「ただいまー」

そう、それは、何の気なしに。


5 故郷


「お帰り、エド、アル」

にっこり笑って、居間に飛び込んできたオレたちを迎え入れてくれる大佐。
そうか、今日は非番だって言ってたっけ。

「さて、そろそろいい時間だな。夕食を作らなくては」

言って大佐が立ち上がろうとするのを、オレが止めた。
アルに目配せし、部屋に行ってもらう。

「いいよ、今日はオレが作るから。大佐ほど上手くないけどさ、一通りなら作れるし」

その本、査定に関係あるやつだろ?
仕事の無い日くらいゆっくり読みなよ。

言葉だけを残して、台所に行く寸前で大佐の表情をちらりと見る。
微かに笑った口元は「OK」ってことだな。
よかった。







「や、見事なものだな」
「そう?」
「正直、君がここまで作れるとは思っていなかったよ。どこで教わったんだい?」

オレ作の照り焼きハンバーグを口に運び、最初の一言。
大佐に褒められると、なんだか無性に嬉しい。

「ダブリスにいる師匠のとこでね。住み込みだったから、家事も料理も仕込まれたんだ」
「それはそれは」

君と結婚する人は、自分ひとりで家事をしなくていいわけだ。
ぽそりと呟かれた一言に、何故か言い訳したくなった。

「た、大佐っ」
「…何かね?」
「オレ、結婚なんて考えてないんだけど?」

すると、くすりと笑って。

「まぁ、先の話には違いないが、伴侶は出来れば得た方がいい。
 共に歩む人がいるというのは、良い事とは思わないかね?」
「そりゃ、ヒューズ中佐見てれば思うこともあるけどさ。まだそんな人見つかんないしね」

ぐにぐに。
妙な照れくささと背徳感を隠すため、オレは付け合せのパスタをいじった。

あぁ、多分。
なんか照れくさいのは、大佐がオレの目をじっと覗き込んでくるからだ。
止めろよ。
そんな事は、きれいなお姉さんにでもしてろって。

混乱する一歩手前のオレ。
それが伝わっているのか、笑うことを止めず、あまつさえオレの頭を撫でだした大佐。


「そうだな、そうかもしれない。しかし、案外もう、出逢っているものなのかもしれないよ」
「…そんなもん?」
「人によるだろうがね」

規模の大小はあれど、結婚というのは、自分にもう一つの故郷を作ることだと思う。
いつでも自分を暖かく迎え入れてくれるところ、それが故郷だからね。
多分、家庭というのはそういうものだろうし、
だからこそ、伴侶とはどこで出会っているか分からないものだよ。
既に君が、安心できる人を見つけているなら、その人が君の伴侶となるのかもしれないね。


穏やかな表情で語る大佐に、オレは見入ってしまった。
見てるととても、安心感が湧いてきて…




…待て、オレ。
この話の後でそれじゃ、なんだかオレの伴侶が大佐みたいじゃん!
待て待て待て!

いやでも、なんか今日の会話はマジでそれっぽかった。
オレ、実家でもないのに「ただいま」つって、大佐が「おかえり」って。
その後晩飯の話?で、台所に立ったオレ。
でもって腕前褒められて喜んで。
その後、大佐に目を覗き込まれて照れてなかったっけ?

うわあぁぁぁ!
なんか本格的にやばいぞオレ!
軍人にはそういうシュミの人が多いって言うけど、オレはそもそも軍人じゃないし!
(てことは大佐はその可能性があるのか?いや、でもあの女好きが…)
でも、結婚の話になって感じてたあの背徳感は?
あれは、オレが大佐を…


ぐるぐるぐる。
本当に今度こそ、混乱したオレ。
あぁ、きっと、そんなオレの状態が手に取るようにわかるのだろう。
さっきから大佐がに肩震わせて笑ってる。

テメェ。
誰のせいでこんなに混乱してると思ってやがる。

オレは一旦思考を振り切って、食事に戻った。
向かいで大佐が妙に浮かれてるのが気にくわない。
何がそんなに嬉しいんだか。




食事を終えて部屋に戻った後、何だかこの話題はこれだけでは片付かないような気がした。
でも、正直苦手な部類の話だし。
とりあえず、ホークアイ中尉に相談してみようかな。
ハボック少尉もこのテの事は得意そうだけど、大佐に筒抜けになってると怖いしさ。


無理やりに話を終わらせて、今日のところは寝ることにした。

「伴侶」の話はともかく、ここがオレにとって、今一番落ち着ける所には違いない。
やわらかいベッドが今はもう無い家を思い出させて、とても落ち着いた気持ちで寝ることができた。



エド自覚未遂編。
あと少し。
因みに大佐は確信犯です。
あぁ、パスタ可哀想。


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