夢売り人
「すみません、夢が欲しいのですが…」
「はいはい、どんな夢をお望みでしょう?
世界的な壮大な夢でしょうか?
それとも家族と一緒に暮らす、小さな夢でしょうか?
それとも南の国へ行き、悠々と過ごす夢?
それとも北の国へ行き、毎夜綺麗な星を眺める夢?」
その店の主人は、「夢」と口にする度に、ピンク色の液体の入った小瓶や、浅葱色の様な不思議な色の液体の入った小瓶などを客の目の前でふるふると振ってみせた。
「…いえ、僕には夢が無くて…夢が欲しいんです!僕にも、何か夢というものが欲しい!」
客はそう言ったが、主人はゆっくりと首を振り
「お気持ちはわかりますが…それは困りますねぇ。まずはどういった夢をお求めか…希望を教えて頂かなければ」
「え…っ、どういった…ですか……うーん…どういった、夢…」
「例えば…規模の大きな夢であるのか、それとも小さな夢であるのか」
「それは…えっと……中くらい、というのはありますか?」
「中くらい…ふむ、そうですか……」
主人は顎に手をあて、少し考える様なそぶりを見せる。
「大きすぎるのも…持ったって、困るだけですし……かといって小さすぎるのも…つまらない気がします。………あの、中くらい、というのは…やはりあまり無いものですか?」
「ああ、いえ、勿論ございます。当店では古今東西、色々な方からの夢を頂いておりますから。して…中くらいの中でも、特にどういったものが?」
「特にどういった……うーんと…」
「例えば…頭を使うものが良いのか、身体を使うものが良いのか」
「…え?頭か、身体…か、ですか…?」
「ええ。とは云いましても…ひとえに「頭」と「身体」と云いましても、本当に様々なものがございますよ?頭でも…単に小物屋で物を売る様な単純な計算から、この国を正しき道へと導く法律を考える等といったものまで。身体でも…大工の様に力仕事もございますれば、噺家の様な単に口を使う事まで。実に、様々」
「そうですか…ならば、僕は頭を使う夢が良いです」
「中くらいで…頭を使う夢、ですね…ふむ」
「昔から不器用で…でも、何か物事を考えることだけは好きだったんです。あの…こんな僕でも…夢は買えるものですか?」
「ええ、勿論。当店ではどんなお方にも、夢をお売りしておりますよ。お客様もご存知でしょうが…当店の夢は、買ったからと云って、必ずしも叶うものではございません。ですが、決して諦めてはいけないのですよ…もしお客様自身の力で、他の夢が見つかった場合以外は。つまりは、他の夢が見つからない限り、お客様はずっと、買った夢を追い続けなければなりません。…おわかりですよね?」
「………はい、勿論知っています。それがこのお店の「夢」なんですよね」
「ええ、ご理解を頂けて、ありがとうございます。して、中くらいで、頭を使う中でも、特にどういったものが?」
「えぇっと…どういったもの、ですか…」
「例えば…お金が関係するものなのか、それともお金が関係しないものなのか」
「お金、ですか…」
「ええ、とは申しましても、つまりお客様は「仕事」の夢がお望みなのか、それとも「仕事」とはまた別の夢をお望みなのか…」
「なるほど、「仕事」であるならば、確かにお金が必ず関係しますね。」
「ところが。これが一概に言い切れません。当店には希少な夢も沢山ございまして…まぁ、これはあまり希少とは云わないのかもわかりませんが…中には「大金持ちになりたい」といった夢等もあるのですよ?」
「へぇ…なるほど、なるほど。では僕は…お金が関係しない夢が良いですね」
「ふむ、中くらいで…頭を使い、そしてお金の関係しない夢、ですか…ふむふむ」
「えっと…お金が関係していない方が…なんか良さそうだなって思って…お金って、多ければ多い程良いけれども…でも、一番大切なのは、自分の気持ちだと思うので。…不思議ですね、そうやって考えているだけで…なんだかちょっと、僕にも夢がある様な気がしてきました」
「ええ、それも当店の仕様でございますよ?ほら、この店に漂っているこの薫り…これはですね………」
主人と客はその様に話を続けていった。
やがて、ある所で主人はパンと両手を合わせ、そこで質問を打ち止めにした。
「わかりました。お客様の夢が決まりました。それでは…」
主人は後ろを振り向き、そこにあった戸棚の一番奥から、翡翠色のなんとも不思議な色合いをした液体の入った、小さな小さな小瓶を取り出した。
「お客様の夢は、こちらの液体の中に凝縮されております。…お客様は運がよろしくていらっしゃる。この夢は…大変希少である上に、この小瓶一杯以上のストックは、もう無いのですよ?」
「ええっ、本当ですか!?」
「ええ。それに…私はどうも最初から予感がしていたのですよね。どうにもお客様にはこの夢が似合いそうだと。…まぁ、それはこの店の店主としての長年の経験と…勘が告げたものですがね」
「そうなんですか…ならばやっぱり、僕はその夢を持つ運命だったのかもしれませんね。」
主人はその言葉ににこりと微笑みを返し、その小さな小さな小瓶を客に渡した。
客はその瓶を受け取り、そして主人の云う額を、主人のいるカウンターの上に載せた。
「その夢は今ここで飲んで下さい。外に持って行っては効果が薄れてしまいますので…」
客はちょっと不安そうな顔をしながらも、その液体を飲み込んだ。
「………特に、なにもおきませんね…」
「ええ、それは勿論。当店の夢は…ゆっくりと、お客様の身体に染み込んでいくものです。まだ、効果はございませんよ。人によっても…それぞれ個人差等もございますし。それより…この店の夢の特色を…覚えておいでですよね?」
「はい。僕は僕自身の力で他の夢を見つけない限り…この夢を諦めません。例え叶わなかったとしても…追い続けます。それがこの店の「夢」なんですよね」
「ええ。そしてそれから…この店の事は、決して誰にも口外してはなりません。…ただし、お客様の様に、「夢の無い人」以外には…の話ですが」
カラン
主人はカウンターの中から出て、扉を開ける。
「この店を出たら、お客様はもう、「夢の無い人」ではありません。夢に向かい、努力をして下さい…私も応援しておりますよ」
「はい。ありがとうございました」
「…またいつでも遊びに来て、そして私に「夢」まであとどれくらいなのか…語ってくださいね。それが例え…叶いそうな見込みがない時でも、あともう少しで叶ってしまいそうだ、と云う時でも…いつでも」
「はい…また今度、経過を話しに来ます」
「ああ、言いそびれました。当店の夢は、一生に一度しかご購入いただけませんので…お忘れなきよう」
客はにっこりと笑い、一つ会釈をし
「わかっています。…それじゃ、また」
「ええ、いってらっしゃいませ…」
*…………………POSTSCRIPT…………………*
力つきました…(笑)
イエ、本当は客が「夢」に辿り着くまで主人が質問攻めにするトコまで書こうかとも思っていたのですが…
異様に長くなりそうなのでやめときました(笑)
…つか、似た様な形式の会話文がぐだぐだ続くだけなので、むしろ飽きるだろうし(笑)
やめときました。
「夢の無い人」に「夢売り」をするこの店の主人。
…夢、欲しいですか?
2007.04.17 真白茶飴
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