ふたり

クゥさんに裏切られた
クゥさんに裏切られた
クゥさんに裏切られた

そうでないということはわかっているのに、じくじくと痛み出す心が、どくんどくんとそんな言葉を吐き出している。
ふたりでいることが当たり前になっていた。
やっと、僕だって幸せになれたんだって…ずっと思ってた。

…正直、僕はソウルイーターのことなんて、怖いと思ってなかった。
別に…、殺されたって構わないし、それにクゥさんが持っている紋章に殺されるならそれこそ本望だ。
そりゃクゥさんと想いの通じたあの日、小さな宿屋で暴走しかけてたソウルイーターの気配には確かに恐怖を感じたけどさ。
でもだからって僕は紋章に負けるだなんてなんか悔しかったし、それに…やっぱり僕はこの手に輝く盾の紋章があったから…それがこの、無根拠な自信に繋がったのかな?
僕にとっては、何故クゥさんがいつまでも紋章の影に怯えているのかが不思議だった。
…そりゃ、わからないでもない。
あんなどでかい威力の紋章だし、今まで沢山の人の命を吸い続けて来た紋章なわけだし。
………理解は、してた。
でも、その紋章一つにずっと囚われているクゥさんを見るたびに僕はイライラして…ぶっちゃけ、紋章相手にものすごい嫉妬をしてた。

紋章、
紋章、
紋章…

僕らは確かに紋章に振り回された人生だと、言えなくもない。
でも、僕は僕の手で自らあの戦争に身を投じたし、そして自ら締結しようと動いた。
宿星だとか、運命だとか、紋章だとか…そんなんじゃなくて。
世の中は人の意思によって動いてるんだって、僕はいつでもそう思ってたから。

僕は元々孤児で、ゲンカクじいちゃんに拾われる前は、それこそ…本当、何をしたって生き延びてやるって、僕は根性で日々を生き抜いてた。
物心ついた時には、すでに一人だった。
親の顔なんて覚えてない。
ただ、日々を生きる為に…人を騙したりとか、傷つけたりとか…それすらも日常で。
僕はそんな、人間とも思えない様な生活を続けながらも、ゲンカクじいちゃんが現れるまでしぶとく生きてた。

辛かろうが何だろうが僕がいつもしっかり前を向いていられた理由…、それは正直、小さい頃の生活の方が凄惨を極めていたから。
あの頃にもう一度戻るくらいなら、今がどんだけ苦しくったって、全然平気だった。
…暖かい『家族』という居場所をくれたナナミ、彼女と僕の二人の生活が保たれるのであれば、僕は戦争の中心にいようが構わなかった。
ナナミ…ナナミも、孤児で…僕らは家族であると同時に、同じ境遇を経てじいちゃんに拾われた…仲間、でもあった。
荒んだ生活をしていた僕に、日々を明るく生きる事を、そして人の温もりを…、教えてくれた。
…あの頃ほど、人と人とが優しさを分け合うということがどんなにか大切だなんてことを実感してた時は…ホント、なかったと思う。
そしてそれはやはり今でも、僕の中に大切に息づいている。

クゥさんを好きになったのは…、それはホント、最初は単なる憧れだった。
元は小さなレジスタンス組織をその手腕で大きく育て、父親を殺しながらもその目的を達成した隣国の英雄…。
でも、新しく出来上がった国の王にはならず、紋章と共に姿を消してしまった、悲劇の人。
どんな人なんだろう。
僕は憧れた。
知りたい、僕とは全然違う人。
一体何をその目で見て、その耳で聞いて、その身体で経験したんだろう。
僕はクゥさんの英雄伝が好きで、色々な所から情報を集めた。
…でも伝え聞くのと実際会うのでは…本当に違うんだね。
出会った彼は、実は大変とんでもない人だった。

自分を責めて
痛めつけて
…それで戦うべき目の前の事実から目を反らしてて

僕は驚いた。
…強い人だって、思ってた。
でも、実際の彼は、痛ましくて、儚げで…
常人離れした綺麗な容姿を持つくせに、酷く人間臭さを感じさせる弱さを持つ人。

「人を殺す事が怖い」(だから人に近寄らない)
「大切な人を無くす事が怖い」(だから人と親しくならない)
「人と一緒にいる事が怖い」(だけど寂しくてたまらない)

