05 背中合わせ

背中を預けられる人間がいることは、とても幸せなことだと。
恩師に言われた言葉が、今、記憶の淵によみがえる。

基本的に、人はひとりなのだ、と。
その中で、稀に、自分を理解し、無言の信頼を寄せてくれる人間が現れる。

その人を見落としてはいけない。
できるなら、その人を理解するといい。
そうすれば、その人は自分が背中を預けられる人間になるし、
相手にとっても自分は背中を預けられる人間になる。

こんなに幸せなことはないだろう。

戦場と、日常と。
そこに見える武器の量の違い以外に、何の差があるのか。
人生は、常に戦いなのだ。
だからこそ私は、私に背中を貸してくれ、
また、私が背中を貸すべき人間を君に決めた。




「…と、いうわけなのだよ、ホークアイ中尉」
「大変光栄です。
 公私共にあなたのパートナーに選ばれたということですよね」
「いかにも。それにしても…やはり君は頭の回転が速いな。
 あんな持って回った言い方をしたのに、あっさりと装飾を落とされてしまった」

それとも私の語彙不足かな。
ひとりごちた私に、苦笑で返す。

「語彙の足りない人なら書類は書けないでしょう。
 少なくとも、期限いっぱいに追い込まれるまで遊びまわるという以外に、
 仕事上での差し支えはありませんよ」
「…何だか、痛烈に『遊ぶな』と言われた気がするのだが」

ポケットに入っている、デートの予定表が妙に重い。
彼女の気を引くために遊びまわっているという理由は、
この分だと、とうの昔に見抜かれているだろう。

…意味のない戦いを続けていたわけか、私は。
気づいて少し落ち込む。
無論自分の作戦の選び方が悪いのだが。

ため息のオプションつきで、中尉が口を開く。

「私も仕事をしている人間ですからね、
 『私と仕事のどっちをとるの?』なんて言いませんけど。
 でもせめて、『私と遊び相手と、どっちが大事?』
 と聞くくらいは許して頂けますか?」

一瞬、言葉もなかった。
彼女が、あのホークアイ中尉が、そんなことを考えていたなんて。

「…あまりの己の愚に言葉もない、とは言わないが…。
 君にそんなことを言わせてしまった自分を反省するよ。
 これじゃ、君に背中を預けてもらう人間になりたい、などと言う資格はないな」

私にとって、最大の失態ではないだろうか。
気を引くつもりで相手を傷つけるなど、まるで道化だ。

私は黙って、デートの予定表と付き合っている女性たちの名前や住所を書いた手帳を取り出した。
部屋の隅にある灰皿に狙いを定め、放り投げる。

中尉は、私が何をするのか注視している。
もっとも、予想はついているらしく、微かに笑みが浮かんではいるが。


手帳が重力に引かれ、灰皿に入る寸前で、私は白い手袋に包まれた指を鳴らした。









お分かりでしょうが、
マスタング大佐はホークアイ中尉の目の前で手帳と予定表を燃やしました。
これが大佐なりの愛の形、ということで。

…それにしても、ここで指をならすネタを使うつもりじゃなかったんだけどなぁ・・・。
なんか、大佐が勝手に動きます。

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