彼女がまだ士官学校にいた頃から、射撃の腕は一流だと聞いていた。 上を目指せというばかりで滅多に人を誉めることの無かった教員がそこまで誉める人材とは、 一体どんな腕前をしているのだろうと興味を抱かずにはいられなかった。 15 撃ち抜く 彼女を休み時間に探そうとするなら、一番に射撃場に行けばいい。 かなりの確率でそこにいるだろう、というのは彼女の性格から判断されることで。 防音の施された扉を押すと、そこは硝煙と衝撃音の満ち満ちる世界。 愛しい人の姿を探し、視線を彷徨わせる。 「…いた」 気配を殺し、そっと彼女の居るスペースに近寄る。 この轟音と、それから鼓膜を守るためのイヤーカバーで足音は聞こえないだろうが、 しかし超一流の射撃手である彼女は人の気配に敏感だ。 こちらがよほど気を付けていても、どれほど集中している最中でも、ちょっとした事で気付かれてしまう。 「あ、大佐。珍しいですね、練習にいらっしゃるなんて」 「あぁ、雨の日でも無能ではないと思ってもらえるようにね」 「それは結構なことですが、困りましたね」 「何がだね?」 深刻な顔でため息をつくホークアイに、マスタングが首を傾げる。 「いえ…今日の朝、洗濯物をベランダに干してきたので」 「酷い言われようだな」 暗に『大佐が真面目になってるから雨が降るかも』と言われ憮然とするマスタング。 気付いているのかいないのか、更に追い打ちをかけるホークアイ。 「あ、でも。雨が降ったら降ったで今の段階ではまだ大佐は無能ですから、 それで釣り合いがとれるのかも知れませんけど」 「中尉…」 心の中で号泣しながらも、表に出すわけにはいかず。 ホークアイの隣の席を確保し、いつも上着の内ポケットに入れている銃を取り出す。 「さて…」 人型の的に向かって引き金を引く。 早撃ちした最初の3発は心臓部より少し上に当たった。 「可もなく不可もなく、といった位置ですね」 ホークアイは一言批評し、自分も構える。 マスタングが3発撃つのと同じ時間でリボルバーの弾倉を空にする。 「1発が首、2発が頭、3発が心臓か。6発をバランスよく使っているな」 「ありがとうございます」 「それにしてもよく、あの時間で3ヶ所に撃ち分けられるな」 「訓練すれば誰でも出来ますよ」 がしゃこ、と銃を展き、弾倉を再び一杯にする。 先刻よりゆっくりと発射されたその弾は、6発全て的の頭部にあたり、ひとつの穴を開ける。 …正確には、その穴は弾1つ分の直径というわけではなかったが。 「最初に開けた穴の周りを残りの5発で削り取っていったわけか。 同じ所に当てるより難しいんじゃないか?」 「そうですね」 頷くホークアイ。 「同じ所に当てる方がよほど簡単です。 毎回同じように狙いを付けておけば、簡単に射落とせますからね」 そう言って、銃をいつもの所に仕舞い、席を空ける。 立ち去り際、マスタングの左胸に人差し指を突きつけ「Bang!」と呟いて。 「次からは、休み時間にいる場所を変えますね」 すれ違い様に呟かれた言葉としなやかな笑みがしたたかにマスタングの心を撃ち抜いた。 「…噂に違わぬ、超絶技巧の射撃手だな」 いつの間にか自分が的にされているなんて、気付きもしなかった。 マスタングは、私もまだまだだな、と思う他なかった。
リザさんが大佐の下に付いてから約2年たった頃の話かなぁ。 大佐は既にプロポーズしてて、 リザさんは相手にしないフリしてた頃のイメージ。 30題に戻る