凛とした、人を寄せ付けない雰囲気の裏には…そんな気持ちが隠されていて。
僕が一歩近づくたびに…怖がっていたけど、でも本当はとても期待してたんだよね?
僕はクゥさんの心に容赦なくズカズカと土足で入り込んだ。
…だって強引にそうしないと、とてもこちらを振り向いてくれそうになかったから。

僕は幾度もクゥさんに伝えた。
「大丈夫」
「安心して?」
「僕が守るから」
「もっと気楽に考えて」
…でもクゥさんには、きっとそれの半分程も伝わっていなかったんだ…

結局クゥさんは僕から離れて行った。
僕が伸ばした手を振り払って。
僕達はおかしいね。
最初はクゥさんが伸ばした手を僕が振り払ったのに、僕はクゥさんに告白して。
今は僕が伸ばした手をクゥさんが振り払って、それでクゥさんは僕から逃げて…
クゥさんから始まって、クゥさんで終わってる。
酷いや、僕、それってクゥさんに振り回されてるだけじゃないか。

僕はね、僕とクゥさん…ふたりが一緒になれた事は、互いにとって本当に幸せな事だと思ったんだ。
僕は、もう二度と、一人になりたくなかった。
クゥさんは、もう二度と、ソウルイーターに怯えたくなかった。
ふたりで一緒に…、もう争いも何も関係無い、小さな家でささやかに暮らし始めた事…
僕はやっと、この人生で一番の幸せに辿り着けたと思ってたんだ。
…クゥさんにも、これが一番だと…、そう感じていて欲しかった。

…終わりになんて、しない。
一人になんて、ならない。
…知ってますよね、クゥさん。
僕は単純馬鹿だから…いつまでたっても、貴方の事を諦めないって。
貴方は僕が一番嫌いな「裏切り」で僕を離そうとした様だけれども…、頭の良いクゥさんらしくないね?
計算間違いだよ。
僕のド根性の方が、僕のトラウマより強いみたいだ。

「…さて、それじゃそろそろ行きますかー」
僕は二人で数年過ごした想い出の家の中を綺麗に片付け、そして旅荷を作った。
しっかり鍵を掛けて、荷物を背負う。
ふと思いつき、僕は手の中の鍵に鎖を通し、自分の首に掛けてニマッと笑った。
「クゥさんの心の扉を開ける鍵は…僕が持っている。なぁんてね」
服の中にそれを隠すと、
「よし、目指すはジョウイんトコ!目的はー紋章強奪っ♪」
やけに嬉しそうに言い放った僕は、真っ直ぐに空を見上げた。
まるで旅立ちを祝うかの様な真っ青な空。
一昨日までの大雨が嘘の様。
「行ってきまーーーす!!」
元気よく走り出した僕の目には、びっくり驚いたクゥさんの顔が見えていた。
絶対に、帰ってくる。
終わらせなんてしない。
裏切らせなんて、しない。
絶対に—、ふたりの幸せを、この手にもう一度。

僕にさよならって言ったこと、死ぬ程クゥさんに後悔させてやる。

服下の鍵を握って僕は密かに誓ったのだった。


*…………………POSTSCRIPT…………………*

旧サイトを改装中という名の放置ぷれいの刑に処していた際、書いた物のうち一つ。
そして、「その手を振り払う勇気」の続きにあたるお話。

とてもトキらしい話です。
トキはー、クゥと違って、すぐに諦める様な子じゃありません
…や、なんかもう…言いたい事は、トキが本文で全部言ってくれました。
後は彼に任せます。
無事、クゥを取っ捕まえてやって下さい。
あんなに馬鹿な子、どうかこれからも、よろしくお願いします。
…なんて言ったら、「マスターなんかに言われずともっ!!」とか何か、返事が返ってきそうです(笑)
ええはい、頑張って下さい。
…ええ?
本当に頑張らなきゃいけないのは、もしかして…もしかしなくても、真白なんですか…?(笑)

『せつない30の言葉達』…「1 ふたり」より。


 2007.04.02 真白茶飴

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