その日、一番最初に会ったとき、言われたい言葉。
1 おはよう
「やぁおはよう、鋼の。今日はずいぶんと遅くまで頑張ってたようだな」
さわやかオーラをまとって颯爽とオレの前に現れた人物。
名をロイ・マスタングという。
階級は大佐だから、少佐相当の地位しかないオレにとっては上官扱いになる。
もっとも、そんなこと思っちゃいないが。
その証拠に、思いっきりタメ口。
「おはよう…って。今、夕方じゃん」
「あぁ。しかし、今日君と会うのはこれが最初だ。だから、おはよう」
「ふーん、そんなもんかね。ま、いいけど」
さて、と大佐が呟く。
「今日は疲れたろう?家に温かいスープを用意してあるのでね。
さっさと帰ろうじゃないか」
「…大佐が作ったの?」
ハボック少尉からは、大佐の料理の味付けは微妙だって聞いてんだけど。
ボソッと疑いの声を漏らしたオレに、大佐が苦笑する。
「料理というのはね、美味しく作るポイントがあるのだよ。
逆に、それをことごとく実行しなければ微妙な味になる。
君やホークアイ中尉にならともかく、
野戦食等で他の男連中に私の極上手料理など振舞ってやるものか」
うわ、自分で「極上」とか言ってるし。
ホントいい性格。
あれこれ話しながら歩いていると、意外と時間は早く過ぎるものだ。
あっという間に、イーストシティにいる間の仮宿、つまり大佐の家について。
大佐がいない間に食事の準備をしてくれていたらしいアルが、
ちょこちょことテーブルの周りを動いて皿を並べていた。
「やっほ、アル。ご苦労さん」
「お帰りー兄さん」
挨拶を交わすオレとアルの姿をじーっと見ていた大佐が、そこで口を開いた。
「鋼の。そういえば君は、まだ言っていないと思うが。
…せめて、『いただきます』の前には言っておきたまえ」
にっこり笑って促す大佐に、やっと気付かされた。
「そっか。まだ言ってなかったっけ。…おはよう」
甘い甘ーい。になればいいなー。(「高い高ーい」風に読んで下さい)
別に付き合ってるわけじゃないのかも。
ただ、イーストシティに来たときは、
大佐の家にお邪魔になっているという設定が好きです。
夕方でも、その日の中で初めて会うのなら「おはよう」って、
なんだか芸能界みたいですが。
でもどこかで聞いた話、ある民族(だったかな)では、
朝起きて皆と顔をあわせると「おめでとう」というんだそうです。
「寝る」というのは「死」と同じか、隣り合わせの行為で、
今日もまた「起きて」、つまり「生きて」皆と会えたことを祝う言葉だそうです。
毎日死んで、生まれてくる。
(毎日が誕生日だから、特に生誕の日を祝う風習はないそうだが。)
それだと、生きてることの素晴らしさが桁違いでしょう。
軍人さんたちって、ひょっとしてそうなのかな、なんて考えたり。
一般の人よりは死に近い生き方な訳ですから。
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