倖せ  一宮由香


これから新たな年になる、そんな日の夜明けを、最愛の人と見た。
また一年、共に歩めますように。
そして、出来るなら…

そんなことを、朝日に祈った。





「君は、何か祈ったかい?」

聞けば、やわらかい笑みが返ってくる。

「えぇ。変わってほしい事と、変わらないでほしい事を」


穏やかに告げるその表情が、
先程の朝日より神々しく見えるのは何故だろう。
彼女が背にしている窓から惜しげもなく降り注ぐ光のせいだろうか。

いずれにしてもその光景は、
私を新たな高みへ導く勝利の女神の神託にさえ見えた。



「変わってほしい事、とは?」


女神に…いや、リザに尋く。
リザは、茶色と言うにはやや色素の薄い瞳をまぶたの下に隠したまま告げる。


「勿論、ロイの肩書き。ついでに私のも、ね」

そう言って体をゆっくり傾け、私の胸に上体を預ける。
求めに応じて、彼女を抱きとめ、金色の髪に指を紛れ込ませる。
私は額に唇を降らせ、リザは家でも珍しいことに、思う存分甘えて。


「それは嬉しいな。
きっと、今年も何か事件が起きてくれるだろう。
そこで活躍して、2人揃って昇進といきたいところだな」

リザの目を覗き込んで言えば、彼女は苦笑して。

「別に、何か起こるのを期待してるわけじゃないんだけど、
結果的にはそうなるわよね。
どこかで活躍や実績が認められないと昇進できないんだから」
「誰かが仕事に失敗したり、
どこかで血が流れなければ…だな。
何とも因果な職業だ」

彼女と同じく、苦笑が私の顔にも浮かぶ。

人の不幸の上に自分の栄光を築くこと、いつも心に留めていたことを、
年も改まったその日に確認できたのは善いことかもしれない。
一年の計は元旦にあり、と言う言葉が東の国にあるそうだから、
ならばこれで今年一年、謙虚に生きられるのだろうか。

そう告げると、リザは今度こそ苦笑でない、いつもの美しい微笑みで。


「謙虚な野心家というわけね。
矛盾しているように聞こえるけど、良いかもしれないわ。
謙虚さを見失えば、自信だけが大きくなって視界を遮り、
ほんの小石にも気付かずに足下をすくわれることになるから」

それに、自信家なのに周りへの気配りを忘れない、
そんなところが貴方らしさでしょう?
と付け加えられ。

不測の事態に、私は不覚にも赤くなってしまった。


「この話の流れでそれを言うのは反則だろう、リザ…」


今更という気がするが、とりあえず赤くなった顔を彼女の肩に載せ。
話題転換を図ってみることにした。



「そう言えば、リザ。 『変わってほしくない事』とは、何を祈ったんだい?」

するとリザは、楽しそうに笑って。

「勿論、私達の関係。
ずっとこのまま隣で、あるいは背中合わせで生きていけたら…ってね」

いたずらっぽい響きの声がする。
あぁ、見なくても分かる。
きっと今、更に顔を上げるに上げられなくなった私の心情を見越して、
くすくす笑いながら次は何を言ってやろうかと企んでいるに違いない。

しかし、だ。
このまま勝ち逃げを許す私ではない。
今は、以前から言おうと思っていたことを、丁度言葉に出来る絶好のチャンスだ。


「リザ…」
「何?」


顔はまだ、上げないまま。
そのタイミングは、慎重に計らなければ。
これは、一年の計どころではない。
これからの一生を賭けた、大事な誓いだ。



「私も似たような事を祈ったんだ。
『また一年、リザと共に歩めますように』とね。
ただ、それともう一つあるんだ」
「…何を祈ったの?」





「出来るだけ早く、リザに大総統夫人の座をプレゼントできるように、さ」



言葉と同時に視線を上げると、一瞬遅れで真っ赤になったリザの顔が見えた。






出来れば、こういう他愛もない瞬間をずっと二人で生み出していきたい。
そんな、ささやかなことに倖せは宿るから。





年明けて、朝からいちゃついてる二人。
リザさん、朝日を二人で見るためにロイさん家にお泊まりです。
でもきっと、12/31日の夜は
「朝早くに起きなきゃ見れないんですから、
今日はあまり夜更かしできませんよ」
とか言われてそうですね、ロイさん。

お気付きの方もいらっしゃるでしょうが、
ロイさんが祈った『もうひとつの事』とは、
『大総統夫人〜』の方ではなくて
『他愛もない瞬間〜』の方です。
出だしだけ揃えたんですが、どうも分かりにくい;

あ、因みにプロポーズの方はこの日祈ってないのではなく、
いつも心に秘めている最重要事項扱いです(笑)。


それでは、ここまでお読み下さいましてどうもありがとうございます。


'03.12.23  一宮由香 拝




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