銃声が、響いた。
『ホークアイ中尉!!』
09 庇う
それは、不思議な感覚。
自分の意識が無いという事を、意識している。
意識している、というより、本能的に理解していると言うべきか。
『中尉…中尉!返事をしてくれ!』
ともかく、今、自分はマスタング大佐に抱きかかえられ、
必死で私の名前を呼び続ける大佐に、返事をしようとしていた。
ただ、それは、なんとも難しくて。
それよりもかなり容易に、
自分が何故、そんな簡単なはずのことに悪戦苦闘しているのかを思い出していた。
私は…そうだ。
市中見廻りをする大佐に同行して、大通りを歩いていて。
突然前方のある店から男が飛び出してきたのを見つけて。
その手に拳銃が握られているのを確認するや否や、ホルスターに手を掛け。
あの男の足を正確に射抜いたはずだった。
ただ。
運の悪いことに、その男は店を出るなり、私と大佐のいた方向へ走り出そうとしていたため。
私が銃を構えたのは、その男にも見えていたのだ。
そして…はっきりしたことは、よく解らないのだけど。
おそらく、相撃ちになった。
自分の視界が霞んでいくその中で、男が拳銃を取り落とし、
近くにいた憲兵がそれを取り押さえたところだけは、確認した。
同時に、これで大佐は無事だろう、と。
そう安心した。
そこまで、何とか思い出して。
ふと、無事でなかったのは自分の方だと、苦笑したくなり。
けれど、とにかく。
無事でなかったのが大佐でなくて何よりだと、そう思った。
これが何より、私の存在意義だから。
『リザ!大丈夫か!』
大佐が、まだ、私に呼びかけている。
呼び方は既に、「中尉」から「リザ」に代わって。
あぁ、勤務中はリザと呼ばないでと言ったのに。
血が止まらず、段々と青ざめていく私より、青い顔をした大佐。
声は、私が大丈夫でないなんて信じない、と言わんばかり。
そう言われても、こればかりは自分の意思でどうにか出来るものではないというのに…
可愛い人だと、そう思った。
だから、この可愛い人を、これ以上不安がらせたくない、とも。
思いが奇跡を呼べば良いのに、とさえ。
本当に、心の底から、そう思った。
「リザ!」
大佐の声が、先程までよりも近くに聞こえた。
そんなこと、抱きかかえられたまま距離は変わっていないのだから、ありえないはずなのに。
何故か、段々と、声が近くに聞こえた。
「リザ!返事をしてくれ!リザ!」
「…大佐…」
「…!リザ、大丈夫か!?」
そうか、意識が戻ったのか。
声を出すことに成功した自分を分析し、そう結論付けた。
だから、声が近くなったんだろう、とも。
痛くなるほどに私の手を握り締め、今にも泣きそうな顔をしている目の前の男に、笑いかける。
「そんな顔をなさらないで下さい。私は、ここに、いますから」
「リザ…」
嬉しそうに、あるいは、祈るように。
私の手を両手で包み込み、大佐は私にしか聞こえないような声で呟いた。
「私を守るのが君の仕事なんだ。君が、それを望んだ。
だから迷わず、私を庇う位置で撃ったんだろうがな。
しかし、それならそれで、私が目的を果たす日まで、私の傍から離れることは許さない」
我侭な、それでいて毅然とした言葉。
なんて、愛おしい人。
この人を守るためなら、この人の傍に居続けるためなら。
自分の意思の叶わぬことさえ自分でどうにかしてしまう程に、私は奇跡だって起こせる。
何しろこの身は、リザ・ホークアイという命は、
既にロイ・マスタングに捧げられてしまっているのだから。
この人が望むなら、奇跡くらいわけないのだ、と。
理屈ぬきに、そう確信した。
マスタング大佐を守ることがホークアイ中尉のお仕事です。
それなら、たまにはこんな事もあるんじゃないかと思いまして。
(日常的に在っちゃ困る)
それにしても救急車遅いですね。
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