14 空気越しに触れる 「中尉、ちょっといいかね?」 「仕事の事でなら」 にべもない、とはこういう事を言う…んだろうな、多分。 若干29才の大佐は遠い目をしながらそんなことを思った。 「今は休憩中なのだから何も仕事の話でなくても良いと思わないかね?」 「ですから申し上げているんです。 …休憩中くらい、『大佐のお守り』から解放させて下さい。 話は仕事が始まってから聞きますから、仕事の話でなら、ということです」 「その言い様はあんまりではないかね?」 暗に「お守りが必要なほどの無能」といわれ、凹む大佐。 しかし、くじけない。 「私は『マスタング大佐』としてではなく、 『ロイ・マスタング』として話がしたいといっているのだよ? それなら『大佐のお守り』にはなるまい…だから話を聞いてくれないか?」 「…子供の理屈ですね」 力一杯一蹴され、またも凹むマスタング。 このまま凹み続ければいつか穴が空くかも知れない…とホークアイはのんきな事を考えた。 しかし、そうならない事は彼女自身がよく知っている。 「でも、それだけに真実です。 私も少々反論の方向性を誤ったようですし、今回は折れて差し上げます」 それで一体、何の用ですか?という声を聞くや否や、マスタングの顔が明るくなる。 私も詰めが甘いわね、と心の中で反省するホークアイはしかし、まだ気付いていない… 相手を認識し、無意識に詰めを甘くした事。 「あぁ、用件だがね…良ければ今度、君に何か贈り物をさせてもらえないだろうか。 何が良いか悩んだんだが、君の言いそうな事というと『真面目な勤務態度』とか、 そのあたりが浮かんでしまって答えが出なくてね。 贈る相手に聞くのも感心できたことではないけれど…ね」 苦笑で彩られた表情は、しかし真意を測りにくく。 何故彼が自分に贈り物をするのか、その必然性が見出せないホークアイは首を傾げた。 「お言葉ですが、私に貴方から何かを贈られる理由がありません」 「おや、美しい女性に贈り物をするのに理由がいるのかね? …まぁ、どうしても要るというのなら、そうだな… 『日頃良く尽くしてくれる一番の部下に最大の感謝と愛情を込めて』なんてどうかね?」 大袈裟な様子でため息をつくホークアイ。 当然これはポーズだが、そうでもしないとこの子供のような上官はあしらえないのだ。 「…それで手を打ちましょう。 では、そうですね…『約束』を、頂きたいです」 「…ほぅ?」 さり気なく、けれど確かにマスタングの気を引くのに十分な言葉。 放たれた矢の効果を確かめ、ホークアイは秘かに快哉を叫んだ。 勿論、表面上は無表情に近いにこやかさで飾る。 「貴方はいつも、そう、今『一番の部下』と呼んだ私にさえ、何かを隠して接しています。 それを今後、もう二度としない、という『約束』をして下さい。 …隔壁越しに触れられるのは、信頼されてないようで、少し悲しいですから」 透明な隔壁越しに傷ついたホークアイの心が涙を流しているのを、マスタングは視て取る。 傷付けた自分が、触れて良いのか?という逡巡は、 しかし愛おしいという感情の前には砕け散るほか無かった。 「確かに、約束しよう…君との間にある隔壁は取り除く。 君と私の間には、何物も、何人さえも、隔ては存在し得ないし、させない」 「ありがとうございます」 ――そうだね、まだ何か君と私とを触れさせない物があるとすれば、空気くらいだろうね。―― ――それは良いですね。いざとなれば、貴方は空気だって錬金術で分解して下さるんでしょう?――
『空気越し』ってあくまでも物理的なものであって、 心理的な壁は何もないって事なんだろうなぁ。 (書いた本人も良く分かってない:コラ) 30題に戻る