ぷち。
「あ」
つぶしちゃった。
なんてはかない…
僕には助けゆくすべもない。
守ろうといくら優しく手を伸ばしたって、いつだってつぶしちゃう。
払いのける手の力の方が、いつだって大きいから。
虫は見えない大きな力を恐れるだろう。
人は守ろうと伸ばす手の大きさに守るのをためらうだろう。
…僕は。
紙魚
「ク〜ゥさ〜んv」
「…何?」
そっけなく答えるけど、これが僕なりの最低距離。
これ以上は近づけない。
同盟軍に手を貸してから三週間。
僕はこの距離をずっと保ち続けている。
そっけなく、冷たく。
…してるんだけれど、この同盟軍軍主、トキは全くをもってその警告に気付かない。
僕の持つ死神は、いつだって腹を空かしている。
凶暴化するその力に、やっと押さえる術を身につけてきたと思ったのに。
こうも好意を持たれるのは危ないと。
散々邪険にしたのに…トキがグレッグミンスターに来る頻度といったら…!
最初は、その太陽のような明るさに惹かれ、つい弟を持った気持ちで手を貸すことを承諾してしまった。
でも、このまま…この憧れのような、羨むような気持ちのままで止めようと。
ただ見守る、それだけ立場に甘んじようと。
それなのにそれ以上踏み込んでくるのは制約違反だと思う。
だから僕は幾度と無く言ってきた台詞をもう一度吐こうと口を開く。
「あのね、トキ………って、わっ!」
「く〜ぅ〜さ〜ん!!」
ガバッと抱きつかれる。
……………気を取り直してもう一度。
「あのね、トキ……………何度も言ってるけど、あんまり僕に近寄らないでくれる?
手は貸すって言ったけど、僕は……………ぐっ」
ぎぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ……………っと抱きしめ…抱き締め……………むしろ首絞められる僕。
「ト、キ、くっ…くるしっ……………」
「っ!?
ああっ、クゥさん!!
済みませんっっ!!」
急いで離すトキ……………死ぬかと思った……………
死なないけどさ。
ていうか話聞いててくれたんかな、この軍主。
「あ、えーとそれで……………何でしたっけ?」
やっぱ聞いてなかった…。
僕は再度気を取り直してさらに再びもう一度言う。
「だからね、僕にあんまり近寄らないでくれる?って」
トキがポカンとした顔をする。
「どうしてですか?」
「手を貸すとは言ったけど、僕はそんな風に君達と馴れ合う気は無い。
そんなつもりならさっさと帰るよ」
「またまたそんなこと言ってー!
クゥさんはちょっと神経質すぎますよー?
もうちょっと気楽に物事考えましょう!!」
これは……………やっぱりわかっていない。
毎度落胆することであるけど、僕の危惧ってもんを、まったくをもって理解していない。
これ以上近づくな。
その言葉にどれほどの意味があるのか…僕は、トキを。
…だから僕はトキに冷たく接した。
だからこそ、そうしたんだ。
これは僕の最低距離。
トキのことを考えるなら、一切関わってはいけないんだろうけど。
これは僕のわがまま。
けどそうせずにはいられなかったから。
それほど、僕はトキを。
「とにかく。神経質でもなんでも、僕はできない。だから」
これ以上近づくな。
暗にそう言った。
「それに…」
「それに、何ですか?」
小さくつぶやいたその言葉をめざとく聞きつけたらしい。
あんまし…言いたくはないけど。
「…トキは、恐くないの?」
「へ?」
「…っだから、僕が恐くないの?」
「どうしてですか?」
「何故って…トキも見たでしょ、コウ君を助ける時に。」
黒い、紋章を。
これさえなければ。
でもなかったら僕はあの戦争を終わらせられなかった。
「見たって…ああ、あの紋章ですか。
それが何か?」
「だからそれが恐くないのかって!」
いい加減イライラして答える。
ほんっとこいつってっ……!!
