「暑い」
「そうだな」

少年が呟く。青年が返す。



12 真夏日



「暑い」


少年は同じ言葉を口にする。
これでもう、何度目だろうか。
それに対する青年の言葉もまた、同じものだった。


「そうだな」


とうとう根負けした少年が、違う言葉を発する。


「だったら離れりゃいいじゃねーかこのアホ大佐!
 暑いって言いながら人にくっつく奴があるか!あぁ?」
「暑いと言っているのは君で、私は同意しているだけなのだが」
「でも、結局大佐も暑いんだろ!?だったら離れろや!」


全力で青年を引き剥がしに掛かる少年。
しかし、力の差は如何ともしがたく。


怒鳴り散らして体力を消耗した少年は、
結局また青年にされるがまま、抱きつかれて膝の間に座る。
青年は、あやしているつもりなのだろうか、
少年のうなじに口元を寄せ囁く。


「ほら、大人しくしたまえエドワード。
 心頭滅却すれば火もまた涼しという言葉を知らないのかい?」
「はっ。火が涼しく感じるんならそりゃ、神経がどっか狂ってんだろーさ」
「そう言う問題ではなくて」


精神論の話なんだが、青年が付け加えれば、少年は頬を膨らませて。


「精神論ほどおめでたい物もないと思うけど。
 列車の操縦しか知らなくても、気合いで戦車を動かせるって事だろ」
「君はどうしてそう可愛くないかな…」


がくり、肩を落とした青年に隙を見つけ、脱出するなら今か、と図る少年。
しかしその考えはあっさりと看破された。


「私を謀ろうなど、14年早いよ」
「何その微妙な数字」
「私と君との年の差だ」
「…14年経ってとしても、オレと大佐の年の差が縮むワケじゃないと思うけど」
「・・・・・。」
「暑さで参ってんじゃないの?」


そう言えばそうか、ぼんやり呟く青年。
それでもなお、離れようとはしなかったが
その額に浮かんだ汗が、顔を動かした瞬間少年の肩に落ちる。

既に布を纏うことさえ鬱陶しい二人は、
窓から入ってくる僅かな風に無駄なく晒すため上半身を素肌にしていた。

そのせいで何の障害物にも止められることなく少年の肌を滑った汗は、
青年の官能的で不可止な視線を誘発する好機となり。


「…エドワード」
「何?」


こちらも暑さで思考の鈍っている少年は、
普段なら機敏に感じ取れるはずの身の危険に気付くことなく。


「水浴びでも、しないか?」
「いいね、それ」


何の抵抗もなく、青年の姿をした狼の前にその全身を晒すのだった。





あぁ、少年の姿をした美味しそうな兎に幸あれ。




最近脳みそが膿んでいます。 ちょっと前まで発熱するくらいで済んでいたんですが、とうとう化膿するとは・・・。 つか、今真冬突入、今日も雪が降ったのに、お題真夏日です。 今ひとつ実感わきません。 ダメですね、これじゃあ物書きとしては。 南極でハワイのパラダイスな様子を書けるように頑張ります。 (その前に南極に行く予定無し) 45題に戻る