでサバサバしてて、そしてとても性格がクール。
身長も高めだし、髪はいつも首の辺りで一つ縛り…だなんてとても色気の無い髪型をいつもしている。
人が言うには顔も良いらしいし?なぜだか女の子に良く好かれてたりもする。
…所によれば…知らない間に『順様ファンクラブ』なんてモンもいつの間にか作られてたらしいし…や、まぁ、それは別にかまわないんだけどさ。
「漢らしい」
とかなんか言われて…まぁ、悪い気もしないし、ほっておいてるんだけど。
…でも、皆が皆、そんな風にあたしを見てて。
クールだから、優柔不断じゃないから、だからあたしには迷いなんて絶対無いんだろう。
あまりハッキリ言われたわけじゃないけど、なんか、そんな視線を向けられてるとしばしば感じる。
高校生…義務教育は終わったけど、でもやはり人々の「すごい人」という基準は勉強とか、運動とか、そういったもん。
あたしは勉強もわりと出来るし、それこそ運動なんて言ったら、バスケ部レギュラーのあたしは「とってもデキる人」とか「完全無比な人」とか、結構周りから思われてるらしい。
…人に望まれたら、期待に答えなくては、そういう心理が人には働くみたいで。
やっぱりあたしも、それで無理してる、ってゆうもんなのかな…。
頼られたら、答えなくちゃって思うし…
「順ちゃんは良いよね、何でもできるんだから」
「やっぱり頼りになる!あたし順に一生付いてくーvv」
「さっすが順さん!やっぱ順さんは違うね〜」
「やぁー、本当に凄いよ、この調子で頑張ってね!…あ、順さんなら当然か(笑)」
たまにぽつりとこんなことをつぶやいても
「ああ…今度の中間の数学、あたし苦手範囲なんだよなぁ…」
「なぁに言ってんの!順さんなら大丈夫でしょ?」
そんな風に言われることもしばしばで。
それだから、いつしかあたしは本音を溜め込む様になっていった。
…そういう時に聞く、宮のあの言葉は魔法の様にあたしの心に染み込んで…
知らない間に本当に、もう目も背けられない程奴のことが好きになっていた。
でも、知ってた。
………「亜概(あづき)」の存在を。
亜概。
それは、宮が高校生になってから出会った男の子。
いっこ上の、美術部員。
大人しくて、流され易そうで、クラスの隅っこでいつも一人本を読んでいる様な、そんな存在だった。
体育会系とは基本的相容れない様で、やることなすことすべて文系。
たまたま宮と亜概が一緒に音楽室にいることを見かけた事があるんだけれど…あいつ、歌も上手かった。
宮が目をきらきらさせてそれを熱心に聞いてて、なんだか異色の組み合わせだなぁ、なんて思った。
…亜概の事は、図書委員でたまたま一緒の仕事を担当する様になったから知ってたんだけど…でも、あいつは端から見ても文系とわかる行動、性格で、こういっちゃなんだけど…暗そう、っていうの?
あたしは第一印象、付き合いづらそうな奴、って…そう思ってた。
でも、違ってた。
話してみると、結構毒舌も言うし、流され易そうだという印象も、亜概の「僕が流される事によって、周りの人達の平穏が保たれるならどうってこともないことだよ」と語った彼の言葉により、なんだか逆にあたしが納得させられてしまった。
ゆっくりと、落ち着いたアルトでしゃべる亜概の言葉は、何故だか妙にいつも人を安心させてくれる力を持っていて。
良い奴だな、って、そうあたしは認識してた。
たまたま図書委員で一緒の仕事をしただけの仲だったけど、互いに本好きという共通点もあって、あたしらは結構気が合った。
委員会の活動時とか…後、あたしは一年、亜概は二年だったから教室は遠かったけれど、時には互いのクラスに行き来して本の貸し借りなんてこともしてた。
そうしていたら、あたしらは良い友達としての関係をいつしか築いていた。
あいつらが、どこでどう知り合ったのかは、知らない。
でもいつの間にかあいつらが良く一緒に居る所を目にする様になって。
サッカー部の宮と美術部の亜概だし、そもそも体育会系と文科系だし、学年も違うし、委員会も、どう考えてもかち合うハズのない二人だったのに。
そう思ってあたしは不思議そうな顔で仲の良い二人を見ていたけれど…
最初の内は、どちらかといえば、宮が亜概にくっついてってる様に見えて。
実際、知り合って最初の頃は本当にそうだったらしい…後からあたしは「宮はどうやって亜概と知り合ったの?」と聞いたら、宮は目を眇めてにっこりと笑い、「秘密」と言ったのだけど。
その内にどんどん互いに仲良くなっていって、驚いた事にあの亜概が宮を家に泊まらせた事もあるらしい。
亜概の両親は…共働きなのか、いつも家に居るのは大抵亜概一人らしい。
だから宮一人、亜概の家に泊まらせても問題は無かった様だけれど…でも。
どうやら、あたしは宮という人間の認識を間違っていたみたいで。
…亜概が宮を家に泊まらせた日。
何がどうあってそうなったのかは知らない。
でもこれだけは言える。
あの日から奴らの関係は、どうやら大幅に進路変更したようだ。
こんなことになるなら、もっと早くに告っておけば良かったとか、
もっと素直になっておけば良かったとか、
後悔という名の後悔は、もうし尽くしたつもりだ。
まさかあの二人の関係が、あの一夜から親友から恋人同士に一気に大変革を起こすだなんて。
宮をずっと好きで、ずっと言い出せずにいたあたしにとっては、本当に衝撃も良い所だった。
泣いたし、叫んだし、夜中意味も無く家を出てって、親を困らせたこともあった。
親友の杏(あんず)にも、随分迷惑を掛けた。
…でも、あたしにはどうしようもなかった。
放課後、どの部活でも使われて無く、必ず空き教室になる第二化学室の窓際。
あたしが通りかかって、時間を確認するために時計を覗き込んだのは、本当に偶然だった。
そして窓際に佇む二人の人影に視線が行ったのも、本当に偶然で。
「…宮…?と、亜概、か…なにしてるんだろ?」
逆行になってて、二人の表情が見えない。
声を掛けようと扉に手をかけたその時。
「………え?」
二人の影が重なって。
心の中で荒れ狂う嫉妬の嵐。
二人の関係を知ってしまってからは、廊下で宮を見かけても逃げ出してしまったし、それに亜概には…随分冷たい態度をとってしまった。
男同士の恋愛なんて!!!