「あ、なんだ、そのことですか」
トキがポンと手を打つ。
その仕草と言葉は僕が溜めていたものを爆発させるには十分だった。
「…………………なんだって、何?
ねぇホント君ってわからないの?
この紋章は危険なんだよ?
僕と親しくなればなるほど危ないって…知ってるよね!?
僕がこの紋章でどれほど苦労してきたかホントにわかってる!?」
「え、ど、どうしたんですか?」
トキが僕の剣幕に驚いている。
なぜなら僕は今まで感情を抑えていたから。
あまり親しくならないように、抑制していた。
これ以上近づかれないための予防線。
解放軍時代で僕はずっとリーダーである自分を演技で作り上げていたから、感情を抑えることなど造作もなかった。
でも、朝読んでいた本にいたんだ……………紙魚、が。
助けようとしたらつぶしてしまって。
そのさまになぜだか気がささくれだった。
そのせいか僕は今日いつもよりイライラしていたんだ。
僕は今更ながらに気付き、抑えようとする。
「どうしたもこうもっ…!
っとにかく、僕に近寄るな。
君のためにも」
そう言って背を向けた僕の後ろから声が聞こえた。
「…なんだ、そういうことだったんですか!」
ひくり、と僕の頬が引きつり、僕は思わず振り返ろうとする。
「なんだとは…!」
「大丈夫ですよ」
言い返そうとした言葉を遮り、トキが僕を後ろから抱き締めた。
さきほどとは違い、優しく、包み込むような。
「っ!?」
「大丈夫ですよ、クゥさん」
僕はその抱き方に驚いて、トキから離れることさえ忘れていた。
力の大きさに、怯えもしない。
それどころか僕を優しく抱き締めるなんて。
「僕には片割れとはいえ、この紋章があります」
抱き締めたまま言うトキ。
「それに、僕はそう簡単にやられませんよ?しぶといのにだけは自身があります!」
こちらからは見えないが、多分にっこり笑っているのだろう、声が明るかった。
「…そこまで、悩まないで下さい。僕は大丈夫ですから…もっと気楽にやりましょう?」
「……………」
「だから…馴れ合うとか…そんな悲しいこと言わないで下さい」
「……………っ…」
その言葉に、僕はピクリと反応する。
トキが身体を解いて、僕の肩を引いて顔を見た。
「僕はもっとクゥさんと仲良くなりたいです。
もっと色々話したりとか、教えてもらったりしたいです」
トキはやっぱりにっこり笑っていた。
僕は……少し、身体を硬くしていたものがほぐれたような気がして。
単純だけど素直なトキのその気持ちに、頑なな心がゆるんだようで。
トキの顔を見遣る。
にこにこと嬉しそうに笑っているトキを見て。
なんだかしてやられた気がしたけれど。
僕はトキの右手を見た。
ま、虫にだって刃向かえる牙を持ってるかもしれないから。
それは歯につくするどい刃だったり、毒だったり、甲羅の如く固い盾であったり。
放っておいても、どこかでしぶとく生き続けるかもしれないし、
もしかしたら永遠に続きそうなつらつらと退屈な文字の羅列に彩りを加えてくれるかもしれない。
僕には大きな力があるからね…
守ろうと伸ばす手を収めて、ただちいさなその存在を微笑んで見守っていられる…そんな。
そんな、存在に。
*…………………POSTSCRIPT…………………*
こ、こんなに長くなるとは思わなかった…………!!
しかも当初の脳内予定では、クゥが怒るハズではなかった…………
てか指示語が多くてちょいと小難しい話でしたねー。
時間軸は2主がバナーで坊ちゃんを仲間にしてから三週間経った頃なんですけど、
この時はまだ二人の間にある感情は友情です。
抱き締めてますけど友情なんです!!(主張)
でもこれは愛情への上り口ですね(笑)
ここからだんだん芽ばえていくんです、愛が(爆笑)
2004.11.18 真白茶飴
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