ちょっと大人の色気がただようその人は、2日に1回はバーに足を運ぶという。
ちょっと背伸びしたい年頃のオレは、ねだって連れて行ってもらうことになった。


雪国



「おや、今日は可愛い恋人をお連れですね」
「まぁ、たまには社会勉強って事でな。
 あと数年で成人だし、もう立派に大人に混じって渡り合ってるし…大した奴でさ」
「それはそれは」


バーテンダーと二言三言交わし、カウンターに。
いかにも馴れたその様子が、あぁ、やっぱりこの人は大人だもんな、と思わせる。
ほんの10才しか違わないのに、10才も違うんだ。


「オレは…雪国。エドには…ベリーニを」
「はい」
「…聞き慣れない世界」
「だろーなぁ。あ、大将に頼んだのはアルコール度数低いから心配すんな」

使ってる酒もスパークリング・ワインだから、初めてでも飲み心地はそう悪くないぞ。
笑ってオレの頭を撫でる少尉に、なんだか悔しくなる。
そりゃ、ジンとかはさすがに無理だろうけどさ…子供子供言われてるみたいで。





「どうぞ」

出された液体は、オレンジ色をしていた。
微かにただよう桃の香り。
一口。


「…甘いな」
「糖分多いしなー」

聞けば、レモンジュースに砂糖、シロップまで入ってるとか。
どーりで。

「少尉のは?…"雪国"って言ったっけ」
「キュラソーと甘いライムジュース使ってるが…
 ベースがウオッカだからなぁ。大将が飲めるようなもんじゃないだろ」
「ふーん」


きらきら、グラスの縁に付いた砂糖。
ゆらゆら、グラスの中のグリーン・チェリー。

ライムのせいかな、微かな緑に輝く液体。



…あぁ、似てる…



見入って、しまった。
魅入られた、のかもしれない。
「…エド?」 少尉の声で我に返る。 「何?」 「いや、やけにじっと見てたから…飲みたいのか?」 そうだな、それも良いかもしれない。 でも。 「そうじゃないんだけどさ」 「…じゃ何デショ?」 「ん…ただ」 ゆらゆら、グラスの中のグリーン・チェリー。 「ただ?」 ほの暗い照明が、心の抵抗を取り除く。 まぶしすぎない方が人は、正直になれるのかな? 「ただ、このグリーン・チェリーが少尉の目みたいで…見つめられてる気分になった」 いつもオレをドキドキさせる、少尉の目。 それが、でも何故か、一瞬曇る。 「へぇ…そう。それじゃ…」 不意に、オレの視界からカクテルグラスが消える。 少尉がオレとグラスとの直線上に割って入ったためだ。 間近に見える、少尉の顔。 「どーせ見るならもっと近くで、本物の方が良くねぇか?」 くらくら、するような目。 きれいなみどり色の、オレの大好きな目。 ゆらゆら、やさしく。 「そうだな…」 あなたを連想させる雪国も、好きだけど。 雪国よりもっともっと熱いあなたの方が、ずっと好き。 END
甘いですね…ま、カクテルネタなんで許して下さい。 以前ベリーニもどきをノンアルコールシャンパンで作ったんですが、 頭痛くなるほど甘かったです。 今回はその糖度が目安だったんで、 頭痛くなるような話になりました。 執務室に戻る