思いっきりそんな風に罵倒したこともある。
…亜概は悲しい顔をして、顔を下に向け、唇を噛んでただただ黙り込むだけだった…。
女のあたしを差し置いて、どうして男の亜概に目を向けたのとか
小さい頃からずっと近くにいたあたしより、ぱっと出の亜概なんかの何処が良いのとか
立場的に言えば、宮にとってはどちらも同じ、友達の関係であるはずなのに…しかもなぜ男の方を好きになるのとか
あたしの方が絶対宮の事を好きだとか
もうぐっちゃぐちゃで。
自分の事も嫌いになったし、宮も、亜概も、幾度も憎んだ。
なぜ
どうして
そんな疑問はいつまでたっても消えず、ただ、眠れない日々が続いた。
「順ちゃん」
「………杏…」
仲の良い二人を見て嫉妬することにも、言う事もできずに宮も亜概も避けてしまってることにも、それでも毎日学校に来て勉強して部活してかなきゃならないことにも、もう、本当に疲れていて。
「…ね?ほら、夕焼けが綺麗だよ?」
そんなあたしを見ていらんなかったんだろう、杏はおずおずと言い出す。
「夕焼け見たって…別にこの状況に変化があるわけでもない…」
机の上につっぷしたまま、気力の無い声で答えた。
「でも…ねぇ、本当に綺麗だよぅ?ね、ちょっと顔上げてみて…ね」
いつもあたしに優しい杏が、あたしを揺すり、いつにない強引さで顔を上げる様誘う。
「んもう…。 ………!」
顔を上げた先の、紅。
千切れたかぶと雲が、校庭に植えられた木々が、教室内の机や杏の白い頬、すべてを橙色に染め上げていた。
地上3F、1−4教室から見上げた夕空は、確かにあたしのささくれ立った心を少しだけ、癒したのだ。
「順ちゃん」
夕焼けに魅入ったまま、杏の声に答える。
「何…?」
「………告白、したら?」
ゆっくりと杏に顔を向ける。
意外だった。
そんな突飛なことを言い出す杏。
いつも人に流されてて、何も言えず、ただ受動的に生きていた彼女が。
「………」
せつなくて、でも暖かい色。
橙色。
「うん…そうだね…」
…きっと、あたしはこの色を、この先ずっと忘れない。
振られるってわかってる。
でも、これもきっと、ひとつのけじめ。
亜概にも、悪い事をした。
宮に…告白する。
宮が、一体どれくらい亜概を好きか知らないけど…でもきっと、この恋は、叶わない恋。
小さな頃から…それこそ、小学生の頃から培って来たけれど、いつの間にか灯っていた恋の灯。
叶わなくても、消す事のできない…。
行き場の無い、恋だから。
宮の顔は、何とも形容しがたかった。
驚いたような、でも本当は前から知っていたかのような…そんな、複雑な色の混じり合った表情。
もしかしたら、こうなることを、宮はずっと、避け続けていたのかもしれない。
あたしの言葉を聞いて、すぐに悲しそうな顔になった。
それでもしばらくの間沈黙した後、はっきり言った。
「…ごめん、多分…知ってるんだろうけど、俺と亜概、付き合ってるから…だから」
「………うん」
「ごめん…な」
「うん…」
未練がましいと、人は言うのかもしれないけれど…あたしはやっぱり、忘れる事等できなかった。
少しでも宮が優しくするようなそぶりを見せれば、あたしはいつでも期待してしまったし、その後亜概とラブラブな所をついうっかり目撃してしまって撃沈したり…
亜概とは、告った後でもやっぱりしばらくは気まずかった…ていうか告る前の、あたしが亜概に冷たい態度を取っていた頃より更に気まずくなってしまったような気もしないでもない。
でも、それは時が解決してくれたし、今ではもう、亜概には宮の愚痴とかなんかを言ったり聞かされたりするようにまでなっていて、まるで元の友達だった頃に戻ったかのような気さえした。
宮なんか、普段人に言えないような関係であるだけに、言えるあたしに亜概のノロケをいつもたっぷりと吐いてくれるし、あんなに心配そうに毎日「順ちゃん、ホントに大丈夫?」と聞いてきた杏も、今ではすっかりこの状況に馴染んでいる。
あれから一年経ち、あたし達は2年、亜概は3年になった。
あたしはもう、あのこと以来、なんだか色々大分図太くなって。
なんだか一回り、人間成長した様な気もする。
なんだろう、今となっては、やっぱり周りの女の子達はあたしを「頼りになるお姉さん」みたいな目で見てくるし、クールだってイメージも、相変わらず定着してるみたい…だけど、あえて、そこを生かそうか、だなんて、考えられるようになってきた。
重荷でしょうがなかったそれら。
でも、なんだか…妙に壁を越えられた気がする。
…きっと、あたしは宮に、頼ってたんだ。
思ってみれば、宮にあの言葉を言って欲しくて、わざと誤解を解くよう必至になろうとしなかったのかもしれない。
甘えてたんだ、自分と、宮に。
きっと言葉にしてみれば、あれだと思う。
宮は、あたしを妹の様に思っていたのだと。
宮があたしが甘えるのを受け止めていてくれたのは、きっとそんな理由だったのだと思う。
一年前はそれに気付かずに、一人で舞い上がってただけなんだなって、今更ながらに冷静に思ってはみたけれど…
まぁ、でも今じゃ、どちらかといえば妹でなく、真の意味で友達…つまり同等の立場になれた様な気がする。
思ってみれば、あたしにノロケるだなんて…あたしが甘えるだけだった頃のあいつでは、本当に考えられない。
あの頃は気付きもしなかったけど…あいつ、あたしに弱みなんて見せなかったから。
…今では、むしろ誰かを甘えさせたいような気がしてるんだ。
あたしを見てきゃあきゃあ黄色い声を上げたりするファンクラブの娘達にも、いつも優しく微笑んで隣にいてくれる杏にも、皆に、もっと頼って?みたいに言えるようになって。
あー…つまり、さらなる「漢らしい」度が高まった?らしいっての?
なんか最近、「漢らしい」って言われる回数が本当に増えたよ…
そういや昨日さ、杏ににっこり笑顔で「漢らしさに磨きがかかったね」とやけに嬉しげに言われてしまった。
それから…ね、何故だか妙に、あたしは本当に女の子に人気が出て来てしまった様で…
告白してくる女の子が後を絶たないって…これどういうこと?
女の子ってさ、可愛いし、ふわふわしてて好きなんだけれど…ま、まぁ、皆さん、何か…男も女もアブノーマルに憧れる時期なのかな?
もっと普通に男の子に恋しようよ、と言ってはみたものの、「いいえっ!私達は順様ひとすじで行きますっっっ!!!」などと力説されては、本当、まぁ、なんというか…これもきっと、青春のなせる技よね?
…でもね、やっぱり告白してくる女の子達を見ていると、どうにも一年前のあたしを見ている様で…胸の一部、まだちくりとどこかが痛むんだぁ…
きっとあと何年かかるかはわからないけど、あたしが恋人を作れる様になるのはまだ当分先みたいだ。
…それが男であっても、女であっても。
でも、あたしちょっとファンクラブに入ってる娘達の気持ちがやっぱり、わかってしまったから。
きっと、皆叶わない恋とか、してるんだなぁ…みたいな。
…いや、なにも皆が皆、あたしみたいな特殊な例なわけじゃないだろうよ? まさか(笑)
それでもやっぱり、現実は厳しいから。
だから叶わない恋なんかより、あたしというボーイッシュでクールでしかも顔が良くて?…そんな体の良い象徴で、気を紛らわせている…。
そんな所が、あるような気がして。
だから、あたしはそんな、「体の良い象徴」とか「頼りになるお姉さん」で居続けようかな?なんて。
そんな風に、考え始めたのだった。
*…………………POSTSCRIPT…………………*
Pazzle of heartsの…順編です♪
このシリーズは、全部で四部構成にします。
そして…「順編」と言った様に、毎回主人公が変わるんです。
…ええと…見りゃわかると思いますが(笑)、この話で出てきた彼女&彼ら達が主人公ズです。
それぞれのちらばった、ジグソーパズルの様な心…たくさんの、気持ち。
どう組合わさって行くのでしょうか。
そして、符合しないピースも勿論沢山あるはずで…
そんな気持ちのピース達は、一体どこへどう当て嵌まるのでしょうね?
順で書きたかったのは…男の子が好きな男の子に恋しちゃってる女の子(笑)
嫉妬っていうか…醜い気持ちにもなるよねぇ…
複雑だわ(笑)
第二部は…気が向いたら書きます。
…って言っとかないと、真白書けないんです(笑)
でも…次の人が一番、難産な気がする…
あうぅ(泣)がんばる…
2007.04.02 真白茶飴